恋ひ煩わせる者、恋ひ煩いし者 〜梅田の戦い〜
「義経ーおまたー」
放課後
暁が照らす教室内、
鏡介が軽快なステップで義経のところへ駆け寄る。
「ん!早くやるよ!」
義経が少しむすっとした顔で開いたポテチの袋を突き出してきた。
「え?いいのか?」
「あったりまえじゃん!一緒に食べながらしようよ」
義経はパァァと笑って見せた。
女児のような猫のような、
無邪気なその笑顔に思わず惚れかけそうになる。
「義経ぇ〜〜〜〜〜!」
彼女の笑みに鏡介は感嘆で返した。
ほんのりコンソメの香りが漂うポテチの袋の淵に彼は手を翳す。
「それじゃー…ありがたくいただきま───」
「あれ?ここにいたんだ?」
僕は思わずドキッとする。
それは鏡介も同じようだ。
声の方へと目をやると、そこに立っていたのは
那須与一であった。
「な、那須先輩?!」
「おっすっすっす〜〜」
那須与一は周囲を見渡し、
義経のことをじっっっっっと見た。
「……………………!」
義経は不安そうな様子で息を呑んだ。
「おっやぁ?この女の子との約束ほっぽり出しちゃうなんていけないんだー」
「いや、これホント、1時間ぐらいで終わるんで…」
「だめ!一緒に遊ぶ時間なくなっちゃうじゃん」
「あ…遊ぶって……一緒に帰るだけっすよね?」
すると見かねた義経が立ち上がる。
「おやや」
「ちょっと先輩なんなんですか、コイツは今から私に殺さ………一緒に遊ぶんですよ?」
「危なったよ?!義経!」
そうツッコむ鏡介の『今までとの違い』を見て、
那須与一は全てを察した。
「なぁ〜るほど」
にまりと笑った彼女は京介の傍へと駆け寄り、
彼の肩へと腕を回した。
義経の表情からは驚嘆の表情が溢れ出ている。
この女……やりおった!
「あらまごめんねえ?鏡介とはぁ、今からデートなんですよ?」
「は?デ…」
デ……っ?!
「デートぉ?」
焦り散らかす義経とは対をなし、
鏡介は呆れていた。
「そ、そうなら言ってくれればよかったのに…」
「いや、そんなわけなくない?帰るだけだから、一緒に」
「んもー照れ屋さんぬ♬」
「何すか、先輩あんた何なんすか」
鏡介が淡々とbotの様にツッコミを入れる。
「でも、それはそれ…先輩、今このクソは私が使ってるんですよ」
「え、クソって言った?俺今クソって言われた?」
鏡介の言葉をフル無視し、義経は続ける。
「ぽっと出の先輩にとやかく言われる筋合いはない気がするんですけど?」
「おやぁ?でもでもでも〜、私お約束しちゃったし…なぁ」
那須先輩はこちら…鏡介の方を見つめ言った。
「あ゙?どういうこと?鏡カス…私との約束は?」
ハイライトがオフになった義経は流石に怖い…
彼女は鏡介にジリジリ詰め寄った。
「あははー…まさか、こんなんだとはこっちも想定してなくて…」
「まーまー!早く行くよ!きょ・う・す・け・君!」
那須先輩は鏡介の左腕に彼女自身の両腕を絡み付かせ、
芳醇とは言い難いちっぱいぱいを鏡介なんかの腕に押し付けた!
