博之42歳異世界9か月目。けがで治れば働ける男の冒険者が少ない理由
セラから次の候補が「足を怪我した魔法使いの女」と聞いたところで、博之はふと思った。
「なあ」
「何?」
「そもそも男で困ってる冒険者っておらんの?」
セラが少し考える。
「いるよ」
「おるんや」
「そりゃいる。ただ、おっちゃんが探してる条件だと少ない」
「なんで?」
博之が聞くと、セラは指を一本立てた。
「まず前衛」
「剣とか盾持ってるやつ?」
「そう。特にタンク役は重宝されるから」
敵の攻撃を受け止める。
仲間を守る。
身体強化や防御系の適性を持った男は、多少怪我をしてもパーティー側が金を出して
治療することが多いらしい。
「そんな貴重なん?」
「魔法使いが強くても、前で殴られてくれる人がいなかったら詠唱できないからね」
「ああ、それはそうやな」
「だから腕がいいタンクなら仲間が治療費出したり、条件のいいところならギルドから借りたりもする」
「ほな困ってる男がおらんわけや」
「いや」
セラが首を振った。
「逆に、残る男は結構きつい」
「どういうこと?」
「治しても前衛に戻れないくらい壊れてるか、条件の悪い契約を飲んで誰かに治してもらってるか」
「うわあ」
治療費を肩代わりしてもらう代わりに、何年も特定のパーティーから抜けられない。
報酬の取り分が極端に少ない。
借金に高い利息がつく。
「それ、ほぼ囲い込みやん」
「でも働けなくなるよりはいいって受ける人もいる」
「それは嫌やなあ」
博之が顔をしかめる。
「嫌なら引退」
「それもきついな」
「だから男の場合、おっちゃんが声かけられる頃には、もう予後が悪い人が多いんだよ」
「なるほどな」
そこでセラが続けた。
「高難度に行くなら別だけどね」
「高難度?」
「まだ歩ける。戦える。でも今のままだと上の階層にはついていけない、ってくらいの男」
「ああ」
「そういう人をちゃんと治して、私たちのチームに入れるのはあり」
「なるほど」
完全に働けなくなってから探すのではなく、悪化する前に治す。
「それは覚えとこ」
「うん」
「ほな、なんで弓とか魔法使いの女の人が残りやすいん?」
「後衛だから」
セラは自分の腕を指した。
「弓使いって、腕が駄目になったら終わりでしょ?」
「そらそうや」
「でも前衛みたいに『絶対必要だから皆で治そう』ってなりにくい」
「魔法使いも?」
「足が悪いだけなら魔法は撃てる。でもダンジョンで逃げられない人を連れていくのは怖い」
「なるほどなあ」
博之は腕を組んだ。
つまり能力そのものは残っている。
治療すれば復帰できる。
しかし治療費を出してまで囲いたいほどではない。
「ちょうど隙間に落ちるんやな」
「そういうこと」
さらに女性の場合は別の問題もあった。
「男から『治療費出してやる』って言われても警戒する人いるよ」
「なんで?」
セラが無言で博之を見る。
「……あ」
「分かった?」
「身体目当てか」
「そう」
銀貨五十枚。
六十枚。
そんな金を突然出す男が現れれば、
『代わりに何を求められる?』
と考えるのは当然だった。
「なるほどな……」
「私も最初は思ったよ」
「えっ?」
博之がセラを見る。
「俺も疑われてたん?」
「当たり前でしょ」
「信用してくれてたんちゃうん?」
「最初から信用するわけないやん」
「ひどない?」
ソラたちが面白そうに集まってきた。
エレナまで笑っている。
「じゃあ、いつ信用したんです?」
ミサキが聞く。
「うーん」
セラは博之を上から下まで眺めた。
「まず、この人、エロさが抜けてるなって」
「待て待て待て」
「女好きって自分で言う割に、治療費の見返りに何か要求してくる感じが全然なかった」
「それはええやん」
「あと」
「あと?」
「もし襲ってきても、腕づくなら返り討ちにできそうだったから」
一瞬の沈黙。
「ぶはっ!」
エレナが吹き出した。
「ははははは!」
「おっちゃん弱い認定されてる!」
ソラとリクが腹を抱える。
ミサキまで机を叩いた。
「それが信用の理由なん!?」
「大事やで」
セラは真顔だった。
「相手が無茶してきても、最悪殴って逃げられるって安心感」
「安心感の意味おかしいやろ!」
「でも博之さん、セラさんに勝てます?」
エレナに聞かれる。
「……腕治った今は絶対無理や」
「治る前は?」
「た、多分……」
「私、片腕でも勝てたと思う」
「やめろ!」
また爆笑。
博之は頭を抱えた。
「俺、銀貨五十枚借金背負って人助けたのに、信用された理由が『エロくなさそう』
『殴れば勝てそう』なん?」
「最高じゃん」
「どこがや!」
「安全な男ってことやろ?」
エレナが笑いながら言った。
「褒められてますよ」
「全然嬉しないわ!」
博之は目元を押さえた。
「泣くぞ俺……」
その横でセラは楽しそうに笑っていた。
「でも今はちゃんと信用してるよ」
「ほんまに?」
「うん。だから次の子も紹介しようと思った」
セラは少しだけ真面目な顔になる。
「足を治せたら、あの子は使える。私と組めば取れる依頼も増える」
「……それなら一回会おか」
「そうしよ」
男だから。
女だから。
前衛だから。
後衛だから。
同じ怪我でも、落ちる場所が違う。
「難しいなあ」
博之は呟いた。
「まあ、全員助けるなんて無理やしな」
「うん」
「せやから、治したら戻れそうで、約束守って、俺を殴らへん人からや」
「最後いる?」
「めちゃくちゃ大事や!」
再び笑い声が横丁に響いた。
博之の「冒険者再生計画」は、どうやら人を見るところから始めなければならないらしかった。




