恋ひ煩わせる者、恋ひ煩いし者 〜グラウンドの戦い、自販機前の戦い〜
(さぁて、と……まずはどう攻略するか、だな)
那須与一は鏡介をオトすイメトレを何千回と繰り返していた。
対する鏡介は、
校舎についている時計をチラリとみる。
暫くの間周囲をキョロキョロとしたと思ったら再度時計をチラリと見る。
この動作を何回も行っているのだ。
(くっそぉ〜…この私が居ながら、終了時間を気にしていやがる……腹の立つぅ〜…ぜってぇオトしてやるからな)
「んっん〜〜〜!!」
試しに那須与一はどえってぃな声を漏らしながら体をぐんと伸ばし、彼女自身のおっっっぱいぱいを強調して見せた。
だがしかし、彼女の弓道伝説は生まれ付いた貧乳であるからこそ成せる技、
のっぺらぼうの如き胸で目を引ける訳は無く、鏡介はまたもや時間を気にしている。
(くっそぉ〜貧乳派じゃないのかよぉ〜、わかってないなぁ〜…)
ちなみに僕、芳一は貧乳フェチなので那須先輩の成すちっぱいを華麗に5度見してしまった。
「おっ、もうちょいで終わりそうすね!」
やっと口を開いた鏡介の第一声がこれだ。
これのせいで、那須与一のプライドに油を注ぐことになったのだ。
(ムッキャァーーーーーーーー!こうなりゃもうやってやる!スキンシップだ!)
那須与一はどうやら作戦を開始するそうだ。
彼女の17年の経験論で編み出した、流れる清水が如き滑らかに、自然に、鏡介の指先へと自身の爪をぶつけた。
「あっ」
「あー!ごめんねー?ぶつかっちゃ………あれ?なんか…君と私ってそんなに手の大きさ変わんないね」
なぁ〜るほど?
これは手を合わせてスキンシップを図ろうというのだな?
ありがちな戦法だが、彼女ほどの美貌なら勝算はある。
これはどう対処するのだろうか?
(ふふふ…甘いねぇ…!淡路島の玉葱ぐらい甘いよぉ?私の計画はさらにその先!)
「ちょっと手ぇ合わしてみよーよ!」
「はい」
向かい合い、触れ合う掌と指の先に人の温もりが伝わる
那須先輩の掌は鏡介よりもやや小さいが、指まで含めるとちょうど同じくらいといったところだ。
「やっぱ同じくらいじゃ〜ん」
「あ〜やっぱ指長いっすねー」
ういういと那須先輩は指で鏡介の指を押している。
なんだかみているこっちが恥ずくなってくる。
その時だ!
スラリ、
那須先輩の指が、指一本だけ横にスライドした。
そしてそのまま優しく鏡介の掌を包み込む
そう………
恋人繋ぎだとぉぉおおおお????!!!
(恋人繋ぎ…………!!!!)
これなら、多少くらいはたじろぐ筈……!
通常なら、こんなことをされればキショいと言って遇らうところだが、
流石、紅白三大美人が一角!
彼女らにしか許されていない芸当である!
那須与一は鏡介の手をにぎにぎとしている。
(どう?これなら…!少しくらいは赤面して焦ってもいいんじゃない?)
那須与一はにぎにぎを続ける。
(これでたじろがない男子なんて………)
那須与一は異変に気付く、
「……どしたんすか?なんか嫌なことでもあったんすか?」
無関心……だとぉぉおおおお???????
(え?は?いやいやいや…え、嘘?は……はぁああ?)
あまりの衝撃に那須与一、放心!
僕の目からも那須与一の頭上にNow loadingの文字が浮かんでいるのが見える。
すると、瞬間授業終了のチャイムが鳴り響いた。
「お!終わりましたね!戻ったほうがいいんじゃないすか?」
鏡介が無自覚にも言葉という名のナイフを那須与一の喉元に突きつけた。
「エ?アァ、ウン。ワカッタ」
那須与一はカタコトになってしまった。
《お前…鏡介、お前ガチか……》
(ん?どうした?芳一)
鏡介はきょとんとした顔のまま、僕の方を見ていた。
1限目、2限目、3限目も終わり、
4限前の休み時間、
「ふぅーーーーっ!終わったぁ!あともうちょっとでお昼ご飯だね!」
教経ちゃんが話しかける。
「うん、ちょっと喉乾いたぜ…自販機行ってくる」
「わかった」
そう言って鏡介は教室を出て行った。
一階の食堂前に近場の自販機が1台置いてある。
鏡介はそこへと歩を進めていた。
すると、その時であった!
「よっす!さっきぶりー!」
奴だ…なんとさっきの醜態にもめげず…奴が来た!
そう…
「あ那須先輩」
那須与一の出現である!
