おほり、殺す。
なんとか『仲良し計画』の第一歩、『心開かせよう大作戦』の打開策が判明した!
残り5限と6限…なんとか話し合える領域まで引っ張り込めたら最高だ!
…そう思っていた時期が僕にもありました。
《…おい、鏡介…なんで学校終わってしまってんだ?》
実のところ、あのまま何も進展がなく下校時刻になってしまったのだ。
そうして、僕らがいるのは24時を回った鏡介の部屋である。
「しゃ〜ね〜だろ、話しかけるタイミングなんかなかったんだからぁ」
不貞腐れたように鏡介が返す。
《話しかけるタイミングなんてもんぁ自分で作りゃあいいだろ?!》
「うぇ〜…陽キャうぜぇ…」
心の中ではこう、達者だが…
僕の前世はえげつない陰キャだったという過去があるのだ。
読者各位の皆皆様が思い描く陰キャなぞ、僕にとってはパリピのようなものである。
そのレベルのバチクソ陰キャ。
精神世界でしか戦えない哀れな戦士なのだ。
《なぁ〜にが陽キャだ…僕なんて…》
僕はそう、小さく呟いたのだった。
「でぁあああああ!クソ!」
急に叫んだかと思うと、
鏡介は己がズボンを腰から下ろした。
《な、なんだぁ?『びっくりするほどユートピア』でもすんのか?》
「うっせえ!シコって寝る!あとはよろしくな!」
鏡介はそう吐き捨てたら、下着も脱いで、
スマホと股を開いて股間を摩り始めた。
《「あとはよろしく」ってお前…くっそ〜…しくったや……どうすりゃ、》
先日の芳一の様子を思い返して欲しい。
隣の席の女子である平教経と対話する際も、
彼は、芳一は文としての会話をしていないのである!
したとして軽めの応答と、相槌だけだ!
当然、その調子だと女子に話しかける事などできまい。
《グァアアアア……どうすりゃ…》
すると、鏡介のオカズが目に入った。
何かのゲームかアニメの二次創作であろうか。
騎乗位で陰茎を突き上げられていて、アヘ顔を晒しているそのキャラに、何やら僕は既視感を抱いた。
《ん〜…なぁんかそのキャラ見覚えあるなぁ…》
「おい!邪魔すんなよ…!もうちょいでイけそうだったのに!」
《それ、なんのアニメ?ゲームか…名前何だったっけ?》
「…? 『大ロマ』、『大正ロマンス』っていうソシャゲだった筈…」
しかし芳一に電流走る────!
《これ…好きなゲームの話題吹っ掛ければいけんじゃね?》
「FPSつってたろうがぁぁああああアアアアあ!」
《ちがわい!スマホゲーだよ!》
「ヘン!どーせ『荒野行動』…待って、イく…!」
《勝手に決めつけんなよ!》
「ちょ…叫ぶなっ………て、、」
鏡介が差し止めたのも束の間、
彼の亀頭から限界を迎えた精液が「こんにちは」したのだ。
鏡介はスンと真顔のまま、崩れ落ちていった。
吾川鏡介、痛恨の不発である。
「許さん、絶対許さんぞ…阿弥陀芳一」
《やった!奴らに勝ったぞ!ふ は は は は!》
「お前のオナタイムもぜってぇ邪魔してやるからな!覚悟しやがれよ!」
鏡介の怨嗟の叫びは宵闇の街影へと吸い込まれて響いていた。
普通に迷惑である。
夜中にやめていただきたい。
翌日==
教室に響く喧騒に包まれ、僕は決意をした。
(今日、義経と仲良くなる!)
握り拳を作り、僕は計画を再度頭の中で練った。
「どー?どー?鏡介ー、いい考え持ってきた?」
教経が顔を覗かせる。
「うおっ?!、の…のり、つね………さん……」
「もー!昨日はちゃんと呼び捨てできてたのにー!…な〜んかキャラが違うんだよね〜」
どぎり
「お〜?なんだぁ?図星かなぁ?」
教経は口元を指先で隠してプププッと笑った。
揶揄っているその彼女の、僕を見つめる一直線な目つきに、僕は再度どきりとした。
「そ…そそそ、そんな、事、、ななっない…すよぉ?」
焦燥と含羞で声がぶるぶる震えた。
「ふ〜ん…ま、いーやっ」
教経は漸く離れてくれた。
「で!義経と仲良し計画の次のやり方、考えてきた?」
「あ、ぅ…はい……」
「お!まじ?聞かせて聞かせて!」
「あ…ぃや…あの……また、の…おたの、しみで…」
僕は頑張って声に出した。
意外になんて事ないなと思った。
「おー、期待させんねぇ…!楽しみにしておくよ!ガンバ!」
今日も今日とて教経が可愛い…
僕ぁ幸せ者です…!
さて、
そんなこんなでラウンド開始だ!
