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博之42歳。異世界10か月目。町に顔を売る。教会から寄付してと言われたので銀貨2枚の寄付と炊き出しする。教会に喜ばれる

 異世界に来て十か月目。

 この頃になると、「おっちゃんの隠れ家横丁」は、この地区ではそこそこ知られるようになっていた。

 それ自体はありがたい。

 だが。

「なんか最近、あそこ金持ってるらしいで、みたいになってへん?」

 博之は少し嫌な予感もしていた。

 この前は柄の悪い男たちが、みかじめのような銀貨を要求しに来た。

 常連客に酒を奢って追い出してもらったが、繁盛すれば別の人間からも目をつけられる。

「儲かるんも考えもんやな」

 そんなことを思っていたところへ、今度は教会から声がかかった。

「博之さん。最近、ずいぶん繁盛しているそうですね」

「神父さんまで耳早いなあ」

「この町で商売していれば、いろいろ聞こえてきますよ」

 にこにこ笑いながら神父が続ける。

「それでですね。よろしければ、また教会にも少しご寄付をいただければと」

「うわ、来た」

「嫌そうな顔をしないでください」

「いやいや、うちも人いっぱい雇ってますからね。そんなホイホイ銀貨出されへんのですよ」

「もちろん無理にとは言いません」

 博之は少し考えた。

「ほな銀貨二枚」

「ありがとうございます」

「それと……飯出しましょうか?」

「飯?」

「一晩だけですけど」

 横丁の煮込みを、作れるだけ持ってくる。

 教会側で皿や匙は用意してもらう。

「あと火貸してもらえます?」

「構いませんが」

「餃子、焼きたてで出したいねん」

 結局その日の夕方。

 大鍋いっぱいの煮込みを運び、エレナにも来てもらった。

「エレナさん、餃子お願い」

「また私ですか」

「一番うまいから」

「そう言われると断りにくいですね」

 教会の庭に鉄板を置き、油を引く。

 じゅううう、と餃子の焼ける音がすると、子供たちが一斉に集まってきた。

「何これ!」

「熱いから待て待て」

「いい匂い!」

「一人三つな。喧嘩すんなよ」

 煮込み。

 焼きたての餃子。

 少し余裕があったので、果物の飲み物まで持ってきた。

 子供たちは夢中で食べた。

「おいしい!」

「もう一個!」

「三つ言うたやろ!」

「おっちゃんケチ!」

「人数おんねん!」

 そのやり取りを見ながら、博之は少し笑った。

「……まあ、こういう顔見れるんはええな」

 神父も嬉しそうだった。

「本当に助かります」

「毎日は無理ですよ」

「分かっています」

 食事が落ち着いたところで、博之は教会の子供たちを見回した。

「やっぱ多いですね」

「この地区は港都の中でも特に貧しいですから」

「読み書きとか計算できへん子も?」

「かなりいます」

「そら仕事もきついな」

 博之自身、最初にソラ、リク、ミサキを雇った時にそれを思い知った。

「うちの三人も最初ほとんどできませんでしたからね」

「今では随分変わったでしょう?」

「銭勘定はかなりできるようになりました」

 それから博之は、前から考えていることを話した。

「その三人、いずれ鑑定受けさせようと思ってるんです」

「鑑定を?」

「一人金貨一枚いるんでしょ」

「ええ」

「高すぎるねんなあ」

 博之は苦笑した。

「せやからギルドから借りてでも受けさせて、なんか適性あったら伸ばしたろかなって」

「冒険者に?」

「向いてるなら」

 剣なら剣。

 魔法なら魔法。

 採取なら採取。

「ダンジョンで稼げるようになったら、鑑定代は少しずつ返してもらう。店向きの能力なら

 店で使ったらええし」

 神父が少し驚いた顔をした。

「それは……すごいことを考えますね」

「そう?」

「普通、金貨一枚もかけて貧しい子供の適性を調べようとはしませんよ」

「偽善とかちゃうんですけどね」

 博之は頭をかいた。

「見てられへんだけですわ」

「見てられない?」

「なんか目覚め悪いやないですか。能力あるかもしれんのに、金ないから一生分からへんとか」

 だからといって全員は無理だ。

「人数多すぎますもん」

「ええ。そこが難しいのです」

「俺一人で町全部救うとか絶対無理やし」

「もちろんです」

「ただ、数数えられるようになった子なら、何人か黄色い布巻いて体験で雇うくらいはできますよ」

 皿洗い。

 掃除。

 配膳。

 簡単な仕込み。

「毎日ちゃうけど、ちょっとでも収入にはなるやろ」

「それだけでも非常に助かります」

「約束はできませんよ」

「分かっています」

 神父は穏やかに笑った。

「でも博之さんは、この町で長くやっていきたいのでしょう?」

「まあ、それは」

「なら、こうして顔を出すことも大切ですよ」

「……めんどくさいなあ」

「商売とはそういうものです」

「飯だけ作ってたかった」

「もう無理でしょう」

「ですよねえ」

 教会。

 治療院。

 地区の顔役。

 ギルド。

 市場の商人。

「時々顔出して、挨拶して、困ってること聞く。そういうのも必要です」

「営業やん」

「営業です」

「前いた場所でも苦手やったのに」

 神父が笑う。

「この前の件も聞きましたよ」

「何?」

「柄の悪い方たちが来た時、飲み物を大量に振る舞って常連客に追い返してもらったとか」

「なんで知ってんの!?」

「だから言ったでしょう。この町は耳が早いんです」

「怖っ」

「町に溶け込むとは、そういうことですよ」

「悪い噂も一瞬やん」

「良い噂も一瞬です」

「ああ……なるほど」

 博之は少し納得した。

「ほな神父さん」

「はい?」

「俺の知らん面白い話あったら、また教えてくださいよ」

「商売の種にします?」

「それもある」

「正直ですね」

「女と酒と銭が好きなおっちゃんですから」

「教会で堂々と言わないでください」

 二人で笑った。

 十か月目。

 横丁を大きくするだけではなく、町そのものとの付き合いまで増えてきた。

 博之は面倒そうに頭をかきながら、それでも少し楽しそうだった。

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