しかし、先刻と違い…今度は鏡介を惚れさせようという気概に満ち溢れている。
「何しに行く途中?」
那須与一が尋ねる、
絶対狙って登場したくせして……
「ちょっと自販機にジュース買いに」
「お!奇遇だねぇ!実は私も」
そうして2人は肩を並べた。
「わかる!ナタデココ美味しいよね!」
そんな会話をしながら2人は歩く。
当然、道中の凡百の輩は振り向いて驚嘆する。
しかし、そんな事はどうでもいいように那須与一は思案に暮れた。
(おかしい…私の魅力って…そこまで落ちてるもんなのかな?)
試しに与一は右サイドの髪を耳にかける。
露わになるスラリとした首筋が烏合の衆の目に止まった!
ドサドサ…!
瞬間、周囲の男どもが呻き声を上げながらその場に倒れ込んだのだ。
しかし、まだその場にやっとの思いで留まっている堅物っぽい男が居た。
足が痙攣し、あまりの破壊力にかけているメガネに罅が入っている。
その堅物に、与一は優しく微笑んだ。
「ぐっっがあああああああああああああああああああああああ!!!好きぃいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
見事にその堅物は爆散した。
あとに残ったのはヤムチャしやがった堅物の屍だけ。
(うん、いつも通り…絶好調……だのにこいつは…)
与一はパッと鏡介の方を見る。
なんと鏡介はなんとでもない顔をしていた!
それどころかその表情を見る限り、何か別のことでも考えているようだ。
(くっそ…なんでよこいつ……!さっきから態と手もぶつけているのに…話す時も目を外さないでいるのに…なんで?)
そうこうしている間に、自販機に着いたようだ。
「うわまじかファンタ売り切れてんじゃん…」
先に与一が買うようだ。
「しゃーない、これにするかー」
与一は手を伸ばし、別のジュースのボタンを押した。
ぴっ……ガコン!
ジャラジャラジャラ……
与一は出てきたお釣りを取ろうとした瞬間、
またもや態とそれを下に落とした。
「あ、」
与一は直様前屈みになり、『美しい』『カワイイ』という形容詞の挿絵のような後頭部を鏡介に見せつけた。
(どーよ?この私の後頭部!これでメロつかない奴はいな──)
「んもー鈍遅っすねー先輩」
(クソがぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙)
鏡介は与一を避けて、ジュースを買った。
そして、スマホをすぐに直して、落ちてきたジュースと与一のお茶を両手に持った。
「んもーしっかりしてくださいよー…はい、これ先輩のお茶!PayPayとかの電子決済の方が便利すよ?やってないんすか?」
「やってない訳ないっしょ?!ちょっとチャージすんの忘れてただけ!」
デフォルメ顔でキレた与一は鏡介からお茶を強引に受け取り、おもいっきりがぶ飲みした。
「ブフっ?!ごほっごほ!」
……どうやら咽せたようだ。
与一は彼女の背中を摩りながら言う。
「あーあー、どうしたんすか?話なら聞きますよ?」
「うっしゃあああ!だまりゃっしゃあああああ!!」
与一は南国の鳥の啼き声のような奇声を発した。
「クソ…なんで……」
そうして与一はジト目で封の空いたお茶のペットボトルの飲み口を見つめた。
「っふふ、」
「うぁ?」
鏡介が急に吹き出した。
困惑するのも無理はない。
「いや…すんません……怒らないで聞いて欲しいんすけど…なんか、先輩…赤ちゃんみたいだなって」
「え?えぇええ?!」
鏡介は続ける。
「なんか…見てて飽きない、っつーか……一緒にいてて楽しい、、面白いみたいな…、でも退屈はしないっす!なんか、母性?みたいなんが出てくるから」
「吾妻くん……」
トクン…
与一の中で何かが揺れ動くような気がした。
(も…もしかして、籠絡成功?)
与一は飲みかけのお茶を鏡介に突き出す。
「ん!」
「ん?」
「飲んで!いーよ!」
沈黙が2人を包む。
「あ、自分のあるんで」
(クソがぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙)
どうやらときめきは気の所為だったようだ。
ここで、与一は突如、真理に辿り着く。
(あれ?これって…私が『籠絡されてる』って事じゃない?)
その瞬間、沸々と湧き上がる闘志が彼女を包み込んだ。
(やるじゃん、吾妻くん……こうなりゃ諸共…)
「よろしい、ならば戦争だ」
ボソッと呟いた与一の言葉は、鏡介は完全には聞き取れなかった模様。
「吾妻くん!」
「あ、別に鏡介でもいいっすよ?」
「鏡介くん!」
「『くん』なしでもいいっすよ?」
「鏡介ぇぇええ!!!!」
(……ッ、なんて言う威圧感…!)
流石の鏡介でも少しばかり辟易した。
そんな彼に向かい、与一は告げる。
「今日さ!一緒に帰らない?」
(「今、3限目の休み時間なんだよなぁ…)ま、別にいいっすけど」
僕らは久しぶりにハモった、と思ったらまさかの了承?!
一体どうなる?!




