博之42歳異世界6か月目終盤。役割分担がうっすらできてくる。ここら辺一帯「おっさんの隠れ家」でいいんじゃね?
四軒の店がそれなりに回るようになると、博之一人で全部を見るのはさすがに無理になってきた。
「エレナさん、採用の方も頼んでええ?」
「私がですか?」
「俺、この町の人間よう分からんしな」
料理ができるかだけではない。
銭を数えられるか。
売上をごまかさないか。
時間通り来るか。
客と喧嘩しないか。
「結局、信用できる人が一番やと思うねん」
「分かりました。私の知っている人から探してみます」
「助かるわ」
一方、セラにも役割ができつつあった。
「怪我して仕事減ってる冒険者で、ちゃんとした人おったら見といて」
「また治療費貸すの?」
「セラさんの分返ってからな」
「慎重だね」
「当たり前や。俺の借金やぞ」
依頼達成率。
素行。
話が通じるか。
治療すれば復帰できそうか。
そういう人間をセラに見てもらう。
「なんか私、冒険者探す係になってない?」
「経験者の目の方が信用できるやろ」
「まあいいけど」
さらに、教会で続けていた勉強にも少し変化が出た。
ある夜、セラが言った。
「読み書きくらいなら、私が教えようか?」
「できるん?」
「依頼書読めなかったら冒険者できないよ」
「そらそうか」
特に子供たちはダンジョンの話になると食いつきが違う。
セラが昔の依頼書を書き写して、
『薬草三束』
『北門より半日の森』
『報酬・銀貨二枚』
などと書けば、リクなどは必死に読む。
「これ読めたら仕事取れるん?」
「読めないと何取ったか分からないでしょ」
「確かに」
博之は頷いた。
「ほんならセラさん、飯と餃子タダ。あとビール一杯」
「それで先生やれって?」
「嫌?」
「やる」
「即答やな」
「一食浮くし、餃子好きだし」
セラは笑った。
「私、完全にこのおっちゃん一派に入ってるね」
「一派言うな。なんか怪しいやろ」
店も四軒になった。
人も集まる。
勉強する者。
飯を食う者。
ダンジョンの情報を持ってくる者。
働き口を探す者。
「名前つけたら?」
ソラが言った。
「名前?」
「この辺全部」
「……おっさんの隠れ家でええんちゃう?」
「ほんまにそれにするん?」
「覚えやすいやろ」
店から始まったものが、徐々に別の形を持ち始めていた。
博之は皆に自分の考えを話した。
「怪我した冒険者を治して復帰させる」
治療費は貸す。
復帰後、少しずつ返してもらう。
返ってきた銭を基金のように貯める。
「その銭で次の人治す」
「うん」
「あと、金なくて鑑定受けられへん子供な」
金貨一枚貯まれば、一人鑑定する。
何か適性が見つかれば訓練する。
必要ならギルドから武器を借りる。
経験者と組ませ、低層階から仕事をさせる。
「稼げるようになったら鑑定代返してもらう」
「その金でまた次?」
「そういうこと」
セラが笑った。
「本当にギルド作るつもり?」
「ギルドちゃうって」
「やってること似てきてるよ」
「商会や、商会」
食材をまとめて仕入れる。
店を増やす。
余った利益を教育、治療、鑑定へ回す。
「飯食える人増えるやろ」
「住むところは?」
「そこもそのうちな」
野宿している者がいるなら、広いボロ屋を一つ借りて、最低限寝られる場所を作るのも悪くない。
「衣食住そろったら、人間そこそこ機嫌よう生きられるやろ」
「おっちゃん、ほんま宗教でも始めるん?」
リクが言う。
「絶対やらん!」
「なんで?」
「教会に睨まれるやん!」
皆が笑った。
「ちゃんと言うとくで。俺は女好き。酒好き。銭も好き。聖人ちゃうからな」
「それはもう知ってる」
セラが呆れたように言った。
するとエレナが小さく笑う。
「その割には、女の人にはあまり手を出しませんよね」
「……それは別問題や」
「なんで?」
「同じ店の人となんかあったら、次の日から微妙な空気なるやろ」
「私は別にいいですけど」
セラまで乗ってくる。
「私も助けてもらったし」
「いやいやいや!」
博之は慌てて両手を振った。
「それが一番嫌やねん!」
「何が?」
「助けたから抱いてくれ、みたいなん。金で気持ち買ったみたいになるやん」
「じゃあ普通に好きなら?」
「それは……」
博之が黙る。
セラがニヤニヤする。
「何?」
「いや……俺、まともな恋愛ほとんどしてへんからさ」
「うん」
「一晩寝たら責任取らなあかん気がして怖いねん」
「何それ」
「それやったら娼館の方が、その時だけで終わるし……」
「最低」
エレナが即答した。
「え?」
「私たちの気持ちは?」
「いや、だからそこまで俺を好きになる前提がおかしいやん!」
「このおっちゃん、面倒くさいなあ」
セラが笑う。
「スケベなくせに本気で来られたら逃げるんだ」
「的確に言うな!」
「ダンジョンより面倒そう」
「俺の恋愛をダンジョン扱いすんな!」
小屋いっぱいに笑い声が広がった。
飯屋四軒。
怪我人への貸付。
子供の教育。
スキル鑑定の基金。
冒険者の再起。
そして、四十二歳のおっさんのどうしようもない恋愛観。
「まあ……ぼちぼちやろか」
博之は餃子を一つ口に放り込んだ。
商会なのか。
ギルドなのか。
ただの飯屋なのか。
本人にもまだよく分からない。
ただ、このボロ小屋の周りには確実に人が集まり始めていた。




