博之42歳。異世界生活7月末。エレンさんの根本治療。その後・・・・
エレナの治療の日が来た。
ギルドから治療費を借り、博之は朝からエレナと一緒に治療院へ向かった。
「ほんまに大丈夫?」
「それ、私が聞く方ですよ。こんな大金借りてもらって」
「返してもらうからええねん」
「ちゃんと返しますよ」
「無理ない範囲でな」
これまで薬で抑えてきた体調不良を、今回は高位の治療術で根本から治す。
治療師によれば、加齢や長年の疲労から来る不調まですべて消えるわけではない。
それでも、身体を長く苦しめていた原因については治療できるという。
長い治療が終わった。
「どうですか?」
治療師に聞かれ、エレナはゆっくり身体を起こした。
腕を動かす。
深く息を吸う。
胸元へ手を当てる。
「……楽です」
「完全に疲れなくなるわけではありませんよ」
「はい。でも、ずっとあった重たい感じが……ないです」
エレナの目に涙が浮かんだ。
「よかったな」
「ありがとうございます」
「俺が治したわけちゃうで」
「でも、博之さんがいなかったら受けられませんでした」
「まあ、それは……」
「少しずつ返していきますから」
「急がんでええって。店潰さん程度に働いてくれたら」
「またそういう言い方する」
泣きながら笑うエレナを見て、博之も安心した。
その日の帰り道。
「博之さん」
「ん?」
「今日、よかったら……うちに来ませんか?」
「エレナさんの家?」
「はい。少し二人でおしゃべりしたいです」
「……ええけど」
何となく緊張しながらついていった。
エレナの家で少し酒を飲み、二人で話す。
「今日は本当に嬉しかったです」
「身体楽になった?」
「はい」
エレナは杯を持ったまま、少し黙った。
「私、博之さんに返せるものって、あまりないんですよね」
「別に返さんでええって」
「そうじゃなくて」
エレナが博之を見る。
「今日……覚悟を決めて誘ったんです」
「覚悟?」
「はい」
顔を赤くしながら、それでも目を逸らさない。
「今日は、抱いてください」
「……え?」
博之の頭が止まった。
「いやいやいや、ちょっと待って」
「嫌ですか?」
「嫌とかちゃうねん。むしろ……いや、そういう問題でもなくて」
「何ですか、それ」
「ほんまに俺でええの?」
「博之さんがいいんです」
その言葉に、博之は何も言えなくなった。
その夜。
二人は初めて、一線を越えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくして。
二人で並んで横になりながら、博之は天井を見ていた。
「……ほんまにこのおっちゃんでよかったん?」
「まだ言うんですか?」
「だって俺やで?」
「知ってます」
エレナは笑った。
「感謝してるって、ちゃんと伝えたかったんです」
「身体で返してくれとか、俺言うてへんからな」
「分かってます。私がそうしたかったんです」
「……なら、ええけど」
博之は妙に照れてしまう。
「ただ、一個だけお願いがあります」
「何?」
「娼館には行かないでください」
「え」
「別に、私と結婚しろとは言いません」
「うん」
「他の女の人とどうこうなることまで止めません。それに……セラさんも多分、
博之さんのことを好いてると思いますよ」
「ええ?」
「気づいてないんですか?」
「全然」
「鈍いですね」
エレナは苦笑した。
「セラさん、借金を返し終わったら、似たようなこと言ってくるかもしれません」
「いやいやいや」
「それは私は別にいいんです」
「ええん?」
「向こうには向こうの気持ちがありますから」
エレナは少しだけ博之の方へ身体を寄せた。
「でも娼館だけは嫌です」
「なんで?」
「それは私が傷つきますから」
博之は黙った。
「男の人には、そういう欲もあるでしょう?」
「……まあ」
「だったら、ふらふら知らない女の人のところへ行くより、私とお酒飲んで、
おしゃべりしてくれた方が嬉しいです」
「……」
「私は好いてますから」
「それ直接言うんやめてくれへん?」
「なんでです?」
「俺、そういうのめちゃくちゃ弱いねん」
エレナが笑った。
「モテたことないからさ」
博之は頭をかいた。
「こうやって俺のことを好いてるとか、一緒にいたいとか言われるの……ほんま慣れてへんねん」
「じゃあ慣れてください」
「簡単に言うなあ」
「これから言いますから」
「余計照れるわ」
エレナはくすくす笑った。
博之も困ったように笑う。
異世界に来て七か月。
飯屋を作り、人を雇い、借金して、冒険者を治して。
まさか自分が、誰かから好いてもらえる日が来るとは思っていなかった。
「……ありがとうな」
「はい」
「ほんまに嬉しいわ」
それだけは、素直に言えた。




