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恋ひ煩わせる者、恋ひ煩いし者 〜第二陣〜

「うぁ〜〜…ここにも無かったかぁ」

 義経はガクンと肩を落とし、踵を返した。

 義経がいるところは梅田の某所に存在する、アニメグッズ等の中古ショップである。

 義経はとあるアニメのグッズを探しに昨日、一昨日と地元や日本橋を練り歩き、本日は場所を変え梅田に足を運んだのだ。

「コウ様…まじで人気だなー…もう暗くなってきたし帰るか…」

 そう言って義経が出入り口の勾配を跨いだ瞬間、目に入る!

 ともに無人カフェに入店する鏡介と那須先輩の姿を…!

 (え、えぇ〜〜〜〜!??あの2人…まじでデートしてんの?)

 義経は目を丸くした。

 (え、え…ど、どうしよう……ほっとくべきかな…これは2人の間だから…いやでも、さっき誘われた時…半ば強引ぽかったしなあ…)

 義経は苦悩する。

 (いや…でも、いやなぁー…しかし、あの鏡介のことだ…断れる筈が………あれ?私、………!ばか!またあのころの鏡介を思い出してる…!)

 懊悩する義経はふとまたあの2人を見る。

 そこにはどこか楽しげとは言えない表情の鏡介と、何かを決心したような那須先輩のぎこちない歩みがあった。

 (〜〜〜〜〜!!!!絶対鏡介何かしら強制されてんじゃん!うぅーーーー…どうしよぅ……)

 右顧左眄(うこさべん)する義経は慌てふためいた。

 (う………ぅ……鏡介ぇ……)

 ふとした時だった。

 カフェの扉が閉まる。

 その様子を見た義経は決心をついた。

「……行こう」

 義経は2人の後を追いかけた。





 義経は入店し、まずは2人の居場所を探る。

 どうやら、窓際のカウンター席に左から那須先輩、鏡介という順で座っている。

 (いた…!)

 義経はアイスコーヒーを淹れ、彼らの真後ろの席に腰掛けた。

 (…にしても、コイツら一体何話してんだ?)

「結構いいっしょ?ここ、私の行きつけなんだー」

「ほー」

 那須先輩は足をプラプラしながらドリンクを口に含む。

「…んで、他に目星はあるんすか?」

「え?あ、あーー…どーだろうね……朝から行かないとないのかな?」

「あー確かに…」

「………」

「…………」

 (「いや鈍っ!」)

 義経と那須先輩は急にハモった。

 鏡介はきょとんとした面持ちで那須先輩を見つめる。

「…?どーしたんすか?」

「、いや……なんでもない…」

 那須先輩は締まらない様子で前を向き、ドリンクを再度飲んだ。

 鏡介は相変わらずダメ⭐︎ダメ⭐︎だ。

 これには流石の義経も額を押さえる。

 鏡介は頭はいいのに勘は鈍い系の男だ。

 そのせいで、小学校時代義経がいくら匂わせても全然気がついたりしないのだ。

 あまりの鈍さに、義経は授業中に台パンしてしまったという過去を持っているが…それはまた別のお話。


 さて、数分経ったろうか。

 とうとう両者の間に会話はなくなり、互いにスマホをいじり始めた。

 いや、厳密に言えば『1人』だけだろう。

 那須与一はスマホをいじるフリをしながら、アピール (っぽいの)をしている。

 急に伸びをして、対して大きくも無………

 …おっぱいぱいを押し出そうとしていたり、

 前方に伸びをして、上目遣いをしてじっと鏡介を見つめたり、

 伸びをして萌え声を出したり等、 (てか伸びしてばっかじゃねえか)

 色々な方法で鏡介をオトそうと画策しているのだ。

 しかし、それを鏡介は華麗にスルーする。

 スルーされるたびにまた画策する。

 …またスルーされるを延々と繰り返している。

 (待って…もしかして、この2人デート中ずっとこんなの繰り返してたの?!)

 義経はとうとう真相に気がついた。

 想像してみるとかなり滑稽である。

 義経は吹き出しそうになるのを必死に堪えた。

 とても偉い。

 しかし、突如那須先輩の面持ちが変わる…!

「…そーいやぁさ!鏡介!彼女とかいるの?」

 唐突の問いに鏡介が辟易した。

 数十分黙りこくって、不自然にいろんな動きをしてからのこれだ。

 そりゃあ僕だってそうなる。

「…え?いるように見えます?」

「え…あーま、そっかぁ」

「え?泣きますよ?」

 鏡介は少し不服そうに頬を膨らませた。

 (そっか…鏡介彼女いないんだ…)

 義経はどこかほっとしたように胸を撫で下ろした。

 ……ん?!

