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博之42歳異世界2か月目。昼夜で20食が限界。火を見れる大人知ってるかと聞きエレナさんを紹介してもらう

客が増えてきたのはありがたい。

 ありがたいのだが、問題も出てきた。

「1日二十食ぐらいが限界やな」

 昼の営業が終わったあと、博之は空になった鍋を見ながら呟いた。

「もっと作ればええやん」

 ミサキが簡単に言う。

「鍋でかくしたら済む話ちゃうねん。野菜切って、出汁取って、火見て、客来たら盛って、

 銭もろて、皿洗ってやぞ」

「おっちゃん忙しそうやもんな」

「お前も手伝ってくれてるけど、まだ火は触らせられへんしな」

「できるで」

「できるできへんやなくて、火傷したら俺が嫌やねん」

 ミサキは少し口を尖らせた。

 ただ、すぐ隣にはもう一軒、長く使われていない小屋があった。

 博之が借りているところよりさらに狭いが、鍋を置いて飯を出すだけなら十分使えそうだった。

「隣も借りて、もう一鍋やるか」

「四十食?」

「最大な。こっち二十、向こう二十」

 だが問題は人だった。

「大人一人ほしいな」

「男の人?」

「別におばちゃんでもええし、女の人でもええ。火だけちゃんと見れて、鍋焦がさん人」

 その話をソラ、リク、ミサキにすると、三人が顔を見合わせた。

「一人おるで」

「ほんま?」

「エレナさん」

 聞けば三十代半ばくらいの女性らしい。

 夫を亡くしてから一人で暮らしているが、身体があまり丈夫ではなく、

 港の荷運びのような仕事はできない。

 時々、洗濯や縫い物を請け負っているものの、仕事は安定しないという。

「料理は?」

「たぶんできる」

「たぶんかい」

 翌日。

 三人に連れられてきたエレナは、少し痩せた女性だった。

 派手さはないが整った顔立ちで、疲れてはいるものの、どこか柔らかい雰囲気がある。

「初めまして」

「どうも。博之です」

 少し話を聞く。

 読み書きは、自分の名前と簡単な単語が分かる程度。

 計算も銅貨を数えるくらい。

「まあ、俺もここの文字ほとんど読まれへんから、偉そうなこと言えんけど」

「え?」

「遠いところから来たんです」

「ああ……」

「とりあえず、鍋の火を見てもらえません?」

「それだけでいいんですか?」

「最初は」

 博之は隣の小屋を指した。

「俺が両方の鍋を作ります。向こう二十食、こっち二十食。味付けも俺が見る。エレナさんは

 焦げへんように混ぜてもらって、客来たら盛ってください」

「はい」

「銭の計算はミサキと一緒にやりましょう」

「私?」

「お前も勉強や」

 ミサキが少し嬉しそうに頷いた。

「ただしな」

 博之は三人の子供を見る。

「向こう二十食作るけど、二十全部売れるとは思ってへん」

「余ったら?」

「賄い」

「俺ら食える?」

 リクが即座に聞いた。

「そこかい」

 三人が笑う。

「お前ら三人は最初に知り合ったから、飯くらいはちゃんと考える」

「よっしゃ」

「ただし」

 博之は少し真面目な顔になった。

「俺はお前らの親ちゃうからな」

 三人が静かになる。

「ソラとリクが外で働いて稼いだ銭を俺が取ることもせえへん。ミサキがここで働く分の賄いも出す。

 ただ、何でもタダ、何でもおっちゃんがやってくれる、にはしたくない」

「なんで?」

「慣れ合いになると、あとでしんどなるから」

 博之自身、どこまでできるのか分からない。

 一人なら何とか食えるようになった。

 三人なら賄いを出せる。

 けれど、この辺には同じような子供が何百人もいるという。

「今のおっちゃんに全員助ける力なんかないからな」

「うん」

「だから、できることだけやる」

 そのくらいがいい。

 翌日から二軒での営業を始めた。

 博之の店は二十食。

 こちらはすでに常連がいるので、ほぼ売り切れる。

 隣は二十食。

「こっちは十五売れたら上出来やな」

「残り五つは?」

「お前ら狙ってるやろ」

「へへ」

 ミサキが笑った。

 実際、初日は十四食売れた。

 六食余った。

 博之、ミサキ、ソラ、リク。

 さらに近所の仕事のない老人二人にも一杯ずつ渡した。

「今日は余っただけやで」

「分かっとる。ありがとな」

「毎日あると思わんといてや」

 そして営業が終わったあと。

 博之はエレナに飯を一杯出し、その横に銅貨十五枚を置いた。

「これ、今日の分です」

 エレナが動かなかった。

「……十五枚?」

「少ないですか?」

「いえ」

 何度も首を横に振る。

「多いです」

「そう?」

「私みたいなのに……」

「いやいや」

 博之は困ったように頭をかいた。

「火見てもらって、客に出して、片付けもしてくれたやないですか」

「でも……」

「あと賄い一食。これでしばらくお願いできません?」

 エレナの目が赤くなった。

「本当に……毎日ですか?」

「店が潰れへん限りは」

「ありがとうございます」

 声が震えていた。

「いや、そんな泣かんでも」

「身体が弱いって言うと、どこも雇ってくれなくて……」

「ああ……」

「一日十五枚あって、ご飯までいただけるなら……」

 博之は少し黙った。

 この世界では、働けないのではない。

 できる仕事が見つからないだけの人間が、思っていたより多いのかもしれない。

「ほんなら、ぼちぼちやりましょう」

「はい」

「無理して倒れたら困るんで、しんどい日はちゃんと言うてください」

 エレナはまた深く頭を下げた。

 博之は二つの鍋を見る。

 二十食だった店が、四十食になった。

 店員も一人増えた。

 大した商売ではない。

 けれど。

「……なんか会社みたいになってきたな」

「カイシャ?」

「いや、こっちの話」

 博之は笑いながら、翌日の出汁を仕込むための鍋を洗い始めた。

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