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鏡介、思ひ恋ふ

 この吾妻鏡介とか言う奴は『この体』を自分の物と言い張っている。

 僕は確かにこの体に転生したはずだ!

 では何故…?

 ここで使用するのが逆転の発想だ。

 つまり、もとよりこの体は彼が言うように『吾妻鏡介』本人のものであり、俺はその体の別の人格として生まれ落ちてしまった

 …と考えるのが自然だと言う事である。

 ————いやいや…転生元が第二人格なんて前代未聞だぞ。

 (えーっと…つまり、お前は転生したら俺の体の別の人格として転生してしまったってことか?)

 そう!おそらくそういうことである!

 僕、もとい鏡介は帰路につきながら語り合った。

 因みに、今現在この体を操作しているのは鏡介である。

 寝る事がトリガーとなり人格が入れ替わってしまうのだろう。

 (いや〜…まさか俺らの住む世界が異世界転生の舞台になろうとはな…)

 異世界転生というより、僕の住んでいた世界と遜色ない世界である。

 この世界も転生前の世界の延長線上なんじゃないかと思えてきているまである。

 まあしかし、僕もこの世界のことを少しくらいは知っておかないといけない。

 この体のことはなんとなく理解はできてきた。

 例えば、今現在吾妻鏡介がこの体を操作していると言ったのだが吾妻鏡介側、とどのつまり『体の操作主』が今の俺のような『眠れる人格』と会話する為には心の声で喋らなければならない、と言うこと。

 そしてその『眠れる人格』側は普段通り発声すると『操作主』だけにその声が届く、と言う仕組みで我々は今対話している。

 ここで問題なのは、『操作主』の思考は『眠れる人格』に筒抜けである、と言うこと。

 そして更に問題なのが、その…つまりだ、

 吾妻鏡介の好きな人の情報も筒抜けである…

 そして、その好きな人なんだが…


 かの有名な源義経だと言うではないか!

 確かに戦国武将の男同士の密会などはざらにあった。

 甲斐の虎として恐れられてきた武田信玄も美少年に浮気の潔白を綴った文書をいくつも送っているのだから驚きだ。

 そんなBL作品も世には出回っているのではないのかと内心思っている。

 だがしかし、現代男子✖︎鎌倉の武士など誰が想像つくだろうか。

 腐女子人気は良さそうだ、イケメンと現代男子…男の僕から見ても彼女らの妄想が捗ることは間違い無いだろう。

 だが、義経の容姿についてはさまざまな議論がある。

 敵の将軍から「出っ歯&チビ」と言われたり、

「女と見紛うほどの美少年」と自負していたり、

「確かにイケメンだけど、お父上ほどじゃ無いよね」「色目がいい」など

 色々と言われているのだ。

 にしても義経に恋愛感情を抱くなんて、松尾芭蕉でもドン引きするレベルだろう。

 いやそんなことはどうでいいんだ!

 まず真っ先に解消したい問題はテスト中に睨んできたあの女子のことだ。

 あの女子に鏡介が何かしでかした可能性は十二分にある。

 善は急げ、千思万考してる間があれば早く聞いてみるのが得策だろう。

 《鏡介、今日さ…てゆーかここ5日間ずっと女子に睨まれてたんだけど…君なんかやった?》

 (あぁ?!なんっ…?女子に睨まれたァ?どんな女子?!いや、待て!やっぱ言わなくていい!)

 鏡介は僕の声をそうやって遮ったかと思えば、頭を抱え出した。

 そうこうしてる間にいつしか鏡介の家についた。

 別にどうってことのない15階建てのマンションだ。

 彼の家はそこの角部屋らしい。

 玄関に靴を揃え、鏡介は自身の部屋に足を踏み入れた。

 彼の机に視線をやる。

 頑張って勉強したのだろう、そこには様々な教材が現代アートの如く山を成していた。

 《鏡介、君なかなかに努力家なんだな…》

「そりゃな、一応学校じゃ優等生で通ってるし」

 自室に戻ったからか、鏡介は心の声でなく発声することで会話を続けた。

 乱雑に積まれた教材を整理しながら鏡介は言う。

「さてと…昼どこに食いに行こうか…」

 《なんだ?一緒に飯行く友達いねぇのか?》

「なんだァ?貴様ノンデリか?俺にそんなのいるように見えるのか」

 《いや、でもちょっと親近感湧いた》

「?」

 鏡介は最後に取り残された教材を手に取り、角を合わせて

 棚に押し込んだ。

 《おーお疲れぇ!》

「うーし、飯どこ食いにいくか」

 鏡介のこの発言で、僕は一つのトラブルを察した。

 《なあ、鏡介》

「ん?どうしたんだ」

 《飯って誰が食うんだ?》

 当たり前すぎて忘れていた事柄、そう食事である!

