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博之42歳異世界9か月目後半。半月の集計後、銀貨八十枚、もう一度借りる

 九か月目に入って、半月。

 博之はまた帳面を広げていた。

「……増えたな」

「何がです?」

 エレナが横から覗く。

「利益。半月で銀貨十枚と銅貨五十枚くらい」

「そんなに?」

「ジュースが思ったより売れてんねん」

 ユーリが横丁へ顔を出すようになり、冷たい水や牛乳を簡単に用意できるようになった。

 果物を何種類か砕く。

 牛乳を入れる。

 蜂蜜を少し。

 甘みが弱ければ砂糖を足す。

「これ一杯、銅貨四枚!」

 最初は試しだった。

 ところが子供や女性客を中心によく売れた。

「冷たいやつちょうだい!」

「今日は赤い果物多め!」

「牛乳入ってる方!」

「……完全に商品になったな」

 冷たいビールは酒飲み。

 ミックスジュースは家族連れ。

 客層まで広がった。

「ユーリさん、めちゃくちゃ役立ってるやん」

「まだ足治してもらってませんけど」

「せやから治すんや」

 博之は帳面を閉じた。

 手元には、およそ銀貨二十七枚と少し。

「ほな、行こか」

「どこへ?」

「ギルド」

 ユーリの顔が固まった。

「……本当に?」

「そのために何回か仕事やってもろたんやろ」

 ユーリは約束した日に来た。

 簡単な依頼もこなした。

 冷却箱の魔石も見てくれた。

 セラからの評判もいい。

「俺の中の審査は通った」

「何の審査ですか」

「銀貨八十枚貸して大丈夫そうか審査」

「重たい……」

 セラが笑った。

「私もそれやられたで」

 ギルドへ着くと、まず博之は銀貨三枚を出した。

「これはエレナさんの治療費の分」

 受付が帳面を見る。

「銀貨三十枚のうち三枚ですね。残り二十七枚です」

「はい」

 エレナが毎月少しずつ返していく。

 こちらは急がせない。

 そして本題。

「ユーリさんの足、正式な見積もり銀貨八十枚でした」

「確認しております」

「借りたいです」

「八十枚ですか」

「はい」

 さすがに今回は受付もすぐには頷かなかった。

「博之さん。これまでの返済実績は十分あります。ただ今回は金額が大きいので、

 預り金をもう少し増やしていただけますか?」

「今九枚でしたよね」

「はい」

「……ほな六枚追加します」

 銀貨六枚を積む。

「これで十五枚」

「それでしたら」

 店は五軒。

 半月で銀貨十枚以上の利益。

 セラの銀貨五十五枚は完済。

 冷却魔道具も完済。

 エレナ分も返済開始。

 信用は以前とは比べものにならなかった。

「銀貨八十枚をお貸しします」

「おお」

「ただし返済総額は銀貨九十枚。期限はこれまでより余裕を持たせますが、必ず返済してください」

「分かりました」

 博之はユーリを見る。

「九十枚やって」

「……はい」

「逃げんといてな」

「逃げません!」

 ユーリは慌てて立ち上がった。

 そして深く頭を下げる。

「ありがとうございます。本当に……ありがとうございます」

「まだ治ってへんで」

「でも……」

 声が震えていた。

「もうダンジョンには戻れないと思ってました」

「それは治ってから考えよう」

 博之は銀貨の入った袋を見る。

「治療して、ちゃんと歩けるようになって、それから改めてありがとう言うて」

「はい」

「ほんで働いて返して」

「はい!」

 セラが横から笑う。

「おっちゃん、また一人抱えたな」

「人聞き悪いな」

「今回は銀貨九十枚やで」

「言うな。急に怖なってきた」

 博之は袋を抱え直す。

「ほな、今日行けるなら今日治療院行こか」

「え?」

「予約取れるか聞いてみよ。あかんかったら明日」

「もう?」

「銀貨八十枚借りて持ったまま寝る方が怖いわ!」

 受付まで笑った。

「博之さん、最近どんどん扱う金額が大きくなっていますね」

「俺も怖いです」

「でもまた新しい飲み物も売れているとか」

「そうなんですよ」

 博之の顔が急に明るくなる。

「冷たい牛乳と果物混ぜたら、めっちゃ売れて――」

「おっちゃん!」

 セラが止める。

「今はユーリの足!」

「あ、そうやった」

「忘れんな!」

 ユーリまで笑った。

 銀貨八十枚。

 返す金は九十枚。

 決して小さな賭けではない。

 それでも治れば、一人の魔法使いが戻ってくる。

 そして博之の頭には、もうその先も見えていた。

「ユーリさん」

「はい?」

「足治ったら冷却箱も頼むで」

「そこは忘れないんですね」

「めちゃくちゃ大事やからな」

 治療院へ向かう三人の後ろで、セラの笑い声が響いた。

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