 (な…なんで私今ちょっとほっとしたの?!わけわかんない…)

 義経はさっきの思考を掻き消すようにコーヒーに口をつける。

 香ばしくて、どこか苦味のある香りがスーッと彼女の鼻を通り抜けた気がした。

「あぁーいやごめんごめん…!怒らせちゃった?」

「いや…そんなでは無いっすけど……」

「本当にごめんねー?ちょっと揶揄ってみたかったんだー、意外と可愛いところあるんだね?」

「え?ありがとうござます、っす…」

「……ねえ、ちょっと付き合わない?私と」

 ブッっと義経はコーヒーを吹いた。

「…は、はぁ?」

 対する鏡介は何が何やらわからないようで、目を丸くした。

「いや…別に、今日知り合ったばっかじゃ無いすか…なんでそんな……」

 すると、那須先輩は鏡介の太腿を触り出した!

「え。ちょ…何やって……」

「鏡介くん…いいでしょ?そんな変わんないもんだよ?女の子と付き合うって」

 那須与一は鏡介の太腿を押したり、撫で回したり、とうとう色仕掛けに出てしまった。

 (もう…これしか方法が……)

「いや…その……」

「ねえいいでしょ…?それに……」

 私の家…今日親いないんだ………//

「     」

 唐突なNTRにより脳を破壊された義経はただその様子を眺めることしかできない。

 なんともまあ、傍観者というのは卑下されがちだが……それはただただ傍観しているのではない。

 傍観することしかできないのだ。

 義経は心の奥の方から涙が溢れてくる感覚に苛まれ始めた。

「鏡介の手……とても綺麗…それに…眉毛だって……」

 那須先輩の指は如何にも妖艶な、官能的な手つきで鏡介の手の甲、手首、前腕をなぞる。

 これが俗に言う手ックスなのだろうか。

 紅潮した那須与一の顔は少しばかりの照れとムラつきを帯びている。

 一方義経はその様子を見たのち、少しずつその情景を知覚することができてきたらしい。

 ……そして、怒気を孕んだ目つきで那須先輩を睨め付けた。

 しかし当の那須与一だって、このことは悪いことだと認識はしているらしい。

 いくらオトそうにもオトせないからって、色仕掛けをするのはもってのほか。

 そんなこと那須先輩には重々承知だ。

 その上で、那須先輩は色仕掛けを仕掛けているのだ。

「ねえ…いいでしょ?」

 那須先輩は椅子ごと鏡介にぐんと近づいた。

 そして、鏡介の手に自身の手を重ね、指を絡ませ、持ち上げた。

 (……!那須与一…まじで言ってんの……?あの女には貞操概念がないの…?)

「一回ぐらい、さ……」

 そしてその手を那須先輩は…自分の胸へと…………

 (あーーーもう!なんなのよ!鏡介だってされるようにされちゃってるし…なんか、もう…泣きたくなってきちゃった……なんで、私こんなとこいるんだっけ……もう嫌だ……離れたい…)

 義経は机に突っ伏して、溢れる涙を膝で必死に受け止める。

 (嫌だ…助けて……静御前……!)

 


「すみません…できないです…俺には……」

 鏡介が口を開く。

 同時に、義経も顔を上げた。

「今やっとわかりました…先輩、あなた…そんなに俺のこと惚れさせたかったんですか?」

 那須先輩は鏡介の手が胸に触れる寸前で、行動を止めた。

「………いやー、流石にか…」

 那須先輩は少したじろいだ手つきで頭を掻いた。

「いや、なんか…振るみたいで申し訳ないんですけど……俺には、好きな人がいて…実は告白もしてるんですよ」

 義経の頭の中で何かが殴られた。

 (え……告白…?)

 視界…と言うより視覚が真っ白になったと言うべきか。

 ホワイトアウトする脳内が嫌に傷つく。

 (う……そ…)

「え、うっわマジかー」

 那須先輩が少し、ほんの少し赤面した顔で、赤面した顔を隠すように…リアクションした。

「はい……」

 (嘘……最悪、どっちに転んでも……結局、私は……)

 ほんの少しの思考が彼女の涙腺を刺激し、

 ……あれ?

 (私……なんで?今更だけど…)

 なんで泣いてんの?

