博之43歳。異世界16か月目。商会の3軒隣にセラが済む。エレナと微妙な空気www
十六か月目。
セラが「商会の近くに住みたい」と言ってから数日後、ようやく部屋が決まった。
「ここ」
「近っ!」
博之が思わず声を上げる。
おっちゃんの隠れ家商会から、わずか三軒隣。
二階建ての建物で、一階には別の商売人が入り、二階部分をセラが借りることになった。
「顔役さん、めっちゃ近いところ紹介してくれたな」
「いいだろ?」
「いや、セラさんがええならええけど」
「ちょっと高いけどな」
セラは家賃を聞いても、特に気にしていない様子だった。
「ダンジョンで今稼いでる額からしたら全然払える」
「ならええけど。紹介してくれた顔役さんにはちゃんと感謝しときや」
「分かってる」
そう言いながら、セラはかなり機嫌が良かった。
・・・・・・・・・・・
問題は、それをエレナに報告した時だった。
「決まりましたよ」
「どこです?」
「三軒隣」
エレナの動きが止まった。
「……近すぎません?」
「近くて何が悪いんだ?」
ちょうど一緒にいたセラが即座に返す。
「悪いとは言ってません」
「便利だぞ。商会にもすぐ来られる」
「それはそうですけど」
博之は二人を見ながら、
「まあまあまあ」
と、とりあえず意味もなく両手を出した。
「博之は昼、こっち来たら休憩できるぞ」
「え?」
「私の部屋」
「おお」
「昼寝もできる」
「それめっちゃええやん」
博之が素直に食いついた。
「最近、昼寝する場所欲しかってん」
「だろ?」
セラが嬉しそうに笑う。
「私が休みの日なら、一緒に過ごせるし」
「……」
エレナの眉が、ほんの少しだけ動いた。
博之は気づかなかった。
ミサキは気づいた。
「へえ」
横で聞いていたミサキが小さく笑う。
「何?」
「何でもない」
・・・・・・・・・・・・・・
「でも」
エレナが静かに言った。
「夜は帰ってくるんですよね?」
「俺?」
「博之さん以外に誰がいるんですか」
「いや、まあ……」
博之はセラを見る。
セラは面白そうにこちらを見ている。
「帰れるようには頑張ります」
「頑張る?」
エレナの声が一段低くなった。
「いや、ちゃうちゃう!」
博之が慌てる。
その横でセラが笑った。
「なんでだ? たまには泊まっていってもいいだろ」
「セラさん!」
「近くに住んでる意味ないじゃないか」
「いやいやいやいや!」
博之が両手を振る。
「話広げんといて!」
「博之は嫌なのか?」
「そういう聞き方やめて!」
エレナも博之を見る。
「嫌なんですか?」
「なんで二人で詰めてくるん!?」
完全に逃げ道がなくなった。
博之はしばらく黙ってから、
「ほら!」
と、無理やり話題を変える。
「今度三人で遊びに行くって話してたやん!」
「話をそらしましたね」
「そらしてへん!」
「そらしたな」
「セラさんまで!」
だが、二人とも本気で怒っているわけではなかった。
エレナも少し呆れながら笑っているし、セラも博之の困った顔を楽しんでいる。
「まあ、しばらくは三人で仲良くしようや」
博之が言う。
「飯食いに行って、酒飲んで、どっか遊びに行って」
「それはいいですね」
「私も構わない」
「ほら、平和やん」
「博之さんが余計なことをしなければ」
「俺、何もしてへんで?」
エレナとセラが同時に博之を見る。
「……何その目」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
少し離れたところで、一部始終を見ていたミサキがぽつりと言った。
「なんか、前より関係進みましたよね」
「何を冷静に分析してんねん」
博之が振り返る。
「いや、だって」
ミサキは指を折る。
「エレナさんは恋人以上」
「はい」
「セラさんは三軒隣」
「はい」
「セラさんの部屋で昼寝する予定」
「予定というか選択肢な」
「休みの日は一緒に過ごす」
「そこだけ抜き出すな!」
「夜帰ってくるかどうかで揉める」
「揉めてへん!」
ミサキがしみじみ頷いた。
「なかなかカオスですね」
「自分でもそう思うわ!」
セラが笑う。
「誰のせいだろうな」
「そら博之さんでしょう」
エレナまで即答した。
「なんで俺なん!?」
ミサキが言う。
「優柔不断な商会主さんがおるからですよ」
「いやいや!」
博之は胸を張った。
「仕事はちゃんとしてるぞ!」
「仕事の話してへん」
「そこはちゃんとしてるんや!」
「女の人の話です」
「そこまでちゃんとせなあかん?」
三人が黙って博之を見る。
「……はい」
博之は小さくなった。
次の瞬間、全員が吹き出した。
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「まあでも」
セラが笑いながら言う。
「私は嬉しいけどな」
「何が?」
「近くに住めること」
エレナもため息をつきながら、
「私も別に、セラさんが近くにいること自体は嫌ではありませんよ」
「ほんま?」
「博之さんがちゃんとしてくれるなら」
「また俺なん?」
「そこは博之さんです」
「せやぞ、おっちゃん」
「ミサキまで乗るな!」
笑い声が商会の二階に響く。
横丁。
二号店。
鑑定。
融資。
教会。
町の顔役。
ただでさえ面倒を見るものが増えているのに、今度は女関係まで整理しなければならないらしい。
「俺、他所から来てから仕事増えすぎちゃう?」
「自分で増やしてますよ」
「それ前にも言われたわ」
博之は頭を掻いた。
それでも。
三軒隣にセラが住み。
同じ建物にはエレナがいて。
時々ミサキたちが茶化しに来る。
なんだかんだ言いながらも、その空気はずいぶん賑やかで。
博之自身も、そこまで嫌ではなかった。