『操作主』が食事している際、『眠れる人格』はその食事の味を堪能できない。

「あ、そうか…『食事』、かぁ…確かにな」

 鏡介もこの課題は眼中にもなかったろう。

 数度思案したのち、彼は口を開いた

「そりゃ俺が食うだろ、俺の体なんだから」

 《はああああああああああああ???????!!!ざっけんじゃねええぞ!》

 本当にふざけるんじゃない!

 僕は怒り心頭、煮えくりかえった腸(はらわた)で美味しい出汁が取れるほどキレた。

 眦(まなじり)を結(けっ)した僕に腕が生えていたら、1秒に30回の台パンをお見舞いしていただろう。

 《お前の体でもあるが!僕の!体!でも!あんだよ!》

「違うね!おぉれの体なんだから!俺には食事を楽しむ権利がある!」

 《この…カス…!》

 何時迄(いつまで)経っても決着の余地がない。

 そのことを咄嗟に見抜いたのは鏡介であった。

「でえい!クッソ、埒あかねえ…食事は一旦後回しだ!」

 《………なぁ、鏡介、》

 俗に言うイケボだろうか、

 個人的に渋いいい声で彼のことを呼びかける。

「なんだ?芳一」

 それに反応して、鏡介もイケボで応えた。

 なんとも言えない絶妙な空気が部屋に充満した。

 《ムラムラしてきた…シたいから変わってくれ…》

 食欲の次は性欲、忙しい体である。

「まさか、お前…俺との喧嘩で?」

 《チゲぇわ!溜まってんだよ!こちとら!変な誤解すんじゃねえよ!》

 鏡介は小さく、優しく笑った。

 まるで、放置された孤児に食べ物を恵む聖人のような眼差しだ。

「いいだろう!俺のとっておきで抜く権利を与えよう!」

 おおっ!これは期待大だ!

「このオカズは俺の友達にも公開してねえからな!」

 《ああ、友達いねえもんな》

「絞め殺すぞ」

 般若の如き形相で鏡介はパソコンを起動する。

 《どんなのかな!性癖に刺さるといいな!》

「よし!俺のおすすめだ!とくとご覧あれ!」

 よっしゃあ!前世も併(あわ)せたら実に数ヶ月は経っている!

 いっぱいセンズリこくぞおおおお!

 …………………

 …

 は?

「ん?どうした?何か問題でも?」

 《どう言うことだ?鏡介…これは?なんだ?》

「何って…『僕ゆと』のNTR同人誌だけど」

 《ふざけるなよ…ふざけるなよ……!何がっ…何がNTRだっ…………!》

「……、は?」

 人妻、和姦、路上、幼馴染、

 この世にはありとあらゆる性癖が存在する。

 その中でも鏡介は、やりすぎと言うほどの過激純愛派である!

 純愛を前に睾丸を握り、

 それ以外のブラウザを消す。

 ましてやNTRなど純愛と対極に位置するもの。

 西と東

 源氏と平氏

 武田信玄と上杉謙信

 きのことたけのこ

 パンとご飯

 人の時代は戦争の時代、

 歴史は不条理ながらも繰り返される。

「貴様…NTRの良さをご存知ないと…?」

 《良さ…?NTRに良さなどあるものかッ!》

「……!!おまぇえええええええええ!!!!!!!」

 鏡介も怒髪天をついた

 なぜなら、彼も過剰なまでの過激NTR派だからである!

「陵辱…レ◯プ…BSS!この世が誇る文化だろうが…!」

 《お前…もう終わりだよ、もういい、だまれ……何故、シコる度に胸糞悪くならないといけないんだ?》

 震えた喉で溢れ出る殺意を押し殺す。

 そうでもないと、僕は…こいつを殺してしまう……!

