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博之42歳異世界9か月目。冒険者セラ。銀貨55枚の借金が残り銀貨5枚になる。

 夕方。

 横丁の客が少し落ち着き始めた頃、セラが妙に上機嫌な顔でボロ小屋へ入ってきた。

「おっちゃん!」

「なんや。今日は元気やな」

「今日の依頼、結構報酬よかったからさ」

 そう言って、どさりと机の上へ袋を置いた。

「返せるで」

「何枚?」

「二十枚」

「……二十?」

 博之が袋を開く。

 銀貨が、本当に二十枚入っている。

「うわ。ほんまに?」

「今日はパーティーでちょっとええ仕事引けたから。今まで残してた分も合わせた」

 博之は一枚ずつ数えた。

「一、二、三……二十。ほな、もう残り銀貨五枚やん」

「そういうこと」

「おお……」

 銀貨五十枚を借りて腕を治した時は、本当に返ってくるのか半信半疑だった。

 それが、あと五枚。

「よかったなあ」

「何が?」

「いや、セラさん普通に冒険者戻れてるやん」

「おっちゃんのおかげやで」

「貸しただけやって」

「それをしてくれる人がおらんかったんやって」

 セラは笑った。

 だが、少ししてから妙な顔をした。

「でもさ」

「ん?」

「あと銀貨五枚返したら、私ここ来る理由なくなるやん」

「なんでやねん」

「借金返しに来る必要なくなるから」

「いやいや、飯食いに来たらええやん」

「それだけ?」

「それだけって」

 博之は少し考えた。

「前にも言うたやろ。怪我して働けへん冒険者とか、治したら戻れそうな人がおったら

 探してほしいって」

「言ってたね」

「それやってくれたらええやん」

 ソラやリク、ミサキたちも、いずれは鑑定を受けさせたい。

 ただし鑑定には、一人金貨一枚。

 とんでもなく高い。

「ギルドにまた借りれるか相談するつもりやけどな」

「子供らの鑑定?」

「そう。なんか適性あったら、それ伸ばした方がええやろ」

 剣。

 弓。

 魔法。

 採取。

 索敵。

 何に向いているのか分からないまま育てるより、最初に知った方がいい。

「もし冒険者向きの能力あったら、セラさんに見てもらいたいねん」

「私が?」

「先輩やん」

「おっちゃんよりはな」

「俺、ダンジョン一回も入ったことないから」

 博之は笑った。

「だから顧問みたいな感じで」

「顧問って何?」

「困った時に相談する人」

「なんか偉そう」

「ほな給料いる?」

「銀貨一枚くらい?」

「払えんことないけど」

 セラは少し考えて、首を振った。

「それより飯でいい」

「飯?」

「ここ来た時に食わせて。餃子も」

「ビールも?」

「当然」

「高い顧問やな」

「銀貨一枚より安いやろ」

「まあな」

 博之が笑う。

「ほなそれで契約成立」

 セラも笑った。

「よかった」

「何が?」

「これでここ来る理由あるやん」

「理由なくても来たらええって」

「いや、でもさ」

 セラは少し照れたように視線を外した。

「おっちゃんには世話になったし。なんか……離れたくないねん」

「え?」

 ちょうど横で餃子を包んでいたエレナの手が、一瞬止まった。

「……そうですよね」

「エレナさん?」

「博之さん、優しいですもんね」

 にこやかに言っている。

 ただし、笑顔がほんの少しだけ複雑だった。

「いやいや、うん、まあ……」

「なんです、その歯切れの悪さ」

「何でもないです」

 博之は慌てて話を戻した。

「で、セラさん。そういう人おらん?」

「怪我してる冒険者?」

「そう。誰彼なしには無理やで。約束守らんやつとか、金借りて逃げそうなんは嫌や」

「一人いる」

「おるん?」

 セラの表情が真面目になった。

「魔法使い。まだ若い女の子」

「また女なん?」

「そこ気にする?」

「いや、別に」

「ダンジョンで足やられてね。それからパーティーについていけなくなった」

「治るん?」

「多分。私と同じくらいのお金はいると思う」

「銀貨五十とか六十?」

「そのくらい」

「またでかいなあ……」

 博之は腕を組んだ。

「でも、その子はできるよ」

「魔法使える?」

「使える。ちゃんと適性も分かってる。怪我する前は何度も一緒になったことあるから」

「信用は?」

「私はできると思う」

 そこへソラたちも集まってきた。

「また誰か治すん?」

「まだ決めてへん」

「俺らの鑑定は?」

「それも考えてる」

 博之は三人を見る。

「順番の問題やな」

 金貨一枚を貯めて子供を一人鑑定する。

 将来への投資としては大きい。

 一方で銀貨五十枚ほどあれば、すでに能力の分かっている冒険者を一人復帰させられる。

「その人治したら、すぐ働けるんやろ?」

 ミサキが聞く。

「そうやな」

 セラが頷く。

「私と組めるようになったら、今より稼げる仕事も取りやすい」

「二人になるから?」

「それもある。弓だけじゃできない仕事もあるからね」

 博之は顎をさすった。

「なるほどなあ」

 治療した冒険者が稼ぐ。

 借金を返す。

 返ってきた金で次の人を治す。

 人数が増えれば、取れる依頼も増える。

「子供らの鑑定もやりたい。でもまず、働ける人増やして金作る方が早い可能性もあるんか」

「私はそう思う」

「ほな一回、その子連れてきて」

「会う?」

「話してみたい」

 博之は笑った。

「セラさんの時みたいに、何回か簡単な仕事してもろてから考えるわ」

「相変わらず慎重やな」

「銀貨五十枚やぞ。当たり前や」

 セラが笑う。

 借金は残り五枚。

 だが完済が見えてきたところで、次の五十枚の話が始まった。

「俺、なんかずっと借金してへん?」

「でも増えてるやん。店も人も」

「……まあ、それはそうやな」

 博之は横丁を眺めた。

 どうやら飯屋の次は、本当に冒険者まで増え始めそうだった。

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