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博之42歳異世界5か月目の末日。セラの治療費55枚をギルドから借りセラの腕を治療する。完治したらセラに抱きつかれて感謝される

 セラと話をしてから数日後。

 博之は再び冒険者ギルドの窓口に立っていた。

「相談あるんですけど」

「はい」

「銀貨五十枚、貸してもらわれへん?」

 受付の男が一瞬黙った。

「……五十枚ですか?」

「うん」

 今の博之の店は三軒。

 焼き魚や肉串も少しずつ売れ始めている。

 ギルドには、貯めた銀貨のうち四枚を預けていた。

「この四枚、担保みたいなんにできへん?」

「目的は?」

「あの人」

 少し離れたところで待っているセラを指した。

「腕の治療」

 受付の男は事情を聞き、セラの過去の記録を確認した。

 怪我をする以前の依頼達成率は高い。

 大きな問題も起こしていない。

 最近、博之が試しに頼んだ軽い依頼もすべて完了している。

「なるほど」

「治したらまた弓使えるんやろ?」

「治療院の見立てでは、その可能性は高いですね」

「ほんなら貸して」

「簡単に言いますね」

「俺も怖いで」

 銀貨五十枚。

 今の博之が一年働いてようやく貯められるかどうかという額である。

 受付の男はしばらく計算してから言った。

「では、半年後までに銀貨五十五枚で返済してください」

「五枚増しか」

「当然です」

「まあ、そらそうやな」

 ギルドに預けた銀貨四枚は、その間動かせない。

 さらに店の収益も確認される。

「返せなくなった場合は?」

「預り金を充当したうえで、店の収益から返済していただきます」

「怖っ」

「借金ですから」

「ですよね」

 博之はセラを見る。

「という話やけど」

「やる」

 即答だった。

「まだ説明終わってへんで」

「治るならやる」

 セラは左腕を見る。

「半年ずっとこれだったんだよ。治るなら働く」

 受付の男も説明を続けた。

 治療後すぐに深い階層へ戻すことはしない。

 まずは経験者のいるパーティーに入り、低層で身体を慣らす。

 一日のパーティー全体の成果が銀貨十枚前後。

 ギルド手数料。

 装備の修繕。

 矢。

 薬。

 必要なら装備レンタル。

 そして仲間への分配。

 全部差し引けば、セラが博之へ返せるのは、順調な日で銀貨一枚程度だろうという。

「ほんなら五十五回ぐらい潜れば終わりか」

「単純計算なら」

「毎日は無理?」

 セラが答える。

「休まないと身体が持たない」

「そらそうか」

 週五日なら十一週間。

 二か月半ほど。

 天候や怪我、依頼の有無まで考えれば三、四か月。

 半年あれば十分狙える。

「ただし」

 受付の男が博之を見る。

「セラさんが途中で逃げれば、借金は博之さんのものです」

「そこなんよな」

 セラがむっとした。

「逃げない」

「いや信用してへんわけちゃうねん」

「してない顔してる」

「銀貨五十枚やぞ。そら怖いやろ」

「治してくれたら働くって」

「バンバン?」

「バンバン行く」

「無茶だけはすんなよ。死んだら回収できへんから」

「そこ?」

「大事や」

 契約書が作られた。

 ギルドから博之へ銀貨五十枚。

 半年以内に五十五枚で返済。

 博之からセラへの貸付も、ギルド立ち会いで記録した。

 返済は一日最大銀貨一枚程度を目安にし、仕事がない日は無理に払わせない。

「よし」

 博之は契約書に印を入れた。

「行こか」

「どこ?」

「治療院に決まってるやろ」

 そのまま二人で治療院へ向かった。

 診察。

 改めて腕の状態を確認する。

 そして高位の治療師が呼ばれた。

「少し痛みます」

「大丈夫」

 セラが横になる。

 淡い光が左肩を包んだ。

 筋肉。

 腱。

 傷んだ部分へ魔力が流れ込んでいく。

 時間は思っていたより長かった。

 博之は横で黙って待っていた。

 やがて治療師が手を離す。

「ゆっくり動かしてみてください」

 セラが恐る恐る左腕を上げた。

「……え?」

 もう一度。

 肩より上まで上がる。

 指を握る。

 開く。

「動く」

「無理はしないでください。しばらく訓練が必要です」

「動く……」

 セラの声が震えた。

 半年間、まともに上げることのできなかった腕だった。

「よかったやん」

 博之が笑った。

「これで借金返せるな」

「博之」

「ん?」

 次の瞬間。

 セラが博之に抱きついた。

「うおっ」

「ありがとう……」

 肩が震えていた。

「いやいやいや」

「もう弓引けないと思ってた」

「分かった分かった」

「誰も助けてくれなかった」

 セラは泣いていた。

「治す金がないって言ったら、それで終わりだったから」

 博之は困った顔で立っていた。

 こういう時、どうしたらいいのか分からない。

 とりあえず背中を軽く叩いた。

「まあ……治ってよかったな」

「うん」

「でもな」

「何?」

「銀貨五十五枚やからな」

 セラが泣きながら笑った。

「分かってるよ!」

「ちゃんと返してや。俺まで破産するから」

「絶対返す」

「ほな、ぼちぼちな」

 五十枚借りた。

 五十五枚返す。

 失敗したら博之の借金。

 成功すれば、セラはもう一度冒険者として働ける。

 そして返ってきた金を、次の誰かに使える。

「ほんまに始めてもたな」

 博之は治療院を出ながら呟いた。

 飯屋三軒の店主が。

 とうとう、人間一人の再出発に銀貨五十枚を賭けた。

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