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博之42歳。異世界11か月目後半。商会の形が見えてきた

 十一か月目も半分を過ぎたところで、博之は改めて横丁の帳面を集計した。

「……銀貨三十枚?」

「はい。この半月の利益です」

 エレナが帳面を見ながら答える。

「ほんまに?」

「博之さんが計算したんでしょう」

「いや、そうやけど。ちょっと怖なるな」

 少し前まで、半月で銀貨十枚残れば喜んでいた。

 それが今や三十枚である。

 特に大きかったのが朝だった。

「朝だけで利益、銀貨十二枚近くあるやん」

「サンドイッチがよく出てますからね」

「朝需要、すごいな」

 港へ向かう荷運び。

 職人。

 商人。

 朝早く依頼へ向かう冒険者。

 唐揚げや豚の一口揚げをパンに挟み、冷たい果物と牛乳の飲み物を持って歩いていく。

「……朝食セットやってみる?」

「また始まりましたね」

「ちゃうちゃう。五軒全部開けるとかちゃうで」

 博之は指を一本立てた。

「一軒だけ朝早く開ける。サンドイッチ半分とジュースで銅貨五枚」

「安くないですか?」

「朝から銅貨六枚七枚出すの嫌な人もおるやろ。軽く食って仕事行く人用」

「やる気満々じゃないですか」

「やってくれる人がおったら、の話や!」

 人員不足だけはどうしようもない。

 朝営業を増やして昼も夜も働かせれば、すぐに人が潰れる。

「せやから、朝だけ働ける人探す。おったら試す」

「結局やるんですね」

「当たるかもしれへんやん」

 そんな話をしながら、もう一つ銭を整理する。

 ソラから銀貨五枚。

 ユーリから銀貨五枚。

 合わせて銀貨十枚の返済が入っていた。

「これは俺の儲けにしたらあかんな」

「ギルドへ?」

「返済に回す」

 借りた金を返して、また次の信用を作る。

「ほんで、俺の手元は……」

 二台目の冷却箱を買った後、銀貨三十枚。

 そこへ今回の横丁利益が銀貨三十枚。

「銀貨六十枚」

「随分増えましたね」

「せやから」

 博之は一度大きく息を吐いた。

「商会、やるわ」

「決めたんですか?」

「うん」

 登録。

 物件の前払い。

 最低限の机や棚。

 帳簿。

 看板。

 諸々まとめて、まず銀貨四十五枚ほど。

「払ってくる」

「一気に?」

「先延ばししても俺の仕事減らへんもん」

 六十枚から四十五枚。

 手元には銀貨十五枚が残る。

「ちょっと怖いけどな」

「十五枚ありますよ」

「昔の俺からしたら大金やけど、今の横丁の仕入れ考えたらそんな余裕でもないねん」

 それでも進むことにした。

 物件もほぼ候補を絞っていた。

「一番横丁から近いやつ」

「あの少し高いところですか?」

「そう」

 二階建て。

 一階前側には受付と帳簿を置ける場所。

 奥には小さな倉庫。

 二階には四部屋ほどある。

「ただ、倉庫狭いねんな」

「やっぱり?」

「ビールとワインと油置いたら終わりそう」

 博之は笑った。

「せやから、ちゃんと仕入れまとめるようになったら倉庫だけ別で借りてもええかなと思ってる」

 市場から届いた品を一度そこへ集める。

 肉。

 野菜。

 小麦。

 酒。

 油。

 果物。

 そこから店ごとに、その日に必要な分だけ配る。

「その仕組みは帳簿の人と、倉庫見る人を雇ってから相談やな」

「もう随分具体的ですね」

「俺もびっくりしてる」

 二階については、さらに話が進んでいた。

「俺一部屋やろ」

「はい」

「エレナさん一部屋」

「ありがとうございます」

「ほんでセラさんら用に一部屋」

 セラ、ユーリ、ソラが依頼の前後に集まったり、荷物を置いたりする場所だ。

「最後の一部屋は客間かな」

「客間?」

「誰か遅なったとか、泊まる場所ないとか。そういう時に使えたら便利やろ」

 エレナが少し嬉しそうに笑った。

「なんか、いいですね」

「何が?」

「商会っていうより、家みたいです」

「いやいや、商会やで」

「でも博之さんも私も住むんでしょう?」

「……まあな」

「セラさんたちもよく来るでしょうし」

「それはそう」

 横丁で飯を食べ。

 奥では帳簿を付け。

 倉庫から各店へ品物を出し。

 二階へ上がれば、誰かが暮らしている。

「ほんま、何作ってんねやろ俺」

「博之さんらしいんじゃないですか?」

「そうかあ?」

 商会を作る。

 倉庫を借りる。

 人を雇う。

 朝の商売まで広げる。

 話だけだったものが、一つずつ現実になり始めていた。

「まあ、まず銀貨四十五枚払ってくるわ」

「はい」

「ほんで次は、人やな」

「帳簿のできる人ですね」

「そこが一番難しいねん……」

 店を増やすより、人を選ぶ方が難しい。

 それでも。

 無一文で始まった飯屋は、十一か月目にして、とうとう「商会」と呼べるものへ変わろうとしていた。

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