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かの人、狂へり

 カーテンから透ける朝の光。

 ドア越しからやんわりと聞こえる朝食を作る音。

 6時半を告げる電子音が、私のスマホから鳴り響く。

 皆さん、ご機嫌いかが?

 私は源義経。『よっしー⭐︎』って気軽に呼んでいいわけねえだろ。

 母とは幼い頃に死別し、父はシングルファザーである。

 そんな父はかなりの大手に勤めてはいるが、途中海外に単身赴任となり、

『私』…というより『私達』は父の友人である『藤原秀衡(ふじわらのひでひら)』さんの家にお世話になる事になった。

 そう、私には姉妹がいるのだ!

 と、言いつつも実の姉である『源頼朝(みなもとのよりとも)』には現在、嫌悪感を抱かれている状況にある。

 昔はあんなに褒めてくれてたり、期待してくれていたのに…

「おはようございます、義経ちゃん!」

 秀衡さんの娘である『藤原泰衡(ふじわらのやすひら)』が声をかけてくれる。

「うん、おはよっ」

 とこう返すのが私たちの暗黙のルーティーンと化していた。

「よー、義経!ご飯できてるぜ」

 秀衡さんも私を実の娘のようによくしてくれている。

 本当にすごい人だ。

 東北に本社を置いている、100年続く『奥州電鉄(おうしゅうでんてつ)』の跡取りでありながら

 泰衡が生まれてからは本家のある平泉ではなく、彼女の住んでいる野田阪神のマンションの一室に常駐し、

 そこで家族と共に寝食を共にしている。

 しかし、半分私のせいでもあるのだろう。

 私がこの家に入った時は既に中学生であり、頑張って入った学校での生活を大人の都合だけで壊してしまうのはどうかと考えたり、当時の私には所謂彼氏というものが居たりしたので結果、タイミングを逃しに逃し、またもや逃しを繰り返して高校2年生の今日に至った。

 ……というのが私の憶測である。

「ごちそうさまでした、それでは義経ちゃん!一緒に学校いきましょうか!」

 ……けれどまあ、泰衡ちゃんも学校を楽しんでくれているようで良かった。

 これで楽しい学校生活を送れていなければ、私は良心の呵責と罪悪感で自刃してしまっていただろう。

 ……やっぱり自刃はなし、自主退学で。

 ともかく、彼女が幸せならばそれでいいのだ。

「ちょっと待ってー」

 そう私は声をかけた。

 

 ピンポーン

「ねえ来たよー」

 玄関の方から声が聞こえる。

「あ、政子だ。秀衡さーん!行ってくるねー」

 インスタの通知が鳴りまくるスマホとカバンを持って、

 頼朝は今日初めて口を開いた。

「やばいやばいやばい…」

 そのまま彼女は駆けていった。

「よし!準備できた!行こっか」

 私と泰衡も登校の準備ができた。

 6月の上旬、今日は少し暖かいかなー?という読みが外れた。

 十分に肌寒い。

 でも耐えられる。

 今日も環状線の改札音や、電車のドアの開閉チャイムが私の脳を本能的に呼び覚ます。

 今日も朝が来た。




 

 義経の元カレを見せられて、更に残酷な現実をナイフのように突きつけられた。

 当然、鏡介は机に突っ伏し泣いていた。

「よし、死のう!」

 《そんな『よし、京都行こう!』みたいなノリで言うなよ!》

「そんな『よし、京都行こう!』みたいなノリで言わないでよ!」

 …………教経(のりつね)と心が通じ合った!

 う…嬉しいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!==(*≧∀≦*)==

 そんな不謹慎を不謹慎とも思わない心の叫びも

 勿論教経には聞こえず、彼女は続ける。

「成程ねぇ……好きな人に逆恨み…かぁ、確かに仲直りしようがないね」

 いつの間にか鏡介はこのことを彼女に伝えたそうだ。

 教経は顎に指を添え、う〜〜んと考えた。

「そうだ!語り合ったらいいんじゃない?」

「特攻しろと?!」

「違う違う!何かお互いの好きなものを語り合う、とか?どうかな!」

 教経は案を提示したおかげで鏡介は無事理解できたようだ。

「ほほう……んであいつの好きなものって何?」

「う〜〜〜……ん、確かFPSが好きって噂は聞いたけど、どう?鏡介」

「初めてプレイしたオカンにボコボコにやられてクソほど煽られた」

「おっけーFPSはなしと…」

 《お前…ガチかよ…》

 (なんか文句あるか?おお?)

