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Ep.73 遠い記憶の既視感

・ 運命の出航


「野郎ども、錨を上げろ! 極東へ向けて、全速前進だ!!」


船長バルトの号令と共に、海竜丸は白い飛沫を上げて港を出ました。

水平線の向こう、ピンク色の花びらが舞うという国を目指して。



「よし、まずは足場に慣れよう!レオン、ガイアス、海から来る奴らを迎え撃つよ!」


カイルの号令と共に、一行は波に揺れる『海竜丸』の甲板へ。

港を出て数時間、潮の流れが速くなったところで、船を「巨大な獲物」と勘違いしたシーサーペントの群れが水しぶきを上げて現れました!


「ギシャアアアアッ!」

「先代様、足場が悪ければ空中を斬ればいいだけです!『旋風・十文字斬り』!」


レオンが揺れるマストを蹴り、空中でシーサーペントを細切れにしていきます。


「カイル、俺の傍を離れるな。……海に落ちたら洒落にならねぇからな」


ガイアスは揺れる甲板にどっしりと足を固定し、船べりに這い上がろうとする海魔の頭を次々と拳で粉砕していきます。


「揺れなんて関係ない……むしろ、この動きを利用させてもらうよ!」


カイルは木剣を正眼に構え、思考を「船の揺れと重心の計算」に注ぎ込みます。

巨大なシーサーペントの一体が、鎌首をもたげてカイルに襲いかかりました。

「カイル!?」とガイアスが手を伸ばそうとしますが、カイルはそれを手で制します。


船が大きく左に傾いた瞬間──。


カイルは重力に抗わず、むしろ波の勢いに乗るように滑らかに踏み込みました。突っ込んできたシーサーペントの牙を、紙一重の転身で回避。そのまま、敵の勢いと船の傾斜を利用して、木剣を支点に相手の巨体を翻しました。


ドォォォン!!


「ギシャッ……!?」


自分の突進速度をそのまま返されたシーサーペントは、勢いよく甲板を滑り、そのまま反対側の海へと真っ逆さまに投げ出されました。


「……すごい。先代様、今の『柔よく剛を制す』、まさに魔剣士の極みです!」


レオンが驚愕で目を丸くし、バルト船長も口に咥えたパイプを落としそうになります。


「ほう、あの揺れの中で重心を完璧に制御してやがった……。カイル、お前、いつの間にそんな技を身につけやがったんだ」


ガイアスが感心したように、それでいて危なっかしいものを見るような目でカイルの肩を掴みます。


「ふふん、今のカイルの流麗な動き、バッチリ録画したわよ!極東に着く前の『海上修行編』として最高の素材ね!」


リリィが興奮気味に録画石を向け、フローラも「勇者様、ひらひら……かっこいい!」と、カイルの真似をして甲板でひらりと舞っています。



【戦闘終了:船上戦闘に習熟した!】

カイルのレベル: 37 → 38(急成長中!)

新特性: 『海神の平衡感覚(揺れる足場での命中率アップ)』


戦闘が一段落し、船は静かな海域へと入りました。

遠くには、伝説の難所『霧の海』の白いカーテンが見え始めています。




「よし、ここからは視界が効かなくなる。リリィ、魔法のロープを!全員、お互いを見失わないように体を繋ごう」


カイルの軍師としての的確な指示に、一行は緊張感を持って応じます。

リリィが編み上げた、淡く光る魔力のロープが全員の腰を繋ぎました。


「これで安心ね。カイル、私が後ろからしっかり引っ張っておいてあげるから、勝手にどこかへ行っちゃダメよ?」

「先代様、もし霧の中で何かに襲われても、このロープを辿って即座に駆けつけます!」


レオンが頼もしく聖剣を握り直し、ガイアスはカイルのすぐ後ろで、いつでも抱え上げられるよう片手を空けて霧を睨み据えています。




・『霧の海』突入


船が真っ白な霧の中に吸い込まれると、周囲の音が急に遠のき、幻想的で不気味な静寂が辺りを支配しました。


「……おい、船長。これ、ただの霧じゃねぇな」


ガイアスが低く唸ります。

その時でした。

霧の向こう側に、ピンク色の大きな影が見え始めました。


「あ……さくら? 勇者様、さくら、あった……」


フローラがぽつりと呟き、霧の先を指差します。

そこには、カイルが本で見た「極東の神樹」によく似た、巨大な桜の大木が幻想的に浮かび上がっていました。


「えっ、もう着いたの!? でも、海の上に桜なんて……」


リリィが録画石を構えますが、カイルの理性が警鐘を鳴らします。


(待て、方位磁石が狂ってる。それに、この桜の香りは……甘すぎる!)