まず、この計画には僕が義経に話しかけることが前提条件…
『これは試練だ』と自分に必死に言い聞かせる。
「よし!話しかけるぞぉ〜!がんばれ!僕!」
話しかけるぞ〜
話しかけるぞ〜
話しかける……
はな……
〜昼休み〜
《おい話がちげえぞ、ア芳一》
鏡介がブチギレている…
こればかりは僕が悪い。
半日を無駄に浪費してしまったのだから。
「ねーねー、これって放課後がベストコンディションって感じなの?」
「え…まぁ、はい…そう、かも…です」
僕は女子とのマンツーマン昼食にバチバチに緊張していた。
《聞いてますか〜?お〜い、》
「そろそろ教えてよ〜…ねー?」
(煩えな…こいつら…)
この聖徳太子ゲームの辛さがわかるのは僕だけだ…
この世で僕しか知らない、この苦しみ……
涙が出る…!
……出ないけど。
「ほ!放課後!放課後!もしくはそれ以前に行く、から!」
(お?言ったぞ貴様)
「いいじゃん!言ったねぇ!応援してるよ!」
あぁ〜…やーばい、宣言してしまった……
本当に成功するのかも怪しいのだが…
ここまで逃げたいと感じたのはいつぶりか…
この焦りの境地に達したのは10歳を超えてから…!
でも、僕には逃げることは許されていない。
しっかりと前をむき、立ち向かうのだ!
精神世界だからなんだというのだ!
僕は戦士だ!
戦い続けるぞおおおおお!!!!!!
そう再度決意したその瞬間、
出入り口の方から誰かが覗いている。
女子だ、上の学年だろうか?結構美人で少し目移りしてしまった。
おっといけない…僕は生涯付き添おうと決めている人がいるのだ!
鏡介に気づかれてしまうから、おまり大きな声では言えないが…
するとその美人先輩はこっちに向かって微笑みかけてくれた。
そしてそのまま手を振ってどこかへと消えてしまった。
「ぬっひょー!やべえ!那須先輩パネエ!」
「まじ可愛い!」
那須先輩…?ってなんだろうか、恐らく、この流れだと那須与一だろうか。
那須与一には語るまでもない逸話があるが。
7段、現代の72mほど離れた場所を荒れた海という足場の悪いところに乗馬し、一寸の隙間を狙い撃ちするなどという人物の実在性はかなり怪しいものである。
事実、那須与一などという人物の名前など、どこの貴族の日記にも載っていないのだ。
それよりも、前後の源平ドタバタ合戦を見てもらいたいのではないだろうか?
そんなことはどうでもいい、
教経に那須先輩のことを聞いてみる
「え!男子で那須先輩知らない人いるんだ!めずらし!まあ、源義経、私、そして那須先輩こと那須与一、この3人で紅白三大美人って言われてるんだ!那須先輩は弓道部に入ってて、毎年地区大会優勝してるすごい人だよ!それは恋愛面でも発揮されてて、すれ違った男のハートを全部射抜いちゃうんだって!」
成程〜…これで校内三本指の美人は出揃ったわけだ。
でも、そんな先輩がなんでこの教室に顔を見せたのだろうか…
謎は深まるが…今は、眼前の目的に集中しよう。
〜放課後〜
「明日やろうは馬鹿野郎」を強く実感した1日であった。
とうとう、運命の時間になってしまった。
内なる鏡介は寝てしまっているし……
ここからは僕1人で戦わなけりゃならない。
夕日が差し込む教室。
皆、部活やら遊びやら帰宅やらでほとんど帰ってしまった。
残りは僕を入れて3人。
そのうちの1人も明日の授業の準備が終わり、鞄を担いで出て行ってしまった。
2人きりになってしまった。
恐らく、教経の差金だろう。
しっかりサポートしてくれている!
この気持ちに応えなければ!
「で?何、話って」
般若の面が霞むほどの負の念が籠った眼差しで僕を睨みつける。
そう、最後に残った2人とは、僕と源義経である。
「…………!」
声が出ない、恐怖心のあまり…
動けない…!
がんばれ…!がんばれ!
僕…僕ぅ!
引き絞れ…これが終わったら…!自由時間だ!楽しい自由時間だ!ご褒美もある!
ふり絞れええええ!逃げるなアアアアあ!!!
もう、教経の時のようなことはしない…!
ぅああああああああああああ!!!!
「……………」ゴニョゴニョ…
…終わった…ごめん、2人とも……
どんなに引き絞っても、これぐらいの声しか出ない……
どんなに頑張っても…これだけしか…!
、こうやって言い訳を重ねる時点で、
僕はもうダメなんだ…
前世もそうやって言い逃れて生きてきて…
今世でもまたそうだ!
何が垢抜けだよ…
何も…僕は、何も!これぽっちも!
……変わっていない…変わろうとしているだけ…!
もう、ここまで自分が惨めだと…
消えたくなってくる……
あぁ、やっぱり…僕はダメだ……ダメなんだ…!
涙が溢れてくる…
僕は、どうしようもない…馬鹿野郎だ。
誰からも、嗤われようのない、馬鹿で、意気地なしで、
ヘタレで半端な…碌でもないゴミ野郎だ…!
