博之42歳異世界6か月目。エレナさんに餃子の店を任せる。やっぱり冷蔵庫欲しい。資金繰りを見ながら判断やな
餃子と酒を試しに出し始めてから、半月ほどが経った。
博之はいつものように、営業が終わったあとで銭を数えていた。
「……やっぱ増えてるな」
「何がです?」
エレナが横から帳面を覗き込む。
「残る銭」
煮込み三軒だけだった頃は、家賃、人件費、食材、薪、薬代、教会への寄付などを全部引けば、
半月で銀貨二枚ほど残ればいいところだった。
ところが今は。
「銀貨四枚くらい残ってる」
「倍じゃないですか」
「せやねん」
原因は分かっている。
焼き魚。
肉串。
餃子。
そしてワインとビール。
煮込み一杯だけ食べて帰っていた客が、
「肉串一本」
「餃子追加」
「ビールもう一杯」
と銅貨を余計に置いていく。
「やっぱ酒は強いな」
「博之さんが飲みたいだけでは?」
「俺も飲みたい。でも客も飲みたい。みんな幸せ。完璧や」
「はいはい」
博之は帳面を閉じた。
「エレナさん」
「はい?」
「餃子の店、任せてもええ?」
「私が?」
「包むの一番うまいやん」
この半月で、エレナの餃子は博之より形が綺麗になっていた。
焼き加減も覚えた。
「隣の煮込みの小屋、そのまま餃子と酒の店にしよう」
「でも煮込みは?」
「向かいにもう一軒借りる」
「また増やすんですか?」
「四軒目やな」
新しい煮込み屋には、エレナの知り合いから一人、働き口を探している女性を紹介してもらう。
最初はエレナが味付けを教える。
火を見て、盛って、客から銭を受け取る。
「配膳は子供一人雇えばええやろ」
「また増える!」
リクが嬉しそうに言う。
「お前らの知り合いで、ちゃんと働く子な」
「いっぱいおるで!」
「いっぱい連れてくんな。一人や一人」
こうして、横町は四軒になった。
一軒目。
日替わり煮込み。
二軒目。
日替わり煮込み。
三軒目。
日替わり煮込み。
そして四軒目が、餃子と酒。
「なんか店らしくなったなあ」
博之は並んだボロ小屋を眺めた。
「全部ボロいけど」
「そこ言うな」
売上も少しずつ伸びている。
「この調子なら月銀貨八枚くらい残るかもしれんな」
「ほんとですか?」
「たぶんな。もちろん何か壊れたり、売れへん日もあるから全部貯金にはできへんけど」
そうなると、また欲しくなるものがある。
「冷却魔道具」
エレナが顔をしかめた。
「まだ言ってるんですか?」
「銀貨十枚やろ?」
「高いですよ」
「分かってる」
博之は真面目な顔をした。
「だから借りる」
「買う前提じゃないですか!」
「いやいや、ギルドに相談するだけや」
ちょうどセラから返済された銀貨もあった。
治療から少し経ち、低層ダンジョンへ順調に潜っている。
仕事をした日は銀貨一枚。
ここまでで約十枚。
「まずセラさんの銀貨十枚返しに行く」
「はい」
「あと半月したら、順調ならさらに十枚くらい返ってくるやろ」
「そうですね」
「そしたらギルドから見ても、俺ちゃんと返してる客やん」
「だから?」
「冷却魔道具代、貸してくれるか聞いてみる」
ミサキが呆れる。
「おっちゃん、借金好きやな」
「ちゃう!」
「セラさんでも借りたやん」
「あれは人への投資!」
「今度は?」
「ビールへの投資!」
「余計あかんやん!」
皆が笑った。
博之は納得できない。
「お前ら分かってへんな」
「何が?」
「冷たいビールやぞ」
銅貨三枚で出しているビール。
冷たくできれば銅貨四枚。
暑い日なら五枚でも飲む客がいるかもしれない。
「一杯で銅貨一枚上がるだけでも、十杯売ったら十枚や」
「あ」
ミサキが反応した。
「三十日なら?」
「銅貨三百枚」
「銀貨三枚や!」
「そういうこと」
博之が得意げに腕を組む。
「原価もあるから全部利益ちゃうけど、銀貨十枚の魔道具が一生使えるなら、いつか元取れる」
エレナが少し考える。
「……そう言われると」
「やろ?」
「でも壊れたら?」
「その時考える」
「そこが雑なんですよ」
「全部分かってから商売できるかい」
そして餃子。
博之はこちらには妙な自信があった。
「餃子の魔力を舐めたらあかんぞ」
「魔法なんですか?」
「ある意味な」
餃子三つ。
ビール一杯。
さらにもう一皿。
「絶対飲むねん」
「誰が?」
「おっちゃんらが」
ちょうど横で飲んでいた常連が口を挟んだ。
「確かに飲むな」
「ほら!」
「冷えてたらもう一杯飲むぞ」
「ほら!」
博之がエレナを見る。
「聞いた?」
「聞きました」
「冷却魔道具いるやろ?」
「一人の意見ですよ」
「市場調査や!」
笑い声が広がった。
煮込み一杯から始まったボロ小屋。
それが四軒になり、魚が焼かれ、肉串の匂いが漂い、餃子の鉄板から湯気が上がる。
そこにワインとビールまで並んだ。
「なんか楽しくなってきたな」
博之は素直にそう思った。
エレナが笑う。
「野心家ですね」
「ちゃうちゃう」
「じゃあ何です?」
「冷たいビールと餃子が食いたいおっさんや」
「それが一番信用できません」
「必要経費やって!」
次にギルドへ行った時。
銀貨十枚の追加融資を相談する。
博之の頭の中では、もう冷たいビールが出来上がっていた。