 鏡介はブチギレラーメン威圧マシマシを提供してきた。

 そんな彼のプレイスキルを想像すると失笑してしまう。

 

 そんな状態の儘、とうとう昼休みになってしまった。

「何かないかなー…」

「今日それを何回聞いたか…」

 アハハっと笑みを溢し、打開策を思案する。

 その時だった。

「はぁあ?!おま、苺に牛乳かけるのかよ!おっげえ!」

「はぁ?!牛乳バカにしてんなよ!牛乳以外何があんだよ!」

「練乳」

 牛乳派の義経と練乳派の赤髪ロングの女子とが戦争していたのだ!

「異端者が…排除してやる」

「私のミルク喰らいやがれ…」

 突如始まったリアルスマブラに呆気に取られていると

「…何あれ?」

 教経が問いかけてきた。

「なんか、苺に練乳かけるか、牛乳かけるかで揉めてるらしい」

「いやそんな変わんねえじゃろ!?しかも『私のミルク喰らいやがれ』って下ネタじゃねえかよ!」

 《人間って、面白(おもしろ)!》

(どこぞの死神けお前)

 すると、突如教経が叫んだ。

「こっこれだああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

「うおおおどうした?!」

 鏡介が腰を抜かした。

「これだよこれ!別に好きなものとかじゃなくてもいいんだ!◯◯派で語らえばいいんだ!」

「あー成程…俺どっちも好きだけどなー…ゆーて」

 すると鏡介の言葉が終わるか否かのタイミングで

 チャラい男子が練乳派と牛乳派の間に立った。

 そしてそのチャラ男は口を開き、

「練乳も、牛乳も、等しく愛そう…!」

 聖母かと見紛うような穏やかな面持ちで、彼は言ったのだった…


 

「あ?帰れ、優柔不断」

「しょーもないんじゃ」

 チャラ男は二者に軽く一蹴されてしまった。

 それを見て学んだのか、鏡介は

「うん!やっぱ時代は牛乳よな!牛乳さいこー!」

 と口を大にして言ったという。

 義経たちの戦いの野次馬が言った。

「やべえやべえ!源義経さんと巴御前(ともえごぜん)さんの世紀の対決だ!」

 ────!

 巴御前?!

 かの有名な?!

 彼女の赤髪ロングは正しく血の河を連想させておきながら、とても美しい。

 紫蘇色の瞳孔も深淵のようでありながら、宵闇のような静けさもある。

 そして、義経や教経とまではいかないが、端麗な容姿。

 彼女はなぜか史実どうり女性であるが、そんなことはどうでもいい!

 源平合戦を代表する、戦の天才たちの闘技場!

 史実では美しい長髪でありながら、一騎当千の女武者、

 それに対するは鞍馬天狗から賜りし剣術の主。

 胸躍らない男子など居ようか?!

 僕は鼻をフンスフンスしながら見ていた。

 

「お前何派ー?」

「ウチ、蜂蜜派ー」

「俺、チョコかも」

「えーまじかよーホイップ一択だろ?」

 それに対して教室内の生徒が口々に己の好きな苺形態(ストロベリーフォーム)を語り合う。

 その中央で義経と巴御前は激しい攻防戦を繰り広げていた。

 そこに踏み寄る1人の影、

 そう鏡介である!

 無理だ!無理に決まってる!

 その場にいる応援者はそう思った!

 だが、もしかしたら…一縷の希望が…残っているのかも…!

 勇者は口を開いた。

 

「や、やあ…!君も牛乳派なのかい?奇遇だね!僕も…」

「しぶといね…巴御前!」

 ぁ無視ぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!???????

 眼中どころか、義経には耳にも聞いてもらえないのだ。

 やれ悲しい。

 鏡介の心は美しいほどに粉砕されてしまったのだった。


「ふふふ…もう、全てがどうでもいい……死ぬんだぁ!」

 鏡介の全てが崩落してしまった。

「あーあ、玉砕ねえ」

「っさいんじゃよ、お前よぉー!お前何派なんじゃよ!?」

 慟哭しながら鏡介は投げやりに質問した。

 投げやりは良くないですねえ。

 それに教経は素直に答えた。

「えー?聞いちゃうかぁ…アタシは…『粕汁派』だね」

?????????????????????????

「???????????????????」

 皆の衆、聞いたろうか…

 なんと可愛らしいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!

 

「?????????????????????by作者」


「お前…イカれてるよ…」

 (くっそ…芳一てめえとんでもねえの友達にしやがったなあ…!)

 鏡介が何か言っている…

 でも教経のことを侮辱しているようなので…

 後できっちり在庫処分しておきます!

 

 

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