↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/176

博之42歳異世界11か月目。ソラが冒険者になった

 異世界に来て十一か月目。

 博之にとっても、一つ山を越えたような気分だった。

「……ほんまにソラ、冒険者になってもうたな」

 少し前まで横丁で皿を運び、銅貨二十枚の日当をもらっていた子供である。

 それが今では槍を借り、セラとユーリについて低層の依頼へ出ている。

 もちろん、まだ一人前ではない。

「腰上げろ!」

「はい!」

「槍伸ばしすぎ! 戻せなくなるで!」

「はい!」

 セラに怒られ。

「ソラ、そこ前出すぎ」

「でも敵が!」

「私が魔法撃てなくなるから!」

「ごめん!」

 ユーリにも怒られながら、それでも少しずつ三人の形ができ始めていた。

 前にソラ。

 中ほどにユーリ。

 後ろからセラ。

 いきなり危険な階層へ行くことはない。

 低層で小型の魔物を相手にしたり、採取や護衛を組み合わせたりしながら、ソラに

 冒険者の動きを覚えさせている。

 一方の博之は、博之で相変わらずだった。

「預金に銀貨十枚追加したやろ」

「はい」

「ほんで手元、銀貨四十枚」

「ありますね」

「ということで」

 エレナが嫌な顔をする。

「何です?」

「冷却箱、もう一個買ってくる」

「やっぱり!」

「だってビール売れるねん!」

 銀貨十枚。

 以前なら何か月も悩んだ金額だった。

 今では、売上を見ながら設備投資として判断できるようになっている。

「一台目、ビールとワインと果物と牛乳でパンパンやろ」

「そうですけど」

「酒用と食材用で分ける」

「また手元減りますよ?」

「四十枚から十枚使って三十枚残る。店の運転資金としてはまだ余裕ある」

「ちゃんと計算してる……」

「俺を何やと思ってんねん」

「勢いで借金する人」

「最近は返してる!」

 結局、二台目の冷却箱を購入した。

 一台は餃子や揚げ物に近い場所へ置き、冷たいビールを大量に入れる。

 もう一台は果物や牛乳、ワインなど。

「冷たいビール二か所で取れるぞ!」

「そこまで嬉しいですか?」

「めっちゃ嬉しい」

 結果。

 これがまた当たった。

「ビール!」

「こっちでも出せるで!」

「じゃあ二杯!」

「なんで増えんねん!」

 唐揚げ。

 豚の揚げ物。

 餃子。

 そこへ冷たいビール。

 酒を取りに行くために客を待たせる時間が減っただけでも、回転がよくなった。

 新しく出した揚げ物屋やパンの設備費も、順調な売上でほぼ回収できている。

「……利益、ガンと増えてきたな」

 博之は帳面を見ながら嬉しそうに呟いた。

 そんな横丁へ、数日に一度。

「おっちゃん!」

 三人組が帰ってくる。

「おお。生きとるか」

「生きてるわ!」

 ソラの背中には借り物の槍。

 隣にユーリ。

 その横にセラ。

「今日どうやった?」

「銀貨稼いだで!」

「おお」

 ソラが嬉しそうに袋を出す。

「俺の分から、今日はこれ返す」

「無理してへん?」

「してへんって」

「装備代とか飯代残してる?」

「セラさんにめっちゃ言われてる」

「借金返すために装備壊れたまま潜ったら意味ないからな」

 セラが横から言った。

「よし」

 博之は返済分を受け取った。

「ちょっとずつでええからな」

「でも早く返したい」

「気持ちは分かるけど、まず生きて帰ってこい」

「うん」

 三人には、そのまま飯を出す。

「今日餃子ある?」

「ある」

「唐揚げも?」

「ある」

「ビールは?」

「ソラ以外な」

「分かっとる!」

 そこへリクとミサキもやってくる。

「どうやった?」

「今日な、角のある狼みたいなん出てん!」

「怖っ!」

「セラさんが射って、ユーリさんが足止めして、俺が――」

「転んだ」

 セラが言った。

「そこ言わんでええやろ!」

 皆が笑う。

「でも最後は槍当てたで!」

「ほんま?」

「ほんま!」

 リクは羨ましそうに聞いていた。

「やっぱ店より稼げる?」

「全然違う」

 ソラが少し得意げになる。

「毎回ちゃうで。何も取れへん日もあるし、めっちゃ疲れる。でも銀貨で報酬もらえる日あるからな」

「ええなあ」

「その代わり怖いぞ」

 少しだけ真面目な顔になった。

「店で皿運んでた時みたいに、失敗して『ごめん』で済まんことある」

「そっか」

「でも、おもろい」

 博之は少し離れたところから、その三人を眺めた。

 出会った時。

 ソラは仕事があるかどうかすら分からず、一日の飯を心配していた。

 今は槍を握り、自分で銀貨を稼ぎ、借金を返している。

「……ええやん」

 エレナが隣に来た。

「嬉しそうですね」

「そら嬉しいよ」

「店から一人抜けたのに?」

「その分また誰か雇えるやろ」

「そういう考えなんですね」

「ソラがずっと皿運びしてる必要ないやん」

 できることが増えたなら、次へ行けばいい。

 空いた場所には、また黄色い布を巻いた誰かが入る。

「ほんでその子が仕事覚えたら、また次や」

「どんどん増えますね」

「せやな」

 博之は二台の冷却箱を見る。

 新しい店。

 新しい従業員。

 冒険者になったソラ。

 少しずつ戻ってくる鑑定代。

「俺も一つ山越えた感じするわ」

「次は?」

「リクかミサキの鑑定やな」

「その前に?」

「……店の売上見る」

「冷却箱三台目とか言わないでくださいね」

 博之は黙った。

「博之さん?」

「いや、三台目はいらん。今んとこ」

「今んとこ?」

「必要になったら必要経費や」

 横丁に、また笑い声が広がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。