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博之42歳。銭の現状は銀貨3枚と銅貨50枚。エレナさん治療のため治療院で薬を買い、教会で話を聞く。寄付して読み書き計算を教えてもらう

二軒の店を一週間ほど回したところで、博之は一度、きっちり銭を数え直した。

 食材代。

 薪と調味料。

 二軒分の家賃を日割りした分。

 エレナの日当。

 洗濯や掃除を任せるための月銅貨五十枚も見込んでおく。

 ミサキたちの賄いも含めて計算すると。

「銀貨三枚と、銅貨五十枚か」

 全部で銅貨三百五十枚。

「まあ……増えたな」

 異世界に来た直後を考えれば十分だった。

 だが、金ができればできたで、使いたいところも出てくる。

「エレナさん」

「はい?」

「今日、店ちょっと早めに終わって治療院行きません?」

「私が?」

「一回ちゃんと診てもらいましょう」

「でも、お金が……」

「あるうちに行くんですよ」

 博之は銭袋を持ち上げた。

「働いてくれたお礼ということで」

「そんな……」

「倒れられた方が俺が困ります」

 結局、半ば押し切るようにエレナを連れて治療院へ行った。

 診察だけなら、それほど高くない。

 身体を診てもらい、当面の薬も出してもらう。

「この薬をしばらく続けてください」

 治療師が言った。

「これで治るんですか?」

 博之が聞く。

「いえ。症状を軽くするものです」

「根本的には?」

「ここでは難しいですね」

 高位の治癒魔法を使える者なら、原因そのものに働きかけられる可能性がある。

 ただし教会の高位治癒師や、貴族お抱えの治療師になるという。

「当然、高い?」

「かなり」

「ですよね」

 エレナが苦笑した。

「だから私は薬だけだったんです」

 診察と薬代を合わせて銅貨数十枚。

 これですら、以前のエレナには定期的に払うのが難しかった。

「しばらく薬は飲みましょう」

「博之さん……」

「ええって」

「でも」

「働いて返すとか考えんでいいです。今まで働いてくれた分のお礼」

 エレナは何度も頭を下げた。

「ありがとうございます」

「元気になって鍋見てくれたら、それでええです」

 次に向かったのは教会だった。

 どうせ行くなら、エレナの根本治療についても聞いてみる。

「まず診るだけなら銅貨五十枚ほどですね」

 神父が答えた。

「そこから治療できるか判断します」

「治せるとして?」

「軽いもので銀貨数枚。病によっては数十枚になることもあります」

「数十枚……」

 今の店では、すぐには無理だ。

 だが、絶対に届かない額でもない。

「ほんなら、それを一つ目標にするか」

「え?」

 エレナがこちらを見る。

「店でもっと稼げるようになったら、一回ちゃんと診てもらいましょう」

「そこまでしていただかなくても」

「まだ払う言うてへん。目標や、目標」

 博之は笑った。

 そして、もう一つ本題があった。

「神父さん、読み書きって教えてもらえません?」

「どなたに?」

「俺と、この四人です」

 博之。

 エレナ。

 ソラ。

 リク。

 ミサキ。

「俺は計算はできます。でもここの文字が読めへん。この四人は読み書きも計算もまだ怪しい」

「なるほど」

「特に銭の計算を教えてほしいんです」

 店をやるなら、そこは絶対だった。

 銅貨が何枚。

 銀貨にすればいくら。

 何食売った。

 仕入れはいくら。

 釣り銭はいくら。

「せめて、その辺は自分でできるようになってほしい」

 しかし神父は申し訳なさそうに言った。

「教えること自体はできます。ただ、こちらも孤児たちを抱えておりまして」

「タダでは難しい?」

「はい」

「そらそうですよね」

 博之は銭袋を開いた。

 少し迷った。

 そして銀貨一枚と銅貨五十枚を置いた。

「これでどうです?」

「こんなに?」

「毎日は言いません。週二回くらい。一時間でも二時間でもええです」

「ですが……」

「俺ら五人に、読み書きと計算を教えてください」

 まず数字。

 次に簡単な単語。

 値段。

 商品の名前。

 店で使う文字。

「店が安定してきたら、また定期的に寄付します」

 神父は机の上の銭を見た。

「このお金があれば、孤児たちの食料も買えます」

「ほんならちょうどええやないですか」

 博之は笑った。

「こっちは勉強できる。そっちは飯買える」

「……分かりました」

 神父が頭を下げる。

「週二回、夕方にいらしてください」

「お願いします」

 帰り道。

 博之は残った銭を数えた。

 治療院。

 薬。

 教会への寄付。

 教育代。

「また銀貨一枚くらいになってもうたな」

「使いすぎじゃないですか?」

 エレナが心配そうに言う。

「使ったなあ」

 博之も苦笑した。

 せっかく貯めたのに、かなり減った。

 それでも。

「まあ、ええんちゃう?」

「いいんですか?」

「エレナさんの薬あるやろ。俺らも文字と計算覚えられる」

 何も残らなかったわけではない。

 店もある。

 鍋もある。

 明日の仕入れをする銭も残っている。

「また四十食売ったらええねん」

 博之はそう言った。

 治療には、もっと金がいる。

 教育にも金がいる。

 その先にはギルドやスキル鑑定もある。

 課題はいくらでもある。

 だが今は。

「まず明日の飯やな」

「はい」

「売って、残して、また貯める」

 銀貨一枚から、また始めればいい。

 そうやって少しずつ。

 博之たちの次の一週間が始まろうとしていた。

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