博之42歳10か月末日。ギルドで金貨一枚の鑑定、ソラの適性は剣ではなく槍術。
ギルドの受付で、改めて条件が示された。
「鑑定費用として金貨一枚を融資します。ただし、返済総額は金貨一枚と銀貨十枚です」
「銀貨で言うたら百十枚か」
「はい。それと保証人は博之さんになります」
博之は横に並ぶソラとリクを見た。
「聞いたな?」
「うん」
「お前ら途中で逃げんなよ。逃げたら俺が百十枚返すんやぞ」
ソラがすぐに首を振った。
「逃げへんって。俺、おっちゃんに一から世話になってるんやで」
リクも頷く。
「もし冒険者あかんかったら店で働いて返すわ」
「……そう言うてもらえると助かる」
博之は少し笑った。
「これ返せたら、次ミサキにも回せるからな」
「私も?」
「当たり前やろ」
返済された金を次の鑑定に使う。
それが返ってくれば、また次。
「順繰り回るようになったら、俺が毎回百枚出さんでも済むようになる」
「それが目的なん?」
セラが聞く。
「それもある」
博之は真顔になった。
「俺の売上全部こっちに入れとったら、二台目の冷却箱買われへんやんけ」
「まだ冷却箱言うてる!」
ユーリまで笑った。
「重要やぞ。冷たいビールとジュースの売上なめんなよ」
さて。
問題はソラとリク、どちらを先にするかだった。
「俺は……ええわ」
少し迷った末、リクが言った。
「え?」
「金貨一枚やろ? 俺、なんか怖い」
「適性なかったらどうしようって?」
「うん」
「別に何出てもええんやで」
「分かってる。でもソラからでええ」
ソラを見る。
「お前、前からダンジョン行きたい言うてたやろ」
「……ええん?」
「ええよ」
「ほな、決まりやな」
博之はソラの肩を軽く叩いた。
「行ってこい」
鑑定はギルド奥の専用の部屋で行われた。
魔道具へ手を置き、術師が魔力を流す。
ソラは緊張で固まっている。
博之たちは少し離れて待った。
しばらくして。
「出ました」
「どうです?」
博之の方が前のめりになる。
「槍術適性があります」
「槍?」
ソラが目を丸くした。
「剣ちゃうんや」
セラが結果を見る。
「でも悪くないよ」
「ほんま?」
「前衛として十分使える」
盾役そのものではない。
だが槍なら敵との距離を取りながら、後衛へ近づかせない動きができる。
「私が後ろから弓。ユーリが魔法。ソラが前」
「形にはなるな」
「なる」
ユーリも頷いた。
「むしろ槍は間合い長いから、最初は無理に敵へ近づかなくてもいいし」
ソラの顔が一気に明るくなった。
「俺、冒険者なれるん?」
「待て待て」
博之が止める。
「鑑定しただけやぞ。槍持ったことすらないやろ」
「ない」
「ほな今からや」
武器まで買ってやる余裕はない。
そこはギルドの初心者向け貸出を使う。
「槍借りて、装備代とか修繕代は経費。いきなり深いとこは禁止」
「うん」
「まず低層。それもセラさんとユーリさんに教えてもらいながら」
セラが腕を組む。
「最初から三等分はせえへんで」
「え?」
「当たり前やろ」
博之も笑う。
「お前まだ新人や。お姉さん二人が面倒見るんやから、取り分は三人でちゃんと決め」
「そっか」
「ユーリさんもまだリハビリあるからな」
「私は最初、短い依頼からでいいですよ」
「そうそう。三人とも無茶せんでええ」
一日銅貨二十枚ほどだった店の仕事。
ダンジョンへ行けば、それより数倍の収入を得られる可能性がある。
その代わり危険もある。
「稼げた日からちょっとずつ返してくれ」
「いくら?」
「生活できんほど取らへんよ。装備代もいるやろし」
「でも絶対返す」
「うん」
「全部返したら次リク?」
「その次かもしれんし、ミサキかもしれん。そこは状況見て決める」
「私も待ってるからな!」
ミサキが言う。
「分かっとる」
ソラはしばらく自分の手を見ていた。
そして突然、博之へ深く頭を下げた。
「おっちゃん、ありがとう」
「おう」
「ほんま、一生感謝する」
「大げさやって」
「だって俺、最初ここ来た時、飯もまともに食われへんかったんやで」
博之が少し黙る。
「……ほな、一個だけ覚えといて」
「何?」
「俺に感謝するんもええけど、それで終わったらあかん」
ソラが顔を上げる。
「今回の金、返せるようになったら次のやつに回る」
「うん」
「お前が強くなったら、今度は新しく鑑定受けたやつの面倒見たれ」
「……ああ」
「俺一人がずっと金出して助けるんちゃうねん。助けてもろたやつが、次のやつちょっと助けたらええ」
セラが笑った。
「それなら増えていくな」
「そういうこと」
ソラは力強く頷いた。
「分かった。俺もやる」
「ほなまず槍の持ち方からやな」
「おう!」
ユーリが笑う。
「じゃあ私たちが先生ですね」
「頼むわ、お姉さん二人」
博之はそこで、ふと思い出した。
「で、俺は冷却箱買う」
「結局そこに戻るんかい!」
笑い声がギルドに響いた。
金貨一枚。
それはただの鑑定代ではなかった。
横丁で働いていた一人の子供が、自分の次の道を選び始めるための金だった。




