博之42歳異世界6か月目。セラの腕が治ってから返済がてらダンジョンやギルドの話を持ってくる。博之が女ばかり助けていると常連に突っ込まれるwww
セラの腕が治ってから、ボロ小屋には一つ、新しい日課が増えた。
「ただいま」
「おう。今日も無事やった?」
「見れば分かるでしょ」
ダンジョンへ潜った日は、セラが帰りに必ず店へ寄る。
そして腰の袋から銀貨を一枚取り出し、博之の前に置いた。
「今日の分」
「はい、確かに」
「これで何枚?」
「まだ数えんでええ。先長いから嫌になるぞ」
「五十五枚でしょ」
「分かっとるやん」
治療費として借りた銀貨五十枚。
ギルドへの返済分まで合わせれば五十五枚。
低層階を中心に無理をせず潜り、一日仕事をした日は、その中から銀貨一枚を返す。
派手ではないが、着実だった。
「ほな飯食っていき」
「それ目的でも来てる」
「正直やな」
セラが賄いの煮込みを食べ始めると、ソラ、リク、ミサキが自然と周りに集まってくる。
「今日何倒したん?」
「地下鼠と角兎」
「強い?」
「低層なら大したことない。でも油断したら噛まれる」
「銀貨いっぱい稼げる?」
「お前ら、そこばっかりやな」
博之が笑う。
セラは匙を置いた。
「でも、普通の仕事よりは稼げるよ」
「やっぱり?」
「ただし危ない」
左腕を上げる。
「私はこれで半年終わってたからね」
三人が静かになる。
「博之が治療費出してくれなかったら、多分もう冒険者には戻れてない」
「貸しただけやぞ」
「分かってる」
セラは笑った。
「でも借りられる相手すらいなかったんだから一緒だよ」
そして三人を見る。
「だから勉強しときな。銭の計算もできた方がいい。仕事もあるうちにちゃんとやる」
ソラが少し気まずそうになる。
「俺のこと言ってる?」
「なんかあったの?」
「昔の話や!」
「つい最近やろ」
リクが突っ込んだ。
「あと鑑定な」
セラが言う。
「受けられるなら絶対受けた方がいい」
「そんな大事なん?」
「自分が何に向いてるか分からないまま鍛えるのは大変だよ」
弓。
剣。
身体強化。
索敵。
採取。
魔法。
本人の適性が分かれば、伸ばす方向を決められる。
「向いてないこと十年やるより、向いてること三年やった方が強くなる場合もある」
「おっちゃん、頼むで!」
リクが博之を見る。
「だから金貨一枚いるっちゅうねん」
「店でいっぱい飯売って!」
「簡単に言うなあ」
博之は苦笑した。
ただ、一つ道筋は見えていた。
セラから銀貨が少しずつ返ってくる。
五十五枚返済できれば、博之自身にもギルドとの信用が残る。
「今回ちゃんと返したらさ」
「うん」
「また次、同じような借り方できるかもしれへんやろ」
セラが頷く。
「ほんなら次の人や」
「また怪我人?」
「そう」
治療すれば働ける人間。
信用できる人間。
仕事を真面目にこなしてきた人間。
「その人治して、セラさんと組んでもらうのもありかなと思ってる」
「私と?」
「嫌ならええで」
「嫌じゃないよ」
セラは少し考えた。
「一人、いるかもしれない」
「ほんま?」
「まだ紹介するとは言ってない」
「ええええ。慎重やな」
「博之もそうだったでしょ」
「そらそうや。銀貨五十枚やぞ」
博之は笑った。
「誰彼なしに貸してへんからな」
「でも女ばっかり助けてへん?」
常連のおっちゃんが横から口を挟んだ。
「エレナさんやろ。子供らがおって、今度はセラさん」
「いやいやいや」
博之が全力で否定する。
「ムッキムキのおっちゃんに銀貨五十枚貸してみ?」
「なんで?」
「返せって言った時に『知らん』言われて胸ぐら掴まれたら俺終わりやん!」
店の中で笑いが起きた。
「そこなん?」
「大事やろ!」
博之には剣も魔法もない。
殴り合いなど論外である。
「それだけちゃうで。依頼達成率とか、ちゃんと話できるかとか、金遣いとか、一応見てるからな」
「私、審査されてたんだ」
「めっちゃしてた」
「感じ悪いなあ」
「銀貨五十枚やぞ!」
また笑いが起きる。
セラは少し考えてから言った。
「じゃあ、信用できそうな人がいたら連れてくる」
「頼むわ」
「私も借りあるしね」
「借りは金だけ返してくれたらええって」
「それだけじゃないよ」
セラは少し真面目な顔になった。
「私にとっては命の恩人みたいなもんだから」
「やめやめ。重たい」
「じゃあ何か別のお返しする?」
「ん?」
セラがわざと意味ありげに笑う。
「女として」
「いやいやいや、それはなんか違う!」
博之は即座に手を振った。
「なんで?」
「金貸した見返りにそれやったら、なんか気持ちまで金で買ったみたいで嫌やねん」
一瞬、店が静かになった。
博之は腕を組む。
「俺が欲しいのはな」
「何?」
「愛や、愛」
「……」
「四十過ぎのおっちゃんやけど、俺だってまともに女の人に愛されたいねん」
数秒。
リクが言った。
「おっちゃん、キモいで」
「うるさい!」
店中が爆笑した。
セラまで腹を抱えている。
「自分でスケベジジイ言うてたやん!」
「スケベと愛は両立すんねん!」
「知らんわ!」
エレナまで笑っていた。
煮込みを食べ。
銀貨を返し。
ダンジョンの情報を交換し。
次に誰を治すかを考える。
気づけば、このボロ小屋には飯を食う以外の理由で人が集まり始めていた。
博之自身は、まだ気づいていなかった。
ここが少しずつ。
貧乏人と落ちこぼれのための、小さなギルドのような場所になり始めていることに。