そう、これは『霧の海』が見せる強力な幻影です。


カイルは「あれは幻影だ」と頭では理解していながらも、そのあまりの美しさに、そして遠い記憶の「既視感」に、一瞬だけ思考を奪われてしまいました。

霧の向こうに咲き誇る、幻想的な巨木。その桜の下には、今のカイルとは対照的な、白銀の「神時代のカイル」が、感情のない瞳でこちらを見つめて立っていました。


「……僕?」


カイルが呆然と呟いた瞬間、桜の花びらが一気に舞い上がり、甘い香りが全員の理性を溶かしにかかります。


「カイル、そっちはダメだ……戻ってこい!」


ガイアスの声が遠く聞こえます。彼は幻影の影響を受けつつも、必死にカイルの腰の「魔法のロープ」を手繰り寄せようとしますが、霧が意志を持っているかのように二人の間に割り込みます。


「先代様……! あの時の、冷たい……。いえ、違います! 僕が守るべきは、今の、笑っている先代様だ!」


レオンが幻影の桜に斬りかかろうとしますが、剣が虚空を抜けるたびに、桜の香りが強まり、眠気を誘います。


「勇者様、惑わされてはいけません! 私の祈りを……!」


セシリアが聖杖を掲げますが、幻影の神樹はカイルの記憶にある「神の権能」を模倣しており、聖女の光さえも吸い込んでしまいます。

カイル、幻影の「神時代の自分」が、ゆっくりとカイルに手を伸ばしてきました。



『完璧な全能に戻りたくはないか?』


そんな声が脳内に直接響きます。


目の前にあるのは、かつての自分が持っていた「完璧で、孤独な全能」。

背後にあるのは、騒がしくて、不器用で、けれど温かい「泥まみれの愛」。


カイルの視界は交互に揺れ、霧の甘い香りが思考を麻痺させていきます。

伸ばされた「神の自分」の手は白く、美しく、一点の汚れもありません。一方で、後ろからカイルを繋ぎ止めているロープには、ガイアスが必死に手繰り寄せる力強い振動と、フローラが泣きながら袖を掴む感触が伝わってきます。


「カイル……行くな……! そいつは、俺たちが捨てさせたはずの『孤独』だぞ!」


ガイアスの叫びが、霧に遮られながらもカイルの心臓を叩きます。

その時、ぼんやりとした意識の中で一つの「違和感」を捉えました。

幻影の神が纏う銀の衣。その裾に、先日カイルがが夜なべして作ったはずの「マフラーの赤い糸」が一本、幻影の綻びとして紛れ込んでいたのです。


(……あはは。神様の僕なら、そんな『不純物』、許さないはずだよね)


その瞬間、カイルの心は決まりました。

は伸ばされた「神」の手に、今のカイルの、絆創膏だらけの不器用な手を重ねようとして──。


ガシッ!!


「──捕まえた。もう、この手は汚さないって決めたんだ」


あなたは神の手を掴むのではなく、その腕を支点にして、自らの体を引き寄せ、幻影の自分に「強烈な頭突き」を食らわせました!


「僕は……レベル上げも、イタズラも、みんなでする方が楽しいんだよ!!」


パリンッ──!!


鏡が割れるような音と共に、幻想的な桜の大木も、神時代の自分も、霧の中に霧散していきました。

視界がクリアになった瞬間、カイルは力尽きたように後ろへ倒れ込みます。


「わっ……と! ……たく、心臓が止まるかと思ったぜ、カイル」


受け止めたのは、もちろんガイアスでした。彼はカイルを抱きしめたまま、安堵のあまり大きく息を吐き出しました。


「先代様!! お戻りになられたんですね!」


レオンが泣きながら抱きついてき、リリィは「もう……今のシーン、怖すぎて録画ボタン押せなかったじゃない……!」と腰を抜かしています。

セシリアが優しくカイルの熱を下げ、フローラが「カイル、だいじょうぶ……?」と心配そうに顔を覗き込んでいます。


【幻影を打破した!】

カイルのレベル: 38 → 40(大きな壁を越えた!)

新スキル: 『虚飾を見抜く眼(幻影耐性・大幅アップ)』


「……野郎ども! 霧が晴れたぞ! 極東の島影が見えてきた!」


バルト船長の豪快な声が響きます。

水平線の先。夕日に照らされた、本物の、美しい島国が姿を現しました。

カイル、ついに極東の国「日ノ本」に上陸です!

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