博之42歳異世界11か月後半。おっちゃんの隠れ家商会誕生wwww
翌日。
博之は、ずっしりと重い銀貨の袋を抱えてギルドへ向かった。
「これ、お願いします」
受付の台へ置く。
「銀貨四十五枚ですね」
「はい。商会の登録と、物件の保証金やら諸々込みで」
数を確認した職員が帳面を開いた。
「では、商会名を決めていただきます」
「おっちゃんの隠れ家商会で」
「……本当にそれでいいんですか?」
「なんで?」
「商会名ですよ。今後規模が大きくなっても残りますけど」
「変えられる時来たら、その時変えたらええやん」
博之は笑った。
「それに俺、無一文から始めてんねん。あんまり偉そうな名前つけたないねん」
「無一文から?」
「最初なんか飯食わせてもらう代わりに薪割ってましたからね」
職員が苦笑する。
「今では横丁を持っているのに」
「せやから戒めや」
博之は少し真面目な顔になる。
「この辺、字読まれへん子もおるし、計算できへん子もいっぱいおるやろ」
「ええ」
「全員救います、みたいなんは俺には無理や。でも店増やして、皿洗うとか掃除するとか、
できる仕事があれば雇ってあげたいとは思ってる」
そこから仕事を覚える者もいる。
計算を覚える者もいる。
ソラのように、店を出て別の道へ進む者もいる。
「俺自身も、商会の仕事増えたら店に立つ回数減るやろ?」
「そうなるでしょうね」
「その分、料理考えたいねん」
「料理ですか」
「唐揚げもサンドイッチも、朝のジュースも、思いついたらちょっとやってみた結果やから」
駄目ならやめればいい。
当たれば残す。
「俺、自分が料理の偉い先生やとも思ってへんし、商売の大先生やとも思ってへん。
せやから足の速さで勝負したいねん」
「なるほど」
「その戒めも含めて、おっちゃんの隠れ家」
「最近まったく隠れてませんけどね」
「それ言うな」
「かなり人集まってますよ」
「それでも隠れ家です!」
結局、帳面には正式に、
『おっちゃんの隠れ家商会』
と記された。
「……ほんまに書いたな」
「博之さんが言ったんですよ」
「まあええわ」
商会として使う建物についても、先日見た横丁に近い二階建てを押さえる。
「ただ倉庫が小さいねんな」
「別に倉庫を借りますか?」
「そのつもり」
酒と油だけでもかなり場所を使う。
共同仕入れを始めるなら、なおさら足りない。
「市場から届いたもん一回まとめて、そこから各店に必要な分出したいねん」
「では倉庫についても探しておきます」
「お願いします」
そして。
博之にとって一番面倒な問題が残っていた。
「あと帳簿やな」
「まだ決まりませんか?」
「全然」
数人面接した。
能力そのものはある。
だが月銀貨十枚を要求する者もいれば、横丁で働く人間を露骨に下に見る者もいた。
「うちは安い飯屋の集まりやからなあ」
「そこを気にされます?」
「するよ」
昼には労働者が来る。
子供も働いている。
冒険者も来る。
掃除の人も料理人も同じ場所で飯を食う。
「帳簿つける人が『私はあの人たちとは違います』みたいな感じやと、たぶん揉めるねん」
「ですが博之さん」
「はい」
「条件としては少し贅沢ですよ」
「やっぱり?」
「能力があって、人柄も良くて、安い給金で来てほしい、ですから」
「言われてみたら最悪の求人やな」
職員が笑った。
「一般論ですが、給金を抑えるなら、何かしら事情のある人を雇うことになります」
「事情?」
「能力はあるけれど、人付き合いが苦手ですとか」
「ああ」
「大人数の商会では馴染めなかったとか。口下手だったり、愛想がなかったり」
「それくらいやったら別にええけどな」
「本当ですか?」
「帳簿間違えへん、金盗まへん、最低限話できる。それでええよ」
「そこまで割り切れるなら、何人か心当たりがあります」
博之が身を乗り出した。
「ほんま?」
「能力はあります。ただ、一般的な商家では少し扱いにくいと言われている者たちです」
「問題児ってこと?」
「言い方は悪いですが」
「うち問題児ばっかりみたいなもんやからな」
「それ本人たちの前で言わないでくださいよ」
「言わへんわ」
少し考えて、博之は言った。
「ほな、その人ら一回うちに飯食いに来させて」
「面接ではなく?」
「最初から机挟んで面接しても分からんもん」
餃子を食べて。
唐揚げを食べて。
エレナやミサキ、リクと話して。
たまたまセラやユーリがいれば、冒険者とも同じ席に座る。
「そこで空気合うか見たいねん」
「変わった採用ですね」
「給料もそんな出されへん代わりに、まかないはちゃんと出すよ」
「食事込みですか」
「うち、それだけは強いからな」
「味には自信が?」
「まあまあや」
「そこは自信持ってくださいよ」
博之は笑った。
「ウルトラうまいかは知らん。でも毎日みんな食ってくれてる。それで十分やろ」
飯の味が合うか。
横丁の騒がしさが嫌ではないか。
子供や冒険者と同じ机で食えるか。
「そこ合う人の方が、長く続く気するねん」
職員はしばらく考えたあと頷いた。
「分かりました。では何人か声をかけてみます」
「頼むわ」
「ただし、本当に癖はありますよ」
「俺も大概癖あるから大丈夫や」
「それは否定しません」
「そこは否定して!」
銀貨四十五枚を払い。
商会の名前が決まり。
建物が決まり。
次は人だった。
おっちゃんの隠れ家商会。
まだ看板すらないその商会は、少し変わった人間たちを迎える準備を始めていた。




