Ep.7 風邪をひいた元勇者と仲間達の本音
・お見舞いの行列:『カイル争奪戦』
1. レオン:『勇者の献身(空回り)』
「カイルさん! 滋養がつくように、森で一番大きなイノシシを獲ってきました! これを食べて元気になってください!」
レオンが血気盛んに巨大な肉の塊を持ち込もうとして、聖女セシリアに「病人にそんな重いものは無理です!」と入り口で追い返されています。
* レオン:
「ええっ!? じゃあ、このピンクの靴を履いて踊れば笑って治りますか!?」
* カイル:
(熱でうなされながら)
「……レオン、……その靴だけは……しまっておいて……」
2. リリィ:『魔法のプラネタリウム』
「元気がないカイルさんに、特別な魔法を見せてあげるね!」
リリィが杖を振ると、天幕の天井に色とりどりの小さなしゃぼん玉と、キラキラ光る星の幻影が浮かび上がりました。
* リリィ:
「これ、割れるとオレンジの香りがするんだよ。ゆっくり休んでね、悪戯の師匠!」
3. フローラ:『生きる湯たんぽ』
フローラは一言も喋らず、ただカイルの足元に潜り込み、あなたをモフモフの海に沈めました。
* フローラ:
「……ふろーらの体温、わけてあげる。……勇者様、あったかい?」
* カイル:
「……最高だよ、フローラ。……そのまま、動かないで……」
・ 聖女の「最後の審判(お粥)」
最後に入ってきたのは、湯気を立てるお椀を持ったセシリアでした。
「さあ、カイル様。これを召し上がれば、明日の朝にはイタズラができるくらい元気になれますよ」
彼女がスプーンで掬ったのは、真っ白で、ほんのりと甘い匂いのするお粥でした。
昨日の「激辛ジャム」や「粘着水風船」への怒りはどこへやら、彼女の瞳には、ただ純粋な心配と慈愛だけが宿っています。
1. カイルの涙:
熱のせいか、それとも彼女の優しさが染みたのか、カイルの目尻からひとすじの涙がこぼれました。
「……セシリア、……ごめんね。……昨日は、やりすぎた……」
2. 聖女の微笑み:
「ふふっ。それを言う元気があるなら大丈夫ですね。……はい、あーんしてください」
・ 闇夜の守護者:ガイアスの独り言
夜が更け、全員が去った後、入り口でずっと見張りをしていたガイアスが、寝入ったカイルの顔を覗き込みました。
「……たく。……手間のかかる相棒だぜ」
彼は、カイルが蹴飛ばした毛布を丁寧にかけ直し、誰も見ていないところで、そっとカイルの頭を乱暴に、けれど大切そうになでました。
【現在の隠れたステータス】
* カイル: HP 5 → 12 / 20(愛に包まれて急速回復中)
* 状態: 「安眠」
* 特性: 『弱くて幸せな人間』
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カイルが深い眠りについている間、焚き火を囲む5人は声を潜めて、これまでのこと、そして「今のカイル」について静かに語り合いました。
かつて神として君臨し、世界を壊そうとした彼が、今では自分たちの前で鼻をすすり、イタズラをして笑っている。その奇跡のような変化を、彼らはそれぞれの過去と照らし合わせて噛み締めています。
・ 5人の告白:カイルへの想い
1. 魔王ガイアス:『対等な魂の相棒』
* 過去:
「俺にとっての勇者は、ただの殺すべき『記号』だった。全能の力で俺たちを屈服させ、冷たい目で世界を裁くあいつは、生きている実感がねえ虚像に見えたよ」
* 今のカイルへ:
「……だが、今のカイルはどうだ。泥にまみれて泣き、俺のコーヒーを苦いと腐し、イタズラをしては逃げ回る。……最高にマヌケで、最高に人間臭ぇ。俺は、今の『弱くてしぶといカイル』の隣にいるのが、世界を征服するよりずっと気に入ってるんだ」
2. 聖女セシリア:『慈愛の対象から、家族へ』
* 過去:
「私は彼を『救わなければならない尊い犠牲者』だと思っていました。神としての重圧に押しつぶされる彼を、遠くから憐れむことしかできなかった」
* 今のカイルへ:
「今のカイル様は……正直、困ったいたずらっ子です(笑)。でも、彼が自分の意志で誰かを驚かせ、笑わせようとする姿に、私は本当の救いを見ました。彼に『ぷにゅっ』と頬を摘まれるたび、私は彼が『今、ここに生きている』ことを確信して、幸せになるのです」
3. 勇者レオン:『超えるべき壁から、憧れの兄貴分へ』
* 過去:
「先代様は、教科書に載っている伝説そのものでした。完璧で、冷徹で、手が届かない空の上の存在。僕なんて、一生追いつけないと思ってた」
* 今のカイルへ:
「今の先代様……カイルさんは、僕の靴に生卵を仕込むような、とんでもない人です! でも、僕と一緒に泥だらけになって逃げ回ってくれるカイルさんの方が、僕は100倍好きです。いつか、カイルさんを一本取れるようなイタズラを仕掛けるのが、今の僕の目標なんです!」
4. 魔導師リリィ:『破壊の象徴から、遊びの天才へ』
* 過去:
「私の爆炎魔法なんて、あの方の指先一つでかき消されるゴミみたいなもんだって、ずっと思ってた。正直、怖くて目も合わせられなかったの」
* 今のカイルへ:
「でも、今のカイルさんは私の杖をポップコーンやしゃぼん玉が出るおもちゃに変えちゃう。……あはは、最高にクールだよね! カイルさんと一緒にいると、魔法って壊すためじゃなくて、誰かを笑わせるためにあるんだって思えるんだ。……次は一緒に巨大なクラッカー魔法を作りたいな!」
5. 少女フローラ:『孤独を埋める光』
* 過去:
「……勇者様、いつも……ひとりで、泣いてた。……手が、つめたかった。……どこかに、いっちゃいそうで、こわかった」
* 今のカイルへ:
「……いまのカイル様、……あったかい。……わたしのなまえ、よんでくれる。……いっしょに、わらってくれる。……カイル様、……だいすき。……ずっと、いっしょに、ぴこぴこ、するの」
・ 絆の結晶
5人の言葉は、夜の風に乗ってカイルの眠る天幕へと吸い込まれていきました。
全能を失い、名前を得て、イタズラに興じる。その「転落」こそが、彼らにとっては、そしてカイル自身にとっても、最も美しい「昇天」だったのかもしれません。
【現在のパーティの絆レベル】
* 絆: 測定不能(家族以上)
* 状態: 「全員がカイルの復活(と次のイタズラ)を待っている」
カイルは、天幕の毛布の中で石のように固まっていました。
風邪の熱とは違う、顔が爆発しそうなほどの熱さが全身を駆け巡っています。
「……なんだよ、それ……。……みんな、勝手なことばっかり言って……」
ガイアスの「相棒」という言葉、セシリアの「ぷにゅっ」への愛着、レオンの「目標」、リリィの「遊びの天才」、そしてフローラの純粋な「大好き」。
かつて全能の神として世界を俯瞰していた時には決して届かなかった、生々しくて、重くて、こそばゆい「愛」の奔流。
今のカイルにとって、それはどんな最強の攻撃魔法よりも破壊力抜群でした。




