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博之42歳。異世界8か月目。おっちゃんの隠れ家横丁、道まで使い始める。銀貨五枚だが払う。周囲から人が集まり始める

 五軒目の麺屋を出す話が具体的になってくると、博之には一つ気になっていることがあった。

「店増やすだけやったらええけど、真ん中に机と椅子置きたいねんな」

「そこ、道ですよ」

 エレナが言う。

「せやから勝手にやったら怒られるやろ?」

「怒られるでしょうね」

「ほな、聞いてくるわ」

 この地区には、商売人同士の揉め事や道の使い方を取りまとめている顔役がいた。

 博之はその男のところへ出向いた。

「今、あの辺で飯屋五軒やってる博之です」

「ああ。最近人集まってるところか」

「そうそう。あの道の端というか、店と店の間にな、机と椅子置かせてもらわれへんかな」

「どれくらい?」

「二十人とか、混んだら三十人くらい座れる程度」

 男は少し考えた。

「月銀貨五枚」

「……高っ!」

「ならやめるか?」

「いや、ちょっと待って」

 銀貨五枚。

 今の利益からすれば払えなくはない。

 ただ、決して軽い金でもない。

「それ払ったら、途中でどけろとか言われへん?」

「道を塞がんこと。火を出さんこと。掃除すること。その辺守るなら俺が話をつける」

「近所から文句出た時も?」

「俺に言え」

 そこまで聞いて、博之は考えた。

「……やる価値あるな」

「払うか?」

「払う」

 月銀貨五枚。

 高い。

 だが家族や冒険者の一団が、五軒から好きな料理を買って一緒に食べられるようになれば、

 追加注文が増える。

「これも必要経費やな」

 店へ帰ると、エレナが呆れた。

「またお金払ってきたんですか?」

「月銀貨五枚」

「高い!」

「俺もそう思った。でも堂々と机置ける」

 早速、中古の長机と丸椅子を集めた。

 中央には十数脚。

 店と店の間にもいくつか置く。

 昼になると早速、親子連れが座った。

「父ちゃん煮込み!」

「私は麺にしようかな」

「餃子!」

「俺ビール」

 博之はそれを見て笑った。

「ほら。これやこれ」

 別々の店の飯が、一つの卓に並ぶ。

「五軒が一個の店みたいになるやろ」

 さらに市場を見て回っていた博之は、面白い道具を見つけた。

 果物や柔らかい野菜を入れて、取っ手を回すと中の刃が細かく砕く道具だった。

「これ、三つで銀貨一枚?」

「中古ですからね」

「買うわ」

 博之の頭に浮かんだのはジュースだった。

 安い果物を買う。

 少し傷があって、そのまま売りにくいものならさらに安い。

 皮を取り、果肉を入れ、道具を回す。

「おお。潰れる潰れる」

 水を少し。

 果物によっては蜂蜜をほんの少し。

「はい。銅貨三枚」

 ミサキが飲む。

「甘い!」

「うまいやろ?」

「これ売れるで」

「俺もそう思う」

 冷却魔道具で少し冷やせば、さらにうまい。

 近所で仕事を探していたおばちゃんを一人雇い、果物を切ってジュースを作ってもらうことにした。

「私でいいの?」

「果物切れて、銭数えられて、ちょろまかさんかったらええ」

「それだけ?」

「それが大事やねん」

 煮込み。

 餃子。

 麺。

 魚。

 串焼き。

 酒。

 そして果物のジュース。

 中央には机と椅子。

 そうすると今度は、外から人が寄ってくるようになった。

「ちょっといいか?」

 荷車を引いた行商人だった。

「ここ、客多いな」

「最近な」

「俺もここで売らせてもらえないか?」

 干した果物や木の実、ちょっとした菓子を売っているらしい。

「別にええで」

「ほんとか?」

「ただし、この辺の場所代は顔役に自分で話して」

「分かった」

「それとは別に、うちにも銀貨一枚な」

「銀貨一枚?」

「横丁代」

 博之は中央の机を指した。

「掃除もする。椅子も直す。客が増えたら机も増やす。ここ維持すんのにも金かかるから」

 行商人は周囲を見た。

 昼から客が座り、酒まで売れている。

「……月一枚なら悪くないな」

「ほな決まり」

 初めて、博之が料理を売らなくても入ってくる銀貨ができた。

「おっちゃん、とうとう場所貸して金取ってるやん」

 リクが笑う。

「悪く言うな。維持費や」

「でも儲かるやろ?」

「ちょっとな」

 客が増えると、今度は配膳が追いつかなくなった。

「煮込み二つ!」

「餃子一皿!」

「冷たいビール三つ!」

「トマト麺どこの卓!」

 走り回っていた子供が悲鳴を上げる。

「おっちゃん無理!」

「……もう一人雇うか」

 エレナが笑った。

「また人増やすんですか?」

「客待たせるよりええやろ」

 近所の子供をもう一人、配膳係として雇うことになった。

 博之は中央の卓を眺める。

 家族が飯を食い。

 冒険者が酒を飲み。

 行商人が品物を売り。

 子供たちが料理を運ぶ。

「……ほんまに横丁になってきたな」

「自分でやったんでしょう」

「最初、煮込み一杯作ってただけやったのにな」

 エレナが笑う。

「次は何するんです?」

「それを今考えてんねん」

「また増えそうですね」

「まあ、うまくいくならええやろ」

 博之に大きな野望があったわけではない。

 ただ、飯が食えて。

 仕事があって。

 人が集まって。

 少し銭が残る。

 それを繰り返しているうちに、おっちゃんの隠れ家は、少しずつ町の一角そのものになり始めていた。

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