2人に、申し訳ない。
教経の思いも…無駄にしてしまった…
僕は、彼女を裏切ってしまった…
彼女の気持ちに、期待に…
応えられない…
応えてはならない!
応えられるものか!
僕は彼女を好きになってしまってはダメなのだ、
分不相応、高嶺の花…僕なんかが、手を翳したらダメなんだ…
もう、全部やめよう…
罪悪感で胸がいっぱいになり、
溢れる涙を抑えるのに必死だった。
ごめん。
ごめんなさい…!
「は?お前、なんつった?『なんでそんな怒ってるの?』…は?はっははあ?」
「え?」
聞いてくれた…
義経…
彼女、僕の声をきちんと聞いてくれていたんだ!
この、どうしようもない、僕の声を…
彼女は、彼女だけは!聞いていてくれてたんだ!
「私の聞き間違いだよねえ?ねえ!聞いてんだよ!」
…感動している場合ではない…
彼女の敵意はマシマシだ…
いつ殺されてもおかしくない…
彼女が発する敵意で内なる鏡介は飛び起きてしまった。
《な!な!な?!何この状況?!どんな…え、えぇ?!》
「は…はい!聞きまちがいです!あなた様の!ええはい!好きなスマホゲー教えていただけないかなと…!」
恐ろしく早い早口だ。
義経じゃなきゃ見逃しちゃうね。
火事場の馬鹿力と言おうか、
命の危機を感じると人こんなにも流暢に喋ることができるのだ!
みんな!今日のトリビアだぞ!
「ふ〜ん。スマホゲー、ねぇ…ゆーて普通よ?『ブロスタ』とか『荒野行動』とか『モンスト』とか…」
文字では普通の会話に思えるだろうが、義経の声や言葉には明らかに殺意が孕んでいるのだ。
僕と鏡介は今にもちびりそうだ。
今の彼女を体現するなら。
そうだ、ラスボスだ。
「そ…その、僕に…ぼっ僕って…FPS、苦手だから…教えていただけ無いかな、と……」
義経は左上を少し向いて息を吐いた後、
「ねえ、PVPしよっか?」
殺意が少し、ほんの少しだけ薄らいだ義経が笑みを浮かべた。
数分後=
(いや〜生徒会で遅れちゃった…鏡介くんはしっかりやってるかな〜?)
教経は鏡介のいる教室へと足を運んでいた。
(お、電気ついてる)
2人がいる教室に灯りが灯っており、そこから何やら物音がする
(?なんだろ)
教経は10歩進んで、それが物音でないことに気がついた。
「お゙っ♡」
「ちょ…声でかいですって…」
「だってぇ…もう我慢できな゙い゙ぃ」
…明らかに鏡介と義経の声だった。
「え、え、えぇぇええええええええええ〜〜〜〜???!!!!」
教経、びっくり!
(何あれ何あれ何あれ!ナニしてんの?ってか発展しすぎ!何があったの?まじで!)
赤面し、困惑する教経に構わず、声が鳴く。
「お゙っお゙っお゙っお゙〜〜っ//ぎんもぢぃい゙い゙い゙い゙い゙いいい♡!!!!」
(そんなに?!そんなに鏡介ってテクいの?!やだ!)
《成程…その手があったか…》
その頃、教室内では鏡介がしみじみと感心していた。
「い゙ゃ゙ん゙♡もっど!もっどお゙!も゙っど頂戴ぃぃ゙い゙いいいい!」
「ちょ…殺りすぎですって…そんなに(殺意)溜まってたんですか?」
芳一の計画を、鏡介が解説してくれるそうだ。
《確かに…FPSならどんなに殺されてもリスポーンできるし、それがvs嫌いなやつなら、そいつをサンドバックにできる!それで晴れて義経の憂さ晴らしもできて、尚且つ共通の趣味アピールができる!攻守において完璧だ!……にしても…》
鏡介が両者のスマホの画面を見る。
《芳一のやつ。こんなにやられてて、よく耐えられるな〜…いや、バケモノなのは義経もか、ランダムリスポーンだっていうのに…そのリスポーン地点にすぐに駆けつけている…ほぼ1秒間しか空いてねえぞ………しかも、どんだけイラついてたんだよ…キルするたびにオホ声あげてるし………にしても、ゲーム上手くて、文武両道で…しかも可愛い…やっぱ好きだな…義経》
感性がおかしくなってしまっている鏡介に感涙を禁じ得ない。
(嘘でしょ嘘でしょ!どんなに激しいプレイを、…ここ学校だよ!そんな!えっちすぎるってぇ!)
教経は赤面し慌てふためくばかりであった。
「あ゙!あ゙!あ゙!あ゙ぁ゙あ゙あ゙ん///!!!いいよぉ!ぎもちいぃ!もっど逝って!お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙ぉお゙お゙お゙お゙お゙♡!」
義経のオホ声が、谺する。




