博之43歳。異世界16か月目。色々動く。鑑定を巡って若手が揉める姿を見て、そんなんなら鑑定させないぞとたしなめるwww
十六か月目も後半に入った。
三号店の準備まで始まり、さすがに博之も「全部を本店で見る」というやり方を諦め始めていた。
「二号店にも帳簿見れる人、一人置こ」
統括から上がってくる数字そのものは悪くない。
ただ、売上の集計、仕入れ、道路の場所代、人件費、リクの薬の販売手数料。
店が大きくなるほど細かな金の動きが増えている。
「本格的な決算は商会で見る。でも日々の前さばきは向こうでやって」
「助かります」
「銀貨三枚以下なら、ある程度そっちで判断してええから」
新しい帳簿係を二号店へ置いた。
すると早速、数日後に報告が来る。
『売上と現金が銅貨三十七枚合いませんでした』
「ほら出た」
博之が苦笑する。
だが、その次の行には、
『生餃子の持ち帰り容器代を経費に記入していなかったことが判明。修正済み』
とある。
「……解決してるやん」
さらに別の日。
『ドーナツの仕入れ数を二重記帳しました。確認して修正しました』
「これも自分らで直してる」
博之は帳面を閉じた。
「ええやん。間違えるんはしゃあない。隠さんと自分らで見つけて直すなら、それでええよ」
少しずつ、本店へ上がってくる紙が減っていた。
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一方、怪我をしたソラも少しずつダンジョンへ戻っていた。
「今日は無理すんなよ」
「分かってる」
「絶対分かってへん顔してる」
ゼルダが横で笑う。
最初は低層。
そこから少しずつ、以前怪我をした辺りまで。
前なら勢いのまま槍を持って前へ出ていたソラも、今回はゼルダの声をよく聞いた。
「前、行きすぎるな」
「うん」
「敵を倒すことより、後ろがついて来られる位置にいろ」
「分かった」
無理をしない。
ミサキも治癒を使いすぎない。
ユーリも魔力を残す。
派手ではなかったが、その日の探索は誰も怪我せず終わった。
「どうやった?」
商会へ帰ってきたソラに博之が聞く。
「前よりじれったい」
「それでええねん」
「でも稼げた」
ソラは銀貨を取り出す。
「返済、またできるで」
「おお」
以前のように、一回で大きく稼ぐ必要はない。
無事に帰り、何回も潜り、少しずつ返す。
「借金なんか、死んだら返されへんからな」
「おっちゃん、そればっかりや」
「貸し主やからな!」
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リクの方にも、小さな変化があった。
「先生」
「今度は何や」
「一般用の薬、ちょっと売れてきた」
「ほんま?」
冒険者初心者向けの詰め合わせは相変わらず微妙だった。
ところが、ミサキの治療場所や二号店に吊るした小袋。
傷薬。
腹の薬。
熱冷まし。
こちらがぽつぽつ売れる。
「家に置いとく人が買ってくれる」
「やっぱそっちやったか」
「冒険者より普通の人の方が多い」
「おもろいな」
狙った客とは違った。
だが、売れるならそれでいい。
「リク、初心者パック失敗した意味あったやろ?」
「先生、それ言いたいだけやろ」
「三枚損したからな」
「俺の三枚や!」
「それもそうやな」
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そんな中。
今度は横丁の若手同士で揉め事が起きた。
「何してんの?」
博之が行くと、若い男の子二人が言い争っている。
「俺の方が長く働いてる!」
「でも店長は俺の方が仕事できるって言うてる!」
「何の話?」
周りが少し気まずそうにする。
「……鑑定」
「は?」
次に誰が鑑定候補になるか。
どうやら横丁で真面目に働いていれば候補になれる、という話が少しずつ広がってしまったらしい。
「俺の方が勤務日数多い!」
「俺は教会でも勉強してる!」
「ちょっと待て」
博之の声が低くなる。
二人とも黙った。
「鑑定受けるために働いてんの?」
「いや……」
「そもそも、誰が次ってまだ決めてへんぞ」
博之は周囲も見る。
「これで揉めるんやったら、鑑定しばらくやめるで」
「えっ」
「ほんまに」
一気に静かになる。
「俺、別に毎月絶対一人鑑定しますって約束してへんからな」
金貨一枚。
返済は銀貨百十枚。
博之にとっても軽い金ではない。
「誰が早いとか、誰が得するとかで喧嘩始めるんやったら、そんな制度やめた方が楽や」
「……ごめんなさい」
「ごめんなさい」
二人が頭を下げた。
「仕事は仕事。鑑定はその先に機会があるかもしれんってだけ」
勤務日数だけでもない。
仕事の速さだけでもない。
周囲とうまくやれるか。
嘘をつかないか。
人が見ていない時にも仕事をするか。
「そういうん全部、大人らが見て決める。自分から『俺が先や』って言うたら
有利になる制度ちゃうから」
横にいた店長たちも頷く。
「分かった?」
「はい」
「ほな今日は終わり」
博之はため息をついた。
「ほんま、制度作ったら制度で揉めるんやな」
後ろでリクが笑った。
「先生、大変やな」
「お前ら最初の三人の時、こんなんなかったから楽やったわ」
「俺らラッキーやったな」
「ほんまにな!」
ソラが笑い、ミサキも笑う。
横丁が人気になった。
働きたい者が増えた。
鑑定を夢見る子も増えた。
それは良いことだった。
ただし、人が増えれば欲も競争も生まれる。
「まあ、ぼちぼちやな」
博之は頭を掻いた。
「店も、人も、制度も。全部一気に育てたら、俺が先に死ぬわ」
それでも翌日から、横丁は何事もなかったようにまた動き始めた。




