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博之42歳異世界11か月後半。商会の面接は飯を食いながら

 商会として使う建物は、ひとまず決まった。

 横丁から近い二階建て。

 一階に受付と帳簿仕事のできる場所があり、奥には小さな倉庫。二階には住める部屋もある。

 次は人だった。

「よし。今日は面接や」

 博之が言うと、エレナが首を傾げた。

「横丁で?」

「面接いうても、飯食い会やな」

 ギルドから紹介された三人を、とりあえず横丁へ呼んだ。

 一人目は三十前後の男。

 帳簿も計算もできるらしい。

 ただし。

「酒好きで、たまに仕事を放り出します」

 紹介状にそう書いてある。

「香ばしいなあ」

「本人の前で言わないでくださいね」

 二人目は二十代くらいの女性。

 計算は正確。

 文字もきれい。

 だが、とにかく無口。

 以前の商会では、周囲と意思疎通ができないと言われて辞めた。

 三人目の男は、

「普段はかなりサボります。ただ、締め日になると異常に仕事が速いです」

 とのことだった。

「……全員クセ強いな」

 博之が笑う。

「銀貨五枚で優秀な人を、って言ったのは博之さんですから」

 ギルド職員にそう返されて何も言えなかった。

 結局、三人を長机へ座らせる。

「まあ難しい話する前に、飯食お」

「面接では?」

「飯食うのも面接や」

 博之は最初の男へ聞いた。

「ビール飲む?」

「いただきます」

「ほれ。冷えてるで」

 一口飲んだ男の目が開く。

「……冷たっ」

「それがうちの売りや」

「これはうまいですね」

 すると無口な女性が小さく手を上げた。

「あの……私は酒、飲めません」

「おお、そうなん?」

 博之はすぐに立ち上がる。

「ほな今朝売ってるやつ持ってくるわ」

「今朝?」

「果物潰して、牛乳と蜂蜜入れたやつ」

 冷却箱から取り出した飲み物を渡す。

 女性が恐る恐る口をつけた。

「……おいしい」

「ほんま?」

「はい。冷たくて……なんか、元気になります」

「やろ?」

 博之は妙に嬉しそうだった。

「朝これ飲んで仕事行く兄ちゃん結構おるねん」

 三人目も笑う。

「商会の面接で飲み物の宣伝されると思いませんでした」

「うち飯屋やからな」

 そこへ餃子。

 唐揚げ。

 豚の揚げ物。

 スパゲッティ。

 次々と皿が並ぶ。

「これも食べて」

「全部いいんですか?」

「食べてくれ。飯の好み合わんかったら長続きせえへん」

「そこ重要なんです?」

「俺には重要」

 三人は顔を見合わせながら食べ始める。

「この包んでるの何です?」

「餃子」

「初めて食べました」

「どう?」

「うまいです」

「採用!」

「早いですよ!」

 エレナがすぐ止める。

 笑いが起きた。

 少し場がほぐれたところで、博之は本題に入った。

「先に言っとくけど、給料そんな出されへん」

 三人が博之を見る。

「今まで面接来た人は月銀貨十枚とか言うてた」

「帳簿仕事なら、そのくらい求める人もいますね」

「うちは無理」

 博之はきっぱり言った。

「銀貨七枚くらい。それと飯」

「飯?」

「仕事の日はまかない出す。朝も昼も夜も、常識的な範囲なら食ってええ」

 一人目が唐揚げを見た。

「……この飯が?」

「そう」

「それは結構でかいですね」

「やろ?」

「ビールも?」

「毎日酔っぱらうほど飲むのはあかん」

「そこは駄目かあ」

「あんた絶対それで前の職場怒られたやろ」

「はい」

「素直やな!」

 また笑いが起こる。

 博之は少し真面目になる。

「別に接客してほしいわけちゃうねん」

 帳簿を見る。

 売上を集める。

 給金を計算する。

 在庫と仕入れを合わせる。

「それちゃんとやってくれたらええ」

「勤務中ずっと机にいないと駄目ですか?」

 三人目が聞いた。

「別に」

「え?」

「仕事終わってたら休んだらええやん」

「……いいんです?」

「なんなら商会の一室余ったら仮眠場所作ってもええで」

 エレナが呆れる。

「そこまでします?」

「やることやってくれたらええねん」

 博之は肩をすくめた。

「俺自身、一日中ずっとやる気ある人間ちゃうし」

「商会の代表が言います?」

「ほんまやで。俺なんかプラプラ歩いて、急に『唐揚げやろ』とか『朝飯売ろ』とか言うて、

 みんな振り回してるだけや」

「それでここまで?」

 一人目が横丁を見回した。

「今でこそな」

 博之は笑った。

「俺、この町来た時、一文も持ってへんかったから」

「え?」

「近所の食堂で薪割って飯食わせてもろて、倉庫の藁の上で寝てた」

 三人とも黙った。

「ほんで今でも、商会に引っ越すまではボロ小屋住みや」

「……博之さんも相当ですね」

「せやろ?」

「ギルドから聞いてた印象と違います」

「どんな印象やったん?」

「商売のやり手」

「やめて。そんな偉そうなんちゃうから」

 だからこそ、博之は言った。

「がっちりした人じゃなくてもええねん」

 愛想がなくてもいい。

 少しサボってもいい。

 酒好きでもいい。

「ただ、金だけは誤魔化さんこと。締める時はちゃんと締めること。あと――」

 博之は餃子の皿を指した。

「うちの飯、うまいって思ってくれる人がええ」

「採用条件、それですか?」

「結構大事やぞ」

 無口だった女性が、少しだけ笑った。

「私は……この飲み物、好きです」

「おお」

 三人目も唐揚げを一つ取った。

「俺もここなら、飯目当てで出勤するかもしれません」

「それで仕事してくれるなら十分や」

 一人目がビールの杯を上げる。

「俺は確実に来ます」

「飲みに来るだけはあかんぞ!」

 今度は全員が笑った。

 能力はある。

 でも、どこか少し社会からはみ出している。

 そんな三人を前にして、博之は思った。

 案外。

 おっちゃんの隠れ家商会には、こういう連中の方が似合うのかもしれなかった。

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