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博之42歳。異世界9か月目の末日。横丁に面倒なのが来るもお客さんに大盤振る舞いして追い返してもらうwww

 九か月目の後半。

 月末の集計をする日、セラとユーリもいつものように横丁へ来ていた。

 ユーリはまだ本格的にダンジョンへ戻ってはいない。

 治した足を慣らすため、杖を使いながら少しずつ歩く距離を伸ばしている。

 その目的地の一つが「おっちゃんの隠れ家横丁」になっていた。

「今日はここまで歩けた」

「だいぶ普通になってきたやん」

「まだ走るのは怖いですけどね」

「急がんでええって」

 飯を食ったあと、ユーリは冷却箱を開ける。

「魔石、少し弱ってます」

「頼むわ」

「はい」

 冷気を流し、魔石の消耗を補う。

 ついでにジュース用の水と牛乳も冷やしてもらう。

 冷えた牛乳。

 冷えた果物。

 蜂蜜。

 それを砕いて混ぜた飲み物は、すっかり横丁の人気商品になっていた。

 博之は営業後、ユーリへ銀貨一枚を渡した。

「はい。今月の分」

「え? いらんって、おっちゃん」

「いやいや。もらっといて」

「飯も食わせてもらってるのに」

「冷却箱のメンテナンスしてもろてるし、ジュースも売れてる。労働には銭払う」

「でも私、まだ借金銀貨九十枚あるよ?」

「これ返済に回すか、生活費にするかはユーリさんが決めたらええ」

 博之は銀貨をユーリの手へ押し込んだ。

「まだダンジョン潜れへんねんから、リハビリ中くらい小遣いあった方がええやろ」

 ユーリは銀貨を見つめる。

「……おっちゃん、やっぱり優しすぎるわ」

 セラが笑った。

「そらみんな惚れるで」

「いやいやいやいや」

 博之が慌てる。

「そういう方向に持っていくな」

 エレナとセラが同時に微妙な顔をした。

「もうあんまり焚きつけんといて」

 セラが言う。

「そうですよ」

 エレナまで頷く。

「何で?」

 博之だけが分かっていない。

「……もうええわ」

 女三人が揃ってため息をついた。

 そんなことをしながら帳簿を締める。

「今の感じやったら、半月で銀貨十枚くらい残るな」

「また増えましたね」

「せやなあ」

 博之は冷却箱を見る。

「ほな、そろそろ二台目欲しいな」

「また!」

「ビール用と果物・牛乳用で分けたいねん」

「この前一台目の借金返したばっかりでしょう!」

「あと外の席に大きい傘みたいなん置きたい」

「まだあるんですか?」

「日除けと雨除け。客が長く座れるやろ」

 博之の頭の中は、もう次の設備投資だった。

 その時だった。

「おい」

 横丁の入口から、聞き慣れない声がした。

 柄の悪そうな男が五人。

 揃って体格がいい。

「最近ここ、儲かってるらしいな」

 横丁の空気が少し変わった。

「……まあ、それなりには」

 博之が答える。

「とりあえずビール五杯」

「はいよ」

 博之は普通に出した。

 男たちは飲みながら周囲を見回す。

「ここの持ち主は誰や?」

「私ですけど」

「兄ちゃんか」

 一人がニヤリとする。

「これだけ繁盛してるなら、月銀貨十枚くらい出せるやろ」

「何代です?」

「ここで安全に商売するための金や」

「ああ……」

 みかじめか。

 博之にもようやく意味が分かった。

「それ払ったら、うちで働いてる人らの給料減りますわ」

「そういう話ちゃうねん」

「場所代なら、この地区の顔役にも銀貨五枚払ってますし」

「そんなん知らんわ!」

 男が机を叩いた。

 一瞬、周囲の客が静かになる。

 エレナが心配そうに博之を見る。

 セラも立ち上がりかけた。

 博之は少し考えた。

 そして突然、横丁いっぱいに聞こえる声で叫んだ。

「すいませーん!」

「……は?」

「今日ここにおる、身体ごっついお客さん!」

 あちこちから顔が上がる。

「この兄ちゃんら、俺から銀貨十枚取ろうとしてるんですわ!」

「お前!」

「追い出してくれる人、ビールでもワインでもジュースでも三杯まで俺のおごり!」

 一瞬。

 沈黙。

 次の瞬間。

「三杯?」

 奥で飲んでいた港湾労働者が立った。

「冷たいビール三杯か?」

「三杯!」

「ほな話早いやん」

 別の卓からも冒険者が立つ。

「俺もええで」

「俺ジュースでもええ?」

「何でもええ!」

 気づけば十人以上の大男が、五人を囲んでいた。

「兄ちゃんら」

 常連のおっちゃんが笑う。

「俺らのうまいビール飲む場所で、面倒起こさんといてくれるか?」

「な、なんやお前ら……」

「帰ろか?」

 五人の勢いが急に消えた。

 結局、ぶつぶつ言いながら横丁を出ていく。

 完全に姿が見えなくなったところで、

「ぶはははは!」

 横丁中が爆笑した。

「おっちゃん、なんちゅう用心棒の雇い方してんねん!」

 セラが腹を抱える。

「十人以上を酒三杯で雇った!」

「いや、こっちの方が銀貨十枚より安いやろ!」

「比較するところそこなん?」

「大事や!」

 博之はすぐ声を上げた。

「約束や! 三杯まで今日は俺のおごり!」

「よっしゃ!」

「ビール!」

「俺ワイン!」

「ジュース三杯でもええ?」

「腹壊すぞ!」

 再び横丁が騒がしくなった。

 エレナが呆れながら笑う。

「博之さん、変なところで人に好かれてますよね」

「そう?」

「そういうところがおっちゃんの人徳なんやって」

 セラも笑う。

「愛されポイントやな」

「なんやそれ」

 博之にはよく分からない。

 ただ、横丁を守るために立ち上がってくれる客が、こんなにいた。

 それだけは、少し嬉しかった。

「……まあ今日は飲んでくれ」

 冷却箱から次々ビールを取り出す。

「せっかく守ってもろた横丁やからな」

 その夜は、いつもより少しだけ遅くまで笑い声が続いた。

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