「ハ?!」
当然義経は驚嘆する。
そりゃ当然だ、数日前まで彼女は、鏡介のことを『蜚蠊の粉末スープ〜椿象のソテーと大西洋の海風を乗せて〜』というクソ料理の如く扱っていたが、
腐っても鏡介は彼女の元好きな人。
こんなもの、時期が違えばNTRになりかねない。
「ちょ…何やって…!先輩?!」
「だからぁ!ちょっと待てい!」
相席食堂のようなリアクションをした鏡介は相変わらず淡々としている。
周囲との温度差でヒートショックを起こしそうだ。
「おやややや!どしたの〜義経ちゃん?もしかしてー?嫉・妬?holy shit!!!!!」
「あーやかまし」
那須先輩の氷河期到来の様なフリーザー親父諧謔の右ストレートをまともに喰らった鏡介はまたもや淡々と返す。
しかし、義経は急激に赤面し、斜め右上を見つめ出した。
「あっれ〜?図・星?図星?ずーーぼーー…」
「違います」
「「《え?》」」
義経!唐突の裏切り!
「え?でも…一緒にゲームしてるように見えたんだけど?ほら、ポテチだって…」
すると義経は勢いよく窓を開け、ポテチを取り…捨てた…!
ガラガラ…ピシャッ
「え?なんのことですか?」
「こいつやばすぎだろ」
鏡介は思わず口に出す。
しかし、それをフル無視して那須与一が口を開いた。
「え、無い」
「え、馬鹿?めっちゃ馬鹿?」
義経は照れ隠しか、叫んだ。
「私はこいつとはなんの因果関係もありません!」
「ねえ言い過ぎくない?」
「どうぞ連れてってくださいtake freeとなってますんでああはい」
「居酒屋のガムかよ俺」
「飴じゃない?どっちかてと」
「どっちでもいいんだよおおおおおおおおおおおお」
ハァ…ハァ…と鏡介の荒い気遣いのみが日光差し込む静かな教室内に響く。
「とりま持ってくわね」
「オナシャス」
「てぁ?!ざっけんじゃねえよ?!」
鏡介は那須先輩に腕をがっちり掴まれ、そのまま外界に引き摺り出された。
後に義経の名を呼ぶ声が廊下中に轟いたという…
オッスオラ芳一!今は鏡介の操縦の日だ!
そんなウキウキな鏡介を先輩である那須与一はオトそうと画策していた!
しかし、鏡介は恋する漢!そんじょそこらじゃ折れない食えないオトせない!
次に那須先輩が計画の場所といたのは、学校外だ!
そんな2人が向かった先とは……
「先輩、何時間ここにいるつもりなんすか?」
「んーちょっと待って、あとちょいで見つかるから (てめえがオチるまでだよ!)」
梅田の阪急百貨店の地下一階に小さな出入り口がある。
そこの路地を右方向に道なりに進むと一転、待合場所となっている開けた空間が広がっている。
2人がいる場所はそこの地上階に位置するHEPである。
何を思ったか、那須与一は鏡介とガチでデートをしているのだ。
鏡介は眼前に佇む巨大な赤い鯨を眺め、言った。
「さっきLUCUAも探しましたよねぇ!そこにもここにもないならどこにもないんじゃ…」
「おでゃまりゃしゃああああああああ」
どうやら那須先輩は服を探しているようだ。
おっと皆まで言うな読者諸賢。
今、鈍感な鏡介ニキが皆の気持ちを代弁しようとしておるのだ。
「ほんで…別に服なんてネットで注文できるでしょ?」
「うっしゃいねえ!ネットじゃ即売り切れなの!転売ヤーと言う生きる価値もない…これまでも、これからも誰からも愛情を向けられないが故に受胎した悲しきエンティティの所為でな!自分のことしか考えていない、正しく赤子の成れの果て、何一つ成長していない…社会からも疎まれているのにやれ悲しきかな奴らはそれを自覚する脳味噌を持っていないのだ!知能も猿以下、好感度は蜚蠊以下、等しく人権を享受している日本が末恐ろしいよ日本は国民と蛆虫の区別もつかないのか?民主主義なら排斥させろ排斥!穀潰しは日本国内に不要!進化してない縄文人は不要!転売ヤー (!!自主規制!!)ねよ!ホムセンで縄買って… (!!自主規制!!)」
「いや、それはマジでそう」
本当にそれだけは彼女の言うとおりだ。
見ての通り、本作の作者は『転売ヤー』をクロスジヒトリの大群のように毛嫌いしています。※クロスジヒトリが何か気になる人は検索してみよう!
