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博之43歳。異世界十六か月目後半。二号店の地区へ顔をつなぐ。教会や顔役のあいさつ回り

 十六か月目後半。

 博之は二号店の統括を商会へ呼び、銀貨一枚をぽんと渡した。

「これ」

「何です?」

「面倒代」

「何ですか、それ」

「これから面倒増えるから」

 統括は銀貨を見て苦笑する。

「ありがとうございます。じゃなくて、何をする気です?」

「今日は向こうの教会と、地区の顔役に挨拶行くで」

「ああ……ついにですか」

「ついにって何やねん。店出してんねんから、本来もっと早よ行かなあかんかった気もするけど」

 二人で二号店のある地区へ向かった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 最初は教会だった。

「こんにちは。二号店の方で商売させてもろてる博之です」

「お話は聞いております」

「ほんま?」

「サンドイッチや餃子の店ですよね」

「そうですそうです」

 博之はまず銀貨一枚を差し出した。

「これ、少ないですけど寄付で」

「ありがとうございます」

「今日はほんま挨拶が中心です」

 博之は、自分が元々隣の地区で横丁をやっていること。

 最近はこちらでも二号店を少しずつ広げていることを説明した。

「至らんところもあると思うんで、何かあったら言うてください」

「分かりました」

「あと、雇用の話なんですけど」

 二号店の人員を、全部一号店から送り込むつもりはない。

「一号店の方は、ありがたいことに働きたいって人がめちゃくちゃ来るんですよ」

「そんなに?」

「結構えらいことなってます」

 しかし、その応募者をそのまま二号店へ回すのは少し違うと博之は考えていた。

「こっちの店なんやから、できたらこっちの人を雇いたいんです」

「それはありがたいですね」

「それで、隣の教会ともやってることがありまして」

 博之は少し声を落とす。

「これ、あんまり広めんといてほしいんですけどね」

 教会で読み書きや計算を学んでいる子供たち。

 その中から、真面目に勉強している上位の子を何人か特別枠で試用する。

「働けるようなら給料払って続けてもらう」

「なるほど」

「その先で、勤務実績も良かったら……鑑定費用を貸すこともやってます」

 神父が目を丸くした。

「鑑定を?」

「肩代わりちゃいますよ。貸すんです」

 銀貨百枚を借りてもらい、返済もしてもらう。

 貧しい家の子供でも、普通なら届かない鑑定へ進める道を作る。

「冒険者向きならそっち行ったらええし、商売とか職人向きなら仕事探す」

「ずいぶん高尚なことをされているんですね」

「いやいやいや」

 博之はすぐ手を振った。

「高尚ちゃいます。ただのスケベなおっさんです」

「自分で言います?」

「そこは大事です」

 神父が笑う。

「でも、隣の地区でうまく回っているという話は聞いていますよ」

「ほんまに?」

「炊き出しや雇用の話も少し」

「怖いなあ。悪い話も流れてません?」

「今のところは良い話の方が多いですね」

「ほな良かった」

 博之は頭を下げた。

「こっちでも、いきなり同じこと全部やるつもりはないです。ただ、働きたい子がおったら、

 また相談させてください」

「もちろんです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 次は地区の顔役たちのところへ向かった。

「どうも。隣で横丁やってる博之です」

「知ってる知ってる」

「それが一番怖いんですよ」

 何人かが笑った。

 博之は二号店の現在を説明する。

 飲食を中心に少しずつ商品を増やしている。

 朝営業も始めた。

 店先の席も正式に料金を払って使っている。

「ただ、こっち来て雇用まで全部向こうから持ってくるつもりはないです」

「ほう」

「できれば、この地区の人に働いてもらいたい」

 さらに、自分たちが扱っていない商売については、近所の店を紹介する。

「チラシでも看板でも置きますよ」

「そこまでやるのか?」

「全部俺がやったら嫌われるやないですか」

 以前、二号店を始めたばかりの頃、安売りしすぎて周囲と揉めかけた経験もある。

「もう価格で殴り合うん嫌なんですよ」

「向こうでも堅実にやってるって評判だぞ」

「それなら助かります」

「ゆっくりやってくれたらええよ」

「ありがとうございます」

 話がひと段落したところで、顔役の一人が笑った。

「向こうでも顔役みたいなことやってるんだろ?」

「みたいなことというか、巻き込まれてます」

「こっちでも店が増えてきたら頼むよ」

「いやいや!」

 博之が即座に拒否する。

「顔役絡み、商売以外の仕事めちゃくちゃ増えるんですよ!」

「そういうもんだ」

「知ってるなら押し付けんといて!」

 また笑いが起きる。

「でも顔を広げといたら、できることも増えるぞ」

「まあ……それは実感してます」

 教会。

 商人。

 冒険者ギルド。

 仕立て屋。

 治療院。

 知り合いが増えたからこそ、子供や怪我人に仕事を紹介できるようになった。

「ほな、何か面白い話あったら教えてください」

「分かった」

「俺、普段は隣の地区におるんで」

 博之は隣の統括を指差す。

「こっちは基本、こいつがやります」

「よろしくお願いします」

「頼むぞ」

 顔役たちの視線が統括へ集まる。

 話を終えて外へ出たところで、統括が大きく息を吐いた。

「博之さん」

「何?」

「僕、めちゃくちゃ責任重くなってません?」

「なってるな」

「さらっと言わないでくださいよ!」

「大丈夫大丈夫。何かあったら俺に言うて」

「普段隣の地区にいるんでしょう?」

「大きい話だけ持ってきて」

「それが一番怖いんですけど」

 博之は笑う。

「統括なんやから頑張って」

「銀貨一枚で割に合います?」

「あれは面倒代や。給料は別に払ってるやろ!」

「急に現実的ですね」

「金の話だけは現実的にせなあかんねん」

 二人で笑いながら二号店へ向かった。

 店を一つ増やすだけなら簡単だった。

 だが、その土地で人を雇い、周囲と付き合い、長く商売を続けようと思えば、

 必要なのは料理だけではない。

「店増やすより、顔つなぐ方が疲れるな」

「今さら気づいたんですか?」

「最近ずっとそれ言われてんな、俺」

 二号店は少しずつ、博之の店ではなく、その地区の店になろうとしていた。

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