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博之42歳。異世界8か月目。博之、横丁を見ながら次の手を考える。冷蔵庫2台目ほしいwww

 五軒目のスパゲッティ屋が動き出してから、博之は暇さえあれば横丁の真ん中に立って、

 店を眺めるようになっていた。

「トマトのやつ二つ!」

「こっちは油の麺一つ!」

「餃子追加!」

「冷たいビール三つ!」

 昼時になると、あちこちから声が飛ぶ。

 煮込みを食べる客。

 スパゲッティをすすっている客。

 餃子をつまみに酒を飲む者。

 家族連れは中央の机を囲んで、それぞれ違う店の料理を食べている。

「……ええなあ」

 博之は腕を組んで眺めた。

「何ニヤニヤしてるんです?」

 エレナが餃子の皿を持ちながら聞く。

「いや、ちゃんと横丁になっとるなと思って」

「自分で作ったんでしょう」

「そうなんやけどな」

 特に強いのが酒だった。

 冷却魔道具を買ってから、ビールの売れ方が明らかに違う。

「冷たいのもう一杯!」

「ワインも冷やしてくれ!」

「果物の汁ある?」

 最近始めた果物のジュースも、少し冷やして出すとよく売れた。

「……冷蔵庫、もう一台欲しいな」

「またですか?」

 エレナの顔が露骨に曇る。

「いや聞いて。今の一台にビール、ワイン、果物、全部突っ込んでんねん」

「入ってますね」

「夏場もっと売れたら絶対足らんやろ」

「だからって銀貨十枚ですよ」

「でも冷たい酒売れるねんもん」

 博之は冷却箱を開けた。

 中には酒瓶。

 冷やした器。

 切った果物。

 果汁を入れた壺。

「一台は酒専用。一台は果物と食材。これが理想やな」

「買う顔してますよ」

「まだ考えてるだけ!」

「前もそう言って次の日買いましたよ」

「……今回はちゃんと計算する」

 そう言いながら、博之の視線は今度は中央の席へ向いた。

 ここも問題がある。

「日差し強いな」

 昼間は客が手で額を隠しながら食べている。

 雨の日はもっとひどい。

「先々、屋根欲しいなあ」

「またお金使う話?」

「いやいや、これはいるやろ」

 布を張るだけでもいい。

 日除けになる。

 雨除けにもなる。

 ただし。

「でも火が怖いな」

 横丁には火を使う店が多い。

 煮込み。

 餃子。

 串焼き。

 魚。

 麺を茹でる鍋。

「布張って、その下で炭使って、火移ったら横丁全部燃えるぞ」

 博之は急に真顔になった。

「それは笑えませんね」

「水入れた桶、もっと置くか」

「砂もあった方がいいんじゃないですか?」

「それやな」

 屋根を作るなら火元から距離を取る。

 店と店の間も少し空ける。

 消火用の水と砂を置く。

「なんか飯作る以外のこと増えすぎちゃう?」

 セラが横から笑った。

「ほんまそれ」

 でも博之は嫌そうではなかった。

 むしろ楽しそうだった。

「あと人やな」

「まだ雇うんですか?」

「雇わなあかん」

 今は皆がほぼ毎日働いている。

 エレナ。

 おばちゃんたち。

 子供たち。

 配膳係。

「これずっと続けたら誰か倒れる」

 セラが肩をすくめる。

「私みたいにな」

「縁起悪いこと言うな」

「でも本当でしょ」

「せやねん」

 博之は地面にしゃがみ、小枝で数字を書き始めた。

「例えば店一軒に二人必要やとして、毎日二人固定やったら休まれへんやろ」

「うん」

「一人余分に入れて、順番に休ませる」

「その分、人件費増えるよ?」

「増える」

 博之はすぐ答えた。

「でも倒れて突然店閉める方が損や」

 エレナが少し驚いた顔をした。

「博之さんが人を休ませること考えるなんて」

「何やその言い方」

「店潰さん程度に働いてっていつも言うでしょう」

「あれ冗談やん!」

「半分くらい本気でしょう?」

「……まあ」

 皆が笑う。

「せやから人件費、一回全部整理せなあかんな」

 誰をどの店に入れるか。

 誰が休みか。

 忙しい昼だけ入る人。

 夜だけ酒を運ぶ人。

 果物を切る人。

 餃子を包む人。

「毎日全員一日雇う必要もないねん」

 昼だけ二時間。

 夕方だけ。

 週に何日か。

 それなら働く側にも都合がいい人間がいる。

「子供らも勉強あるしな」

「おっちゃん、ようやく分かってきたな」

 ミサキが偉そうに言った。

「お前に言われたないわ」

 博之は笑いながら立ち上がった。

 目の前では配膳の子供が料理を運び、おばちゃんが果物を砕き、行商人まで客に声をかけている。

 八か月前。

 何も持たずにこの世界へ来た。

 今は、冷蔵庫をもう一台買うか悩み、屋根と火事を心配し、人の休みまで考えている。

「……なんか俺、めっちゃ頭使ってんな」

「楽しそうですよ」

 エレナが言った。

「そう?」

「はい。こっち来た頃よりずっと」

 博之は少し考えてから、横丁を見回した。

「……まあ、楽しいな」

 次に何を売るか。

 どこに人を置くか。

 どうしたら客が喜ぶか。

 どうしたら働いている人間が無理せず続けられるか。

 考えることはいくらでも出てくる。

「とりあえず二台目の冷蔵庫やな」

「結局そこですか!」

「必要経費や!」

 横丁に、また笑い声が響いた。

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