恋ひ煩わせる者、恋ひ煩いし者 〜開戦〜
、、、、さあさて…とりまこの状況説明しよう……
僕…というか、今回は鏡介か…の右手側には…
前話で紹介した那須与一がこちらを見つめている…
そして…彼女は…………
鏡介の太ももを両手で、舐めるように触っているのだ…!
なんだなんだなんなんだこの状況?!
僕と鏡介の身に…何があったというんだ…?!
それは遡ること今朝の話────
「おはよーごぜーまー!のーりつねー」
テンション爆上げの気色の悪い鏡介が教室の全開ドアから顔を出した。
「─?!あ、あぁおはよ…!」
「聞いてくれよー!昨日さ!義経とギリ仲直りみたいなのできたんだよ!いやーまじアイツのお陰…」
「?アイツ?」
「あああ!違う違う!噛んだ噛んだ!アンタのおかげだよな!」
とても苦しい言い訳をしながら鏡介は続ける。
「裏から手引きしててくれてたんだろ?まじありがとう!」
「い、いやぁー…そ、そんなぁ…」
しかし教経は覚えている…
昨日の汚ねぇ嬌声を!
これをネタにできる胆力が彼女にあれば、、、
しかし、不安が優勢である勇気を精一杯搾り出し、
彼女は鏡介に問いかける。
「ねえ鏡介!、」
「ん?」
「昨日…なんか……仲直り、の後…なんかしてた?」
赤面していくのを必死に堪え、教経は鏡介に問う。
「おーしてたしてた!」
(シてたの?!)
一度、教経の体が大きく揺れた。
「マージ大変だったよ…義経が止まんなぇからさー」
(止まんない!?…ドコが?!)
二度、教経の体が大きく揺れた。
「ほんとにうるせぇのアイツ!先生に怒られないかヒヤヒヤしたよー」
(いやいや…!怒られたくないなら学校でシないでよ?!)
「でも、アイツってガチ(ゲーム)上手いんだよな…」
(義経も上手いの?!テクいの✖️テクいのじゃん!)
「でも…アイツも相当 (ストレス)溜まってたみたいだな…反省しなきゃな」
(た…溜まってた?!ていうか…反省って…)
「鏡介…もしかして、『(性欲)発散』させようとしてる?」
「…?そりゃそうだろ、『(ストレス)発散』させなきゃ可哀想だろ…元凶俺なんだし…」
「元凶俺ぇぇぇえええ?!」
教経が叫んだ、その刹那であった!
余計に話をややこしくさせる義経が丁度ドアから顔を覗かせたのだ!
彼女はこちらをじっと見つめている。
しかし、以前のような殺気はない。
それどころか、赤面して鏡介に接近してきたのだ。
義経はそっと、彼に耳打ちした。
「ね、きょーすけぇ//…今日も、いい?///」
「え?あ、おっけ!わかった!」
その時の鏡介の“よっしゃ誘ってもらった!“という叫びが僕にも聞こえたのだが、
それどころじゃない教経は赤面しながら、
「こんなの…えっちな同人誌じゃん…///」
と呻き声をあげた。
そして彼女は倒れ込んだのである。
今日の1限目は体育らしい。
男子と女子に分かれて着替え始める。
男だけの空間で下ネタが飛び交う。
そんな空間で、鏡介は自身の鞄を開けた。
その時であった!
「あ、いけね」
《?どうした?鏡介よ》
(………体操着忘れた……)
そう、ないのだ!
中学の時から愛用している、ナイキのナップサックが…!
(な……ない!)
ないのだ!どこを探しても!
隅々まで探しても!やっぱりない!
鏡介には、一筋の記憶が蘇りつつあった…
家での出来事…
あの時、確かに……体操服を鞄に、いれ…いれ……いれ、
入れていない!!!
悲しきかな、鏡介は浮かれていたからか、体操着を家に忘れていたことを今この瞬間に思い出したのだ!
当然、鏡介には体操着を貸してくれる友達などいないもんだから、
そのまま見学となってしまった。
グラウンドと校舎傍の小道とを挟む階段に座り込み、
鏡介はレポートを書き上げ始める。
授業時間も残り半分を切ったところだろうか。
6月といえども、梅雨前といえども…
肌を貫く熱気に気圧され、鏡介は汗を垂らしていた。
頬を伝い、顎から滴らんとする汗がうざったいのか、
鏡介は右肩で頬の汗を強く拭う。
───ここからが事件の始まりであった。
読者諸賢の皆様にも試していただきたい、
右肩で汗を拭う動作には、必ず『ある工程』が挟まれる。
その工程とは………自分の右手側奥をチラ見する工程である!
