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博之43歳異世界十六か月目、セラとエレナ。二人との三者会談

 セラが「商会の近くに住みたい」と言い出した翌日。

 博之はさっそく町の顔役に、近所で空いている部屋がないか聞いて回っていた。

「一人暮らしの女の人で、できれば商会から歩いてすぐ」

「冒険者か?」

「そう。セラさん」

「ああ、あの弓使いか。何軒かあるぞ」

「ほな今度見せてもらおかな」

 別に同じ建物に住む必要はない。

 歩いて数分なら、飯を食いに来るにも、ダンジョンから帰ってくるにも便利だ。

 そんな話を進めながら。

「……これは言わなあかんよなあ」

 博之には、もう一つ仕事が残っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 その日の夜。

「エレナさん」

「はい?」

「ちょっと報告があります」

 商会二階の部屋で、エレナが嫌な予感でもしたように博之を見る。

「何ですか、その言い方」

「いや、セラさんがですね」

「はい」

「この辺に住みたいと」

「……それで?」

「近くの部屋探してます」

 エレナはしばらく博之の顔を見た。

「それだけですか?」

「あと、もっと遊んでほしいと言われました」

「なるほど」

「あと……」

「まだあるんですか?」

「エレナさんとの関係を『恋人以上』って言わなあかんって話もしました」

「ちゃんと言いました?」

「言いましたよ!」

「セラさんは?」

「めっちゃ動揺してました」

 エレナが少し笑った。

「そうでしょうね」

「ほんでな」

 博之が言いにくそうに頭を掻く。

「エレナさんが『セラさんまではええ』って言うてた話も……」

「言ったんですか?」

「流れで」

「博之さん」

「はい」

「ほんとに女の人との話、下手ですね」

「自覚あります」

・・・・・・・・・・・・・・・・

 その後、いっそのこと本人も呼ぼうという話になり、セラが部屋へやってきた。

「何、この空気」

「会談です」

「何の?」

「俺の女関係についてです」

「自分で言うな」

 三人でワインを少しだけ入れる。

 博之は真ん中。

 エレナとセラが向かい側。

「なんで俺、面接される側みたいになってんの?」

「日頃の行いでしょう」

「そんな悪いことしてへんで?」

 エレナがセラを見る。

「近くに住みたいんですよね?」

「ああ」

「私はそれ自体はいいと思ってます」

 セラが少し驚く。

「いいの?」

「はい」

 エレナは杯を置いた。

「ただし」

「出た」

 博之が呟く。

「女性をこれ以上増やさないなら」

「……はい?」

 セラが吹き出した。

「博之、もう人数制限されてるぞ」

「待って待って!」

 博之は慌てた。

「増やす予定なんかないって!」

「予定はなくても、博之さんの場合、向こうから来たら曖昧にするでしょう?」

「うっ」

「ほら」

「いや、でも俺、予定いっぱいやで?」

 博之は指を折る。

「横丁あるやろ。二号店あるやろ。リクの薬、ミサキの治療、ゼルダさんの返済、鑑定、

 教会、商人の集まり」

「だから?」

「女の人増やしてる暇なんかないやん!」

 セラが笑う。

「理由が『好きじゃない』じゃなくて『時間がない』なんだな」

「そこ突っ込まんといて」

 博之はさらに続けた。

「それにな、鑑定で面倒見てる子なんか、みんな子供やで?」

 エレナとセラが一瞬黙る。

「……博之さん」

「何?」

「その子たちも、先々は大人になりますよ」

「え?」

 博之が固まった。

「いやいやいや」

「十年経ったら?」

「待て待て」

「十五歳、十八歳、二十歳ってなりますよね?」

「何の話してんの!?」

 セラが腹を抱えて笑っている。

「確かに。今は子供でも、ずっと子供ではないな」

「お前まで乗るな!」

「しかも博之、面倒見いいからな」

「怖いこと言うな!」

 博之は頭を抱えた。

「俺、四十三やぞ!」

「十年後は五十三ですね」

「具体的に計算せんでええ!」

 エレナは笑いながらも言った。

「別に今いる子供を疑ってるわけじゃないですよ」

「当たり前や!」

「博之さんのことを言ってるんです」

「俺も疑われる要素ないやろ!」

「どうでしょう」

「なんでやねん!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 しばらく三人で笑ったあと、博之が少し真面目な顔になる。

「でも、そこまで縛るん?」

「嫌ですか?」

「嫌というか……」

 博之は困った。

「俺、前いた場所でもそんなモテへんかったし、こっち来て急にこんなんなってるからな。

 どうしたらええか分からんのよ」

「なら簡単です」

 エレナが言う。

「私たちが信用できるくらい、私たちと遊んでください」

「……はい?」

 セラも頷く。

「それがいい」

「何その解決策」

「仕事ばっかりして、放っておくから心配になるんだ」

「なるほど?」

「一緒に飯食べて」

「はい」

「酒飲んで」

「はい」

「たまには出かけて」

「はい」

「ちゃんと話す」

 エレナが微笑む。

「それができてたら、私もそんなに言いません」

 博之は二人を交互に見る。

「つまり俺、女増やすなって縛られる代わりに、二人と遊べって言われてんの?」

「そうですね」

「……それ縛られてるんか?」

 セラが笑う。

「贅沢な拘束だな」

「俺も今、そう思った」

「じゃあ文句ないな」

「なんか納得いかんけど」

 博之はワインを飲んだ。

「まあ、分かりました」

「よろしい」

「私も近くに住むからな」

「はいはい。部屋も探します」

 エレナが満足そうに笑う。

「博之さん」

「何?」

「今度、三人でどこか行きましょうか」

「三人で?」

「はい」

 セラも面白そうに頷く。

「いいな」

「……俺、監視付きちゃう?」

「信用を積む時間です」

「借金だけやなくて、俺まで信用積まなあかんのか」

 二人が声を上げて笑った。

 博之はため息をつきながらも、どこか悪い気はしなかった。

 店は増え。

 人も増え。

 借金も増え。

 責任も増え。

 そしてどうやら、博之が遊ぶ相手まで、少しずつ予定表に組み込まれ始めていた。

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