 《カップル…いいじゃないか、初々しさがたまらねえ…

  幼馴染…いいじゃないか、今までの信頼関係と一緒に大人の階段を登る…

  手繋ぎ…いいじゃないか、体でも繋がっていると言うのに、手でも繋がるなんて…

  好き好きと呼びかけ合い、揺れる様は…この世のどんなスイーツよりも甘く、尊い…

  だがNTR、テメーはダメだ》

 ジュジュジュージュ・ジュージュジュが出てくるほど、NTRには激しい嫌悪感を覚える。

「ふふっ…もうだめだ、ここで殺すか?」

 《NTR(お前)なんてものがいるから、不倫が起こるんだ…!》

 1秒後には部屋が血に染まりかねない空気感、常人では毒になりうる。

 耐え難き、その空気感、当事者である僕とアイツでなら耐えられる。

 ぐぅうううう………

 緊迫が生んだ静寂を、腹の虫が横切った。

「腹、減ったなあ……」

 《そうだな…》

 前述したが、寝ることがトリガーとなって操作主が交代する。

 つまり、どちらかが深夜徘徊をする羽目になる。

 それも新たな課題だ。

 三大欲求や学校、性格の統一など課題は山積みである。

 突如現れたその山脈に、

 僕らはいつしか寝入ってしまった。



 チュン、チュン…

 男同士のいる空間で朝チュンなんてやめてくれ。

 変な誤解を生みかねない。

 操作主は鏡介である、

 と言うことは…鏡介の方が早く起床したと言うことになる。

 気がつくと、そこは学校だった。

 私立紅白(もみしら)学園高等学部

 府内では意外と名が知れた進学校で、

 市外はおろか、府外から通学する人もいるそうだ。

 校則も結構緩いらしく、軽く見ただけで髪を染めている生徒が一定数いる。

 鏡介が通っているのは全日制の普通科で、特に何も目立って言うようなことはない学園生活を送っている。

 強いて言えば、武将に恋をしている、と言う点だ。

 こんなに頭のおかしいシチュは生まれてこの方見たことがない。

 鏡介は下駄箱で靴を履き替え、

 スマホを片手に教室へと行こうとした。

 そこで何やら人だかりができている。

 どうやらテストの順位表だ。

 《お!テストの順位表だ!見てみようよ!》

(やだ…見たくない、見たくない…!)

 スマホを持つ鏡介の手がガクガクと震えていた。

 《なんでなよー!あんなに手応えあったし、お前の勉強の成果だろー?お前ががんばったから、僕はあんなにスラスラ解けたんだ!いいじゃん!見ようよー!》

(いやだっての!見たくない!見たら死ぬ!殺される!)

 B級ホラー映画のキャッチコピーか…というツッコミは胸の奥にしまい込んだ。

 見たくない、と必死に目を逸らす鏡介を片目に、

 自分だけでも、と順位表に目を通した。

 《え〜っと…え!すげえじゃん!一位だよ!鏡介!学年一位だってさ!》

 その言葉を聞いた途端、鏡介は顔面蒼白になり、

 その場に崩れ落ちた。

「終わった…終わった、終わったああ!」

 何がそんなに終わったのか、嫌味だろうか?

 いや、そんな声のトーンではない、あれは本当に絶望している声である。

 (にっ…逃げよう、今はただ、逃げよう…!走ろう、)

 震えた小動物の悲鳴のような声で鏡介は言う。

 《え、写真撮らなくていいのか?》

 (そんな暇ねえだろ…!殺される!)

 全身から汗を吹き出しているのが『眠れる人格』側である僕でさえ鮮明にわかる…

 でもなぜだ?


 理由はすぐわかった、

「いた」

 ズンっっっっ…!

 皮を裂き、骨を割る痛い程の圧が吾妻鏡介に降りかかる。

 後ろを振り向く

 …できない、怖すぎる…

 振り返ったら殺される自信がある…

「聞いてんだよ」

 恐怖心に苛まれ、圧の主の声を聞き取れていなかったらしい。

 主は鏡介の前方へと回り込んだ。

 女子だ、

 テスト中、ずっと僕のことを睨んでいたかわいい女子だ。

「何?これ、当てつけ?」

 女子独特の柔らかな声色、オルゴールを想起させる繊細さでは隠しきれない、

 鬼の様な恨みが声に混じり届いた。

「ち…ちがっ、聞いてくれ!」

 鏡介が震え声で弁明しようとした…

「違う?何、じゃあまぐれってこと?」

 ああ、ここで舌を噛み切って死んでしまえばどんなに楽だろう…

 今はただ、恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい…

 鏡介の方を見る

 …………

 、嘘だろ…

 おいこいつ赤面してるぞ

 確かに、恐怖はしている…だがしかしうっすらと出ている頬の赤らみが隠しきれていない…

 こいつ、ドMか?!

 今はただ、2人が恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい…

「ちょっ…聞いてくれ!源さん!源義経!」

 え?

 源義経…?

 今、なんて言った?

 独り言か?いや、こんな状況である、ありえない…

 それも誰かに語りかけるようであった。

「何?アンタのこと聞く耳あると思う?」

 源義経……

 柑橘系を彷彿とさせる暖色系の髪、

 澄んだような翠色の瞳

 吾妻鏡介は恋していたのだ、

 このマドンナ的立ち位置にいるであろう…源義経に…

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