博之43歳。異世界16か月目。半月の締め。ドーナツと置き薬。ぼちぼち順調
異世界十六か月目も半分を過ぎた。
「ほな、また締めよか」
博之は商会の机に帳簿を広げた。
最近は鑑定だの、冒険者の治療だの、セラの引っ越しだのと、金以外の話も増えている。
「せめて店がちゃんと儲かってるかだけは見とかんとな」
まずは一号店。
おっちゃんの隠れ家横丁は、もう大きく数字が動く段階ではなくなっていた。
飯。
酒。
洗濯。
散髪。
甘味。
露店。
周囲の店との紹介。
「売上自体は前回とほぼ同じですね」
「利益は?」
「銀貨三十五枚ほどです」
「よし。ここはそれでええわ」
博之も、もう本店については無理に伸ばそうとは思っていない。
「三十五枚残って、客も店も揉めてへん。それが一番や」
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次は二号店。
「こっちは?」
「伸びています」
「お」
二号店では以前から、サンドイッチ、ジュース、ホットケーキ、餃子、スパゲティ、
ハンバーグ、ビール、ワイン。
朝には濃いめの汁物とパンも出している。
さらに今半月から、
ドーナツ。
持ち帰り用の生餃子。
この二つが加わった。
「ドーナツどう?」
「朝と昼過ぎがよく出ます」
「やっぱ朝いけたか」
「子供に持って帰る客もいますね」
「なるほど」
生餃子も悪くない。
夕方になると、仕事帰りの者が何個かまとめて買って帰る。
「焼かんでええから店としても回しやすいやろ?」
「かなり楽ですね」
「餃子屋がもう作ってるもんな」
四卓の外席も安定して埋まり始めている。
ただし、道路を使うための料金も払っているし、朝営業を増やしたことで人件費と仕込みも増えた。
「売上は銀貨百五枚ほど」
「おお」
「経費を引いて、利益は銀貨二十三枚くらいです」
「前二十やったから、三枚増えたんか」
「はい」
「十分十分」
一気に倍になるわけではない。
だが、十八、二十、二十三と確実に伸びている。
「こういうのでええねん」
博之は嬉しそうに頷いた。
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すると本店三十五枚、二号店二十三枚。
営業利益だけなら、
「銀貨五十八枚か」
「そうなります」
ただし、この半月には教会へ銀貨一枚を寄付している。
さらに二号店の地区との付き合いもある。
「向こうの教会にもそろそろちゃんと挨拶せなあかんしな」
「町の顔役にもですね」
「そうそう」
手ぶらで行くのも何なので、酒や菓子、ちょっとした手土産などの付き合い費として
銀貨一枚程度を見ておく。
「ほな五十八から、寄付一枚、挨拶関係一枚」
博之が指を折る。
「実質、銀貨五十六枚くらい増えたと思っとけばええか」
「そのくらいですね」
「ええやん」
爆発的ではない。
だが、一号店が安定し、二号店が伸びている。
博之が欲しかったのは、こういう状態だった。
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「次、リク」
「はい」
リクも自分の帳面を持ってきた。
「薬草どう?」
「普通に売れてる」
「普通が一番ええな」
薬草の買い取りと薬屋への卸は変わらず安定している。
そして、以前失敗した小分け薬。
これにも少し変化が出ていた。
「ミサキんとこに吊るしてるやつ、ちょこちょこ売れてる」
「ほんま?」
「うん。傷薬とか熱の薬」
「冒険者パックは?」
「そっちはまだ微妙」
「やっぱりか」
二号店にも、月銀貨一枚を払って小さな薬売り場を作った。
ここでも大きく売れるわけではない。
ただ、飯を食べに来た客が、
「そういや家の傷薬なくなってたな」
と、一袋買っていく。
そんな売れ方がぽつぽつ出始めている。
「売上どれくらい?」
「全部で銀貨四十枚ちょっと」
薬草の本業に加え、小分け薬の売上が少し上乗せされた。
薬草買い取り。
薬屋への加工代。
袋代。
運搬。
リク本人の給料。
帳簿代。
二号店への場所代銀貨一枚。
「全部引いて?」
「利益、銀貨十枚くらい」
「おお。戻ってきたな」
前回は初心者パックの失敗で八枚まで落ちた。
今回はまだ大当たりではないものの、銀貨十枚。
「やっぱ置く場所増やしたん、ちょっと効いてるんちゃう?」
「かもしれん」
「ミサキんとこは相性ええやろな。治療受けた人が、そのまま薬見るし」
「二号店は普通の家の人が買ってく」
「ほら。冒険者だけ見てたら分からんかったやろ」
リクが苦笑する。
「先生の言う通りやったな」
「もっと言って」
「調子乗るからやめとく」
「なんでやねん」
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「ただな」
博之はリクの薬袋を手に取る。
「まだ告知弱いと思うで」
「やっぱり?」
「二号店で薬売ってますって知らん人多いやろ」
「多いと思う」
「ほな紙貼ろ」
『傷薬あります』
『家庭用の薬あります』
『薬草買い取ります』
「この程度でええねん」
「また貼るん?」
「貼らんかったら分からへんやん」
リクが笑った。
「地味やな」
「商売なんか地味やで」
博之は帳簿を見る。
本店、銀貨三十五枚。
二号店、銀貨二十三枚。
寄付と挨拶を引いて、博之側の実質利益は銀貨五十六枚。
リクの薬草事業は、銀貨十枚ほどの利益。
「派手なこと何もしてへんのにな」
「でも増えてるやん」
「それが一番怖ない増え方やな」
ドーナツを一つ増やす。
生餃子を置く。
薬袋を一つ吊るす。
教会へ顔を出す。
町の人間に挨拶する。
そんな小さなことを積み重ねながら、十六か月目前半も、商売はじわじわと大きくなっていた。