当然、鏡介もその工程を挟み、頬の汗を拭った。
その瞬間に垣間見ゆ…!
何者かがこちらに迫っているのを!
初めのうちは誰かわからなかった鏡介だが…
その何者かが15mを切った位置ぐらいにくると、鏡介はそれが誰なのかわかった。
(ゑ?那須与一先輩?!)
先の那須先輩がこちらに向けて歩を進めていたのだ!
教経の青みがかった黒髪よりも、少し薄い…勝色とでもいうのだろうか…
黒みがかった紺色のポニーテールが可愛らしい。
赤地に金の日輪をあしらえた扇の髪結びがよく目立つ。
気づけば、目と鼻の先に彼女は立っていた。
「いや〜やんなっちゃうよねー、初手から体育なんてさー」
「ま、まぁ…はぁ……」
「私は那須与一!3年2組の弓道部なんだ!君は?」
「あ、俺は吾妻鏡介です、2年3組の帰宅部で…」
すると那須与一さんは目を輝かせた。
「え!吾妻って…あの吾妻君?!学年1位の?!」
「え…?あーはいそうですけど…」
「すごーい頭いいんだ」
すると、彼女は蕩けた目つきで鏡介の方を見つめる
「今度さ、勉強教えてよ、マン・ツー・マン、で…ふふっ、2年の範囲わからないところが多くてさ」
囁きボイスで那須与一は語りかけた。
その光景を眺めている僕こと、阿弥陀芳一は勘づいた!
《この女…!鏡介で弄ぶつもりか?!》
ジリジリと詰め寄る那須先輩の膝に、鏡介の膝がぶつかる。
「………」
(よし!効いてる効いてる!)
那須与一は案の定鏡介を弄ぶつもりで寄ってきたらしい。
(百発百中!狙った獲物は必ずオトす!この那須与一の手にかかったらオトせない男なんていないんだよ!)
那須先輩はニヤリと笑う。
(このガリ勉くんは割と早く済ませられそうだなー!じゃ、手っ取り早く済ませちゃおっと)
那須先輩が思考した瞬間、
「…あのー、近いんすけど……暑いんでちょっと離れてもらうことってできないすか?」
鏡介は淡々と、アレクサにでも話しかけるような口調で落ち着いて喋ったのだ!
「え。」
流石の那須与一も声が漏れた。
それは僕も同じである。
なぁんでこいつ照れてねえんだ?!おかしいだろ!こんな美人に言い寄られたら、どんなチャラ男やナンパ師だって多少はたじろぐ筈…
それをなんだ?こいつ…こうも平静を装えるとは…!
いや違う!装っているのではない!まじで平静なんだ!
ありえるだろうか?!
いいやありえない!
綺麗な反語が決まったことにも言及する余地はない!
まさか…こいつ、義経に恋しているからか?!
でも、那須先輩のあの目つき、囁きASMR、並大抵の恋では簡単に打ち砕かれてしまう。
では……鏡介はそれを耐えうるレベルの恋を…しているというのか?!
那須先輩も少々動揺する。
(な…何にもたじろいでいない…だと?!多少なりとも顔を背けたりはするもの!せいぜい『近い』って焦った口調でいうのが常套句なんじゃ?!確かに…この状態で軽くあしらわれたのは、過去5回ぐらいはあるけど…ここまで淡々と『近い』って言われたのは初めて!何こいつまじで?!)
そんな僕と那須先輩の慌てふためく脳内を、鏡介は知る由もない。
「あのー…聞こえてましたか?暑いから、少し離れてください…」
「え!あぁ!ご、ごめんね?!」
那須先輩は少し羞恥を受け、腰を浮かした。
「いえいえ、こちらこそすみません……それにしても、勉強会か…」
鏡介は少々思案したのち、
「口頭で教えられる教科なら今オッケーですよ!」
なんだってええええええええええええええ!!!!
那須与一のオトす文句をそのまんま受け取り、実行してしまうだとおおおおおお???!!!
「え?べんきょ…え、あれガチ?」
那須先輩も放心のようだ。
「ガチガチっすよ?別に大丈夫ならいいんすけど…」
「後輩に教えてもらうとか…ちょっと矜持がね…今はいいかも!ごめんね?」
「あ、大丈夫ですよ!こっちこそ早とちりしてしまって…すみません」
思いっきり恥辱を受けた那須与一にはふつふつと込み上げるものがあった。
(ふぅん…なぁんだ、オトし甲斐あんじゃん)
久々に出会った強敵に、燃える那須先輩であった。




