博之42歳。異世界6か月目。3軒目を維持しながらワインとビールを置く。ビールには餃子やなと作ってみるとウケるwww冷蔵庫が欲しいwww
三軒の店が安定し、セラもダンジョンへ潜るようになった頃。
博之の頭の中には、また別のことが浮かんでいた。
「煮込みには、酒やと思うねんなあ」
「また何か始めるんですか?」
エレナが少し警戒するように聞く。
「いや、料理増やすというより酒置きたい」
「お酒?」
「ワインあるやろ?」
「ありますよ」
「ビールも?」
「あります」
「よし」
話を聞くと、ワインは瓶でも買えるらしい。
一方のビールは、店で出すなら樽で仕入れるのが普通だった。
「樽かあ」
「一本買うんですか?」
「みんなビール飲む?」
夕方の賄い時に聞いてみると、エレナが手を上げた。
「少しなら」
セラも笑う。
「ダンジョン帰りなら飲みたい」
「お前は借金返済中やろ」
「一杯くらいいいでしょ」
「まあ俺も酒好きやから、人のこと言えへんけどな」
結局、ワインを数本。
さらに一番小さなビール樽を一つ買った。
まず試したのは煮込みだった。
肉を焼き、野菜を入れ、いつもの出汁。
そこへ赤いワインを少し。
「おっちゃん、それ酒捨ててへん?」
「ちゃうわ。料理や」
「もったいない」
「お前まだ酒飲まれへんやろ」
じっくり煮ると、いつもの煮込みとは違う香りになった。
エレナが味見する。
「あ、これ好きです」
「やろ?」
博之も一口。
「うん。肉に合うな」
ワインと一緒に出してみれば、常連にも好評だった。
「今日はえらい豪華やな」
「ちょっとだけ値段上げるで」
「商売人やなあ」
だが、博之が本当に試したかったのは別にあった。
翌日。
小麦粉を水で練り、小さく丸める。
薄く伸ばす。
「何作ってるんです?」
「俺の故郷で酒飲む時によく食うやつ」
肉を細かく刻む。
葉野菜。
玉ねぎに似た野菜。
香辛料。
塩。
魚醤もどきをほんの少し。
全部混ぜる。
それを小麦粉の皮で包んだ。
「……変な形」
ミサキが言う。
「餃子や」
「ギョーザ?」
「そう」
「なんで閉じるん?」
「中の汁出んように」
油を敷いた鉄板に並べる。
じゅううう。
音とともに香ばしい匂いが広がった。
「水ちょっと入れて」
「水?」
「蓋して蒸す」
最後に蓋を取り、水分を飛ばす。
底には焼き色。
「よし」
一個食べる。
「……まだ改良いるな」
「食べていい?」
「熱いで」
エレナ。
セラ。
ミサキたちにも一つずつ渡す。
「うまっ」
リクが叫んだ。
「肉の汁出てくる!」
「せやろ」
セラはすぐビールを持ってきた。
「これ絶対合う」
「分かってるやん」
一口餃子。
一口ビール。
「……ああ、これ駄目だ」
「何が?」
「飲む」
「それが狙いや」
「博之、悪い商売覚えたね」
「俺の世界では定番や」
その日の夕方、試しに客にも出した。
「この焼いたやつ何?」
「餃子。とりあえず食ってみ」
「いくら?」
「三つで銅貨三枚」
「じゃあ一皿」
最初の客が食べる。
「……うまいな」
「ビールもあるで」
「じゃあ一杯」
次の客。
その次。
気づけば店先で餃子を焼く博之の前に人が集まっていた。
「おっちゃん、ビールもう一杯!」
「はいはい」
「餃子追加!」
「ちょっと待て!」
煮込みだけの時より、明らかに客単価が上がった。
「酒、強いな……」
営業後、博之は銅貨を数える。
「飯一杯で終わってた人が、餃子食ってビール飲んでるもんな」
エレナが言った。
「餃子、私も作りたいです」
「ほんま?」
「包むの面白いです」
「ほんなら覚えて」
「店にするんです?」
「……ありやな」
四軒目の構想が、あっさり決まった。
煮込み三軒。
その横で餃子と酒。
「エレナさんがこっち見るなら、誰か配膳一人つけよか」
「子供でもできますね」
「火は触らせへんけど、皿運ぶくらいならな」
さらに店の前では焼き魚。
少し離れたところでは肉串。
まだ小さい。
だが少しずつ、本当に横町らしくなってきた。
「おっちゃん、どんどん広げるな」
常連が笑う。
「野心家やな」
「野心家ちゃうって」
「じゃあ何や」
「できること増えたら、やったらええやん」
博之はビールを一口飲む。
「みんなも飲めるし」
「それ自分が飲みたいだけちゃうか?」
「それもある」
笑いが起きた。
ただ一つ、博之には不満があった。
「ぬるいな」
「ビール?」
「冷えてる方が絶対うまい」
エレナが言う。
「冷却の魔道具を買えば?」
「あるん?」
「ありますよ」
「いくら?」
「小さいものなら銀貨十枚くらいでしょうか」
「十枚……」
博之が黙る。
「まさか」
「買おかな」
「駄目です!」
エレナが即答した。
「なんで!」
「この前まで銀貨一枚あるかどうかで困ってた人でしょう!」
「必要経費やって!」
「ビール冷やすのが?」
「めちゃくちゃ大事や!」
「セラさんへの借金もありますよ!」
「それは返してもろてる!」
「エレナさんの治療費も貯めるんでしょう!」
「それも分かってる!」
横でセラが笑っていた。
「博之、金持ったら使うタイプなんだ」
「ちゃう。投資や」
「冷たいビールへの?」
「冷たいビールを舐めたらあかんぞ」
また笑いが起きる。
三軒の煮込み屋から始まった一角。
そこに焼き魚が加わり。
肉串が加わり。
今度は餃子と酒まで並び始めた。
「ほんまに横丁になってきたな」
博之は並んだ店を眺めた。
そして、ぬるいビールをもう一口。
「……やっぱ冷却魔道具欲しいな」
「駄目です」
「まだ何も言うてへんやん」
「顔に書いてあります」
少しずつ稼げるようになれば、欲しいものも増える。
それもまた、博之にとっては異世界で生きているということだった。