ふとたまに作者のヘイトが溜まって意思が作品を貫通する時がありますがどうかご容赦を。
(にしても参ったなあ…どうやって…オトすか…)
そう!那須与一はこれまでも…距離を詰めてみたり、上目遣いしてみたり、きゃわいいカチューシャをつけてみたり、色々デレさせようとしてきた!
しかし全て玉砕!試しに彼女はまた一つ行動を起こすようだ。
「ねえねえ!ちょっと喉乾いたくない?なんか飲みに行こうよ」
「………そろそろキレますよ?怒」
とわなわな震えた声で返事を返すも結局ついていってくれている優しい鏡介君なのでした。
HEPの赤い出入り口を潜り、待ち合わせしている人々の立ち並ぶオブジェを横目にそこを出てからすぐさま右折する。
数分歩いたろうか。
ボートレースの看板が大きく載ってある建物前の横断歩道を、2人は渡っている。
車道をショトカする歩行者、
それを誘導するおじさま方、
歩行者用信号機の青が唐突に点滅し出すと、そんなおじさま方はピッピと笛を鳴らして渡り遅れた歩行者を誘導してくれている。
「おっと、走ろっか」
だんだん日も落ち始め、車の赤いライトが数時間前よりも鮮やかに輝いている気がした。
鏡介と那須先輩はそんな横断歩道を慌てて走る。
梅田の国道ということもあってか、ここの道路はやけに幅が広い。
当然、横断歩道はその分長くなっている。
「ハァ〜疲れたー」
「こっちはもっと疲れてんすよなあああああああ」
怨嗟を込めた鏡介の声が那須与一の耳を撫ぜる。
「ははー、怖いよ鏡介君〜折角こんな美少女とお出かけだよー?ほらもっと笑って」
そう言って鏡介の口角を那須先輩は指先で無理矢理引き上げ始めた。
「ほらほらーもっと、もっと」
これもオトすの一環なのだろう。
だがしかし、鏡介!これに応じない!
「クソおおおおおおおおおおおお!!!」
那須与一はキレた。
とうとうキレた。
しかしすぐさま収まった
「終わったスカ?」
「終わったっス」
そう受け答えをした2人の背中はめちゃ気まずい空気が流れていたとかなんとか…
(あーもう…このままじゃ…私が赤っ恥をかいたままで終わっちゃう!)
そう危惧した那須与一先輩はわざと、手の甲を鏡介の手にぶつけた。
汗の蒸発熱で幽霊のように冷たくなった2人の手がトンと交わる。
「あ!ごめん!手あたっちゃったよね?大丈夫?」
「…?、そーすか?別に何もなかったすけど…」
こいつ、無敵か?
(赤っ恥をかいたままで終わっちゃう!)
いよいよ那須与一の落ち着いた表情にも焦りが見え始めた。
(クッソ…こうなったら…!めちゃ不服だが…あれをやるしか!)
那須与一は何かを決心した面持ちで鏡介に語りかける。
「ねえ!あそこにしない?!」
鼻息が荒い那須与一に少し不信がりながらも、鏡介は彼女の指差した方向をみてみる。
そこには人地のビルが建っており、地下一階が開放吹き抜けのようにされているところであった。
そこの周辺には緑が多く、三方向からその地下一階のスペースへと繋がる階段が降りてある。
その地下一階には、イタリアンの料理店や、中古のアニメグッズ店などのチェーン店が立ち並んでいる。
那須与一はそこの一角を指刺した。
「ん?フリーWi-Fi完備の無人カフェ…か」
鏡介が口に出す。
そして僕は勘づく。
ここがどうやら最終決戦の地となるらしい……
勝者はいかに?!