 義経は口を両手で押さえ、しゃくり上げる呼吸音を必死に殺す。

 その間に、彼女は…源義経は、一つの解に届いた。

 (そっか。私…まだ、あいつのことが…碌でもない、あいつのことが…蛙化したはずの…あいつのことが……)

 ……………好きだったんだ

 でも、鏡介にはもう、告白した人物がいる。

 それは事実。

 覆ることのない事象。

 それでも、彼女は…まだ追いかけているのだ。

 怠惰で、不快で、鈍感で、不器用で、不倶戴天の敵でありつつ、

 俊才で、博学で、聡明で、機敏で、才気煥発な…彼の…吾妻鏡介のことを。

 (ははっ…たった1人で、勝手に救われて…結ばれるかもって恥ずいくらい妄想して…実際振られて恥ずくなって…何してんだろ…私)

 義経はスマホを握った手の甲で、涙を拭い、席を立とうとした…

 (私には……もう、いないんだ)

「どんな人なの?聞かせてよ」

 那須先輩の声も聞こえないふりをした。

 ただ虚しくなるだけだから。

「小学校からの付き合いなんですけど…そいつ、めっちゃなんでも出来て、俺も勉強だけは必死に追いつこう追いつこうって必死で…」

「へぇ〜だからそんなに頭いいんだー」

「いや…バカなガキに必死に物詰め込んだだけですよ……その子めっちゃ顔も性格も良くて、いつもハブられてた俺と一緒に遊んでくれてたんですよ」

 突如、義経は懐古する。

 あの幼稚で、稚拙な青春のことを。

 人生初に味わった、小学生の小さな身体では収まらないほどの大きな後悔を。

「へーー、んで…好きになっちゃったと」

「はい…//」

「うっへー甘酸っぱいねえ」

「一緒の中学も受験しました!……でも、結局俺だけが落ちちゃって…」

「あらまあ…でもそれが、この学校の中等部ってわけだ」

「はい、そうです…僕も中3で必死で勉強して、外部受験で受かったんですけど……話、戻すと…告ったんです……その小学校の卒業式の日…小学生が必死に大人ぶって、大仰な文章連ねて……最後の方で好きですって伝える系のを…ラインで……」

「お!結果は?」

「『考えさせて』って、」

「え、あーー…」

「当然、もう振られた、ってことっすもんね……それから返事も来なかったし、中学で彼氏作ってたって聞いたし…」

「…………」

 義経も申し訳なさそうに下を見つめる。

「でも、待ってるんです…!9割9部終わった春だとしても、残りの1部を夢見て、一縷の望みをかけて、風呂場とか…寝る前とかに返事来ないかなーとかキモい妄想垂れ流しては満足する…そんなことを繰り返してきたんですよ…だから、まだ望みは捨てちゃあない!だから…俺はまだ笑えてるんです!」

 義経は顔を再度あげた。

 (まだ…覚えててくれてるんだ…!)

 なんで…あの時返事言えなかったんだろう……

 好きだったはずなのに…

 嬉しかったはずなのに…

 もしかしたら…『告白される』…それだけで満足して、それ以上のことを嬉しがる余裕なんてなかったのではないか?

 実のところ、義経にもその節はわからない。

 過去のことなど…それより大きな過去に簡単に塗りつぶされてしまうから。

 今思い返すと、1年の頃のあの想いは、『恐怖』であったのだろう。

 恋することへの恐怖。

 しかし、鏡介はその恐怖を崩落させるのに相応しかった。

 義経は、1年の鏡介に、恋という名の救いを、…いや違う、恋心と救いを混濁していたのだ。

 恐れていた恋心に、救いの手を差し伸べるなんて、実に滑稽だ。

 如何ようにも笑い飛ばせる恋心。

 恋とは?を混濁したままの、恋心。

 しかし、今はそれを漉(こ)すことができた。

 (………好きだ)

 救いも、殺意も、何一つない

 ……といえば嘘になるが、それでも衆人が抱くような恋心は義経をも狂わせる。

 

 DM通知の鐘の声 淡い期待の響きあり

 羞月閉花のマドンナも 友人止まりの理を顕す

 奢れる男も久しからず 時代は既にジェンダーレス

 猛き人も遂にはデレぬ 恋の前には塵に同じ


 馬鹿らしい、実に馬鹿らしい想いだ。

 それでも、あの頃と同じような恋心を抱いて…

 あの頃の、恐れへの救済ではない、あの頃の恋心をあの頃のまんま抱いて、

 返事を言う…!

 鏡介に…!


「なぁるほどー…いー話じゃあん……あぁー!なぁんか恥ずくなってきたなー!さっきの自分が…」

 那須先輩はぐんと伸びをする。

「よし!もうコソコソオトそうとするのはやめだ!今度は正々堂々鏡介!あんたを惚れさせる!」

「えぇー…応援してくださいよー…」

「やだね!だって、私あんたに興味湧いてきた!」

 すると、那須先輩が義経の方を見てきた気がした。

「正々堂々だ。惚れさせてみせる、絶対に」

 あぁ。こちらこそだ那須与一。

 どんな物でも愛は人を繋ぎ止める。

 しかし、恋愛ともなればそれは別だ。

 仲間も、友達も、家族も、師弟も、先輩後輩も関係ない。

 本気で相手を奪い合う。

 

 さぁ…恋愛合戦第二陣の始まりだ。

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