博之42歳異世界3か月目。さぼったソラはバツが悪い。諭す博之。先々ギルドの鑑定も順番にやらそうかな。
その日の夜。
客が引いたあと、ソラは少し気まずそうに店の隅に座っていた。
リクとミサキも、まだ完全には納得していない顔をしている。
「まあ、今回のことはもうええよ」
博之は鍋を洗いながら言った。
「でもな、こういうちっちゃいことの方が意外と大事やねん」
「ちっちゃいこと?」
「そう。お前ら三人、今まで一緒に飯分けたり、仕事探したりして生きてきたんやろ?」
「うん」
「ほんなら、そこで一人だけ黙ってサボったとかなると、結構あと引くねん」
ソラが俯く。
「信頼関係って、崩れるん早いけど戻すん大変やからな」
「……ごめん」
「俺に謝るだけちゃうぞ。リクとミサキにもな」
「ごめん」
リクはまだ少し不満そうだった。
だがミサキが、
「次ちゃんとしたらええやん」
と言うと、リクも渋々頷いた。
「別に遊ぶなとは言うてへんで」
博之は続けた。
「遊びたいなら、今日休むって言えばええねん」
「ええの?」
「その代わり給料なし」
「そらそうか」
「自分で稼いだ銭で飯食いに行くんやったら、それはお前の自由や」
少し考えてから付け足す。
「むしろ遊びに行った先で、どこの仕事が増えてるとか、どこの飯が安いとか、
変な話仕入れてきてくれたら、それもありがたいぞ」
「それ仕事なん?」
「場合によってはな」
ソラが少し笑った。
「働く時は働く。休む時は休む。それでええねん」
博之は三人を見る。
「店がもっと安定してきたら、三人毎日働く必要もないと思ってる」
「ほんま?」
「二人働いて一人休みでもええやろ。順番で」
「おっちゃん、そんなんでええの?」
「三人分毎日給料払うより俺も楽やしな」
「そっちかい」
リクが笑う。
「そっちも大事や」
ソラはしばらく黙ってから言った。
「俺、ちゃんとやるわ」
「うん」
「今は頑張った方がええっていうのは分かる」
教会にも金を払った。
数字を覚えれば店の役に立つということも、少しずつ分かってきた。
「銭数えられたら、俺も店できるんやろ?」
「できるできる。釣り銭間違えんかったらな」
「じゃあ勉強する」
「そうかそうか」
博之は笑った。
「おっちゃんも失敗いっぱいしてきたからな。別に一回サボったくらいで切ったりせえへん」
リクが横から言う。
「でも次やったら?」
「その時考える」
「甘いなあ」
「お前が店主ちゃうやろ」
皆が少し笑った。
話はそのまま店のことになった。
「もう四十食、だいたい売れるやん」
ミサキが言う。
「せやな」
「もっと作ったら?」
「そこやねんなあ」
人をもう一人雇うか。
それとも今の利益を貯めるか。
エレナの根本治療にも金がいる。
教会にも銀貨一枚と銅貨五十枚を払ったが、いつまでもそれだけで教えてくれるわけではない。
「またそのうち寄付お願いします言われるやろな」
「でも勉強したい」
「分かっとる」
博之は笑った。
リクが言った。
「おっちゃん、もっと店増やしたら?」
「簡単に言うなあ」
「ここら辺、仕事少ないねん」
ソラも頷く。
「でも、おっちゃんの飯うまいし」
「めちゃくちゃうまい料理ではないで」
「俺らからしたらうまい」
「そう?」
「味するもん」
「基準低いなあ」
「ほんまやって」
店を増やせば、人を雇える。
売れ残りを賄いに回せば、飯を食える人も増える。
「炊き出しも増やしたら、みんな喜ぶで」
「なんで俺がそこまでせなあかんねん」
博之が即答すると、三人が笑った。
「できる範囲や」
博之は言った。
「町全部なんとかするとか無理やからな」
この周辺には貧しい人が多い。
仕事のない者。
親のいない子。
病気で働けない者。
全部助けるなどできるはずがない。
「知り合った人を、ちょっと助けるくらいや」
「それでも十分やろ」
「そうかな」
そこで博之は思い出した。
「そういや銭、どっか預けられへんかな」
エレナが答える。
「ギルドなら預かってくれると思いますよ」
「ギルドか」
まだちゃんと行ったことがない。
「ほんなら今度見に行くか」
「仕事もいっぱいあるで」
リクが言う。
「お前ら鑑定って受けたことないんやろ?」
三人とも首を振った。
「金貨一枚するもんな」
「無理や」
「そら無理やな」
博之は少し考えた。
「店の銭がもうちょい貯まったら、ソラかリク、一人ぐらい鑑定受けてみるか」
「え?」
二人の目が丸くなる。
「ほんまに?」
「何か使えるスキルあったら、荷運びより稼げる仕事できるかもしれんやろ」
「ダンジョン?」
「いきなり一人で行かせへんけどな」
装備もいる。
経験もいる。
誰かについてもらう必要もある。
「でも、その最初の金くらいは肩代わりしたる」
「おっちゃん……」
「ただし貸しやぞ」
「貸し?」
「金貨一枚。稼げるようになったらちょっとずつ返して」
「ああ」
「返ってきたら、その金でリクなりミサキなり、次のやつ鑑定できるやろ」
三人が顔を見合わせる。
「なんか、おっちゃんめっちゃええ人やな」
ソラが言った。
「違う違う」
博之は手を振った。
「勘違いすんなよ」
「でも」
「俺、根っからのスケベジジイやぞ」
「スケベ?」
「そこ説明させんな」
エレナが吹き出した。
「酒も好きやし、銭も欲しいし、楽もしたい」
「十分普通じゃないですか」
「いやいや。煩悩まみれやからな」
博之は笑った。
「慈善事業したいわけちゃうし、新しい宗教始める気もないで」
「誰もそんなこと言ってへん」
「俺を聖人みたいに扱うなっちゅう話や」
皆が笑った。
博之も笑った。
ただ飯を売っていただけのボロ小屋。
そこに子供が集まり。
エレナが働き。
少しずつ銭が回り始めた。
次はギルド。
そして、スキル鑑定。
「まあ、まず明日も四十食売ろか」
「うん!」
「全部そこからや」
博之はそう言って、翌日の鍋を洗い始めた。




