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博之43歳。異世界十六か月目、商会の隣に出張所をつくる。事務方が瀕死なんで人材補強するwww

 三号店の話まで決まり始めた頃。

 おっちゃんの隠れ家商会は、別の意味で限界を迎えつつあった。

「……書類、多ない?」

 朝、博之が一階へ降りる。

 机の上には求人。

 仕入れ。

 修繕。

 鑑定候補。

 治療融資。

 二号店からの報告。

 三号店の準備。

 そこへ細かい支払いの決裁まで混ざっている。

「銀貨一枚の話まで俺んとこ持ってこんでええやろ!」

「今まで博之さんが見てましたから」

「もう無理!」

 博之はとうとう宣言した。

「出張所作ろ」

「……出張所?」

「隣の小屋、空いてたやろ?」

 商会からすぐ隣。

 一階と二階がある、ごく普通の住居だった。

 豪華でもない。

 広くもない。

 ただ、四、五人が机を並べて仕事をするくらいなら十分だった。

「借りよ」

「また固定費増えますよ」

「俺が死ぬより安いやろ」

「それはそうですね」

「即答すんな」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 数日後。

 隣の建物を借り、まず一階へ机を運び込んだ。

「ここで前さばきして」

 博之が決めた基準は単純だった。

「銀貨三枚以下の案件、基本俺まで持ってこんでええ」

 細かな仕入れ。

 備品。

 簡単な修繕。

 店長から出てくる小口の支払い。

「もちろん何でも勝手に払えって意味ちゃうで」

 申請内容を見る。

 店長に確認する。

 過去の金額と比べる。

 おかしければ止める。

「で、問題なさそうならそっちで処理。微妙なんだけ俺に上げて」

「銀貨三枚を超えたら?」

「基本俺か、帳簿側」

「分かりました」

「とにかく俺に来る紙の枚数減らして!」

 これは切実だった。

 今まで受付や申請の補助をしていた二人を、まず出張所へ回す。

 さらに人員を二人追加することにした。

「帳簿を完璧につけられる人じゃなくてええねん」

 博之は人探しを頼む際にもそう説明した。

「話聞いて、紙読んで、『これは普通』『これは怪しい』『これは上に回す』って分けられる人」

 高度な会計能力より、前さばき。

 人の話を聞ける。

 最低限の読み書きと計算ができる。

 そして妙な案件を勝手に決めない。

「そういう人二人くらい探して」

「条件、意外と難しいですよ」

「せやから給料払うねん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「二階はどうします?」

 新しく借りた建物の二階を見ながら聞かれる。

 博之は少し考えた。

「……とりあえず仮眠場所で」

「またですか?」

「またです」

 布団を何組か置く。

 疲れた者が横になれる程度でいい。

「贅沢ですねえ」

「いや、うちの事務方見てみ?」

 元々、博之のところへ来た事務方には少々癖のある人間が多かった。

 数字は正確だが会話が苦手。

 締め切り直前だけ異様に速い。

 酒が好き。

「問題児っぽいの集まってんのに、意外とちゃんと回ってるやろ?」

「そこは本当に不思議です」

「飯食えるからちゃう?」

 勤務中も食事はかなり自由。

 仕事が終わっていれば少し休んでもいい。

「昼寝もええしな」

「酒まで飲んでいいんですよね?」

「一杯な!」

 博之が即座に訂正する。

「前、三杯飲んで仕事にならんかったやつおったから、一杯まで!」

「そこまで自由なのもどうかと思いますけど」

「でも仕事してるやろ?」

「してます」

「ほなええやん」

 正確に帳面をつける。

 金を盗まない。

 ミスを隠さない。

 必要な時には働く。

 そこさえ守れば、博之は細かいことを言わなかった。

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 出張所を作ることを伝えると、事務方から予想以上の反応が返ってきた。

「めちゃくちゃ助かります」

「そんな?」

「死にそうでした」

「ごめん」

 博之が素直に謝った。

「最近さすがに増やしすぎたな」

「飯がなかったら辞めてます」

「そこまで?」

「私はジュースがあるので頑張れます」

「安いな!」

「毎日飲めますから」

「まあ、それで機嫌よう働いてくれるなら何杯でも飲んで」

 皆が笑う。

 だが博之自身も、これはちゃんと反省していた。

「俺も無理やもん、そもそも」

 自分が処理できない量を、部下なら処理できると思う方がおかしい。

「これから銀貨三枚以下は、できるだけ出張所で処理。整理して、それでも俺が

 判断せなあかんやつだけ持ってきて」

「助かります」

「ほんまに」

「ありがとうございます」

「そんな感謝されると思わんかった」

・・・・・・・・・・・・・・・・

 すると、一人が思い出したように聞いた。

「でも博之さん」

「何?」

「三号店、出すんですよね?」

「……出すことになった」

 全員が黙った。

「何その顔」

「増やしてるじゃないですか」

「いや、向こうから来てくれって言われたから!」

「二号店まででも結構いっぱいなのに」

「せやから人増やしてん!」

「ぎりぎりですよ」

「分かってるって!」

 博之は頭を抱えた。

「俺も最近、自分で何の仕事してんのか分からんねん」

「飯屋ですよね?」

「そのはずやってん」

 今では飯を作るより、紙を見る時間の方が長い。

 だからこそ、減らせるものは減らす。

 任せられるものは任せる。

「三号店作る前に、俺が潰れたら意味ないからな」

「その判断は正しいです」

「ナイス判断です」

「もっと早くしてください」

「最後のやつ厳しない?」

 笑い声が上がった。

 こうして商会の隣には、小さな出張所ができた。

 一階では細かな案件をさばき。

 二階では、疲れた者が昼寝する。

 博之のところへ届く書類は、ようやく少しだけ減ることになった。

「これで飯のこと考えられるかな」

「三号店の書類が来ますよ」

「……聞こえへんことにするわ」

 商売が大きくなるというのは、店を増やすことだけではない。

 仕事を手放す仕組みまで作らなければ、自分自身が先に潰れる。

 十六か月目。

 博之はようやく、その当たり前のことを身をもって理解し始めていた。

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