Ep.69 プレゼントのお礼
カイル・サンタ、最後の極秘任務です。カイルは完成したばかりの温かいプレゼントを抱え、知略と隠密スキルを限界まで引き出し、静まり返った屋敷の廊下へ滑り出しました。
・ミッション:枕元への侵入
① レオンの部屋
「……むにゃ、先代様……」
幸せな夢を見ているレオンの枕元へ。音速の彼でも気づかないほどの隠密で、赤いマフラーをそっと置きました。
② リリィの部屋
寝言すら「録画中……」と呟くリリィ。常に握っている録画石のすぐ隣に、特製チャームを配置完了。
③ セシリアの部屋
聖女の清らかな寝顔に一瞬見惚れますが、深入りは禁物。祈祷台の上に、月の雫が光る銀のしおりを静かに置きました。
④ フローラの部屋
先ほど寝かしつけたばかりの彼女の腕の中へ、背中に隠していた「カイルの匂い付き抱き枕」を滑り込ませます。彼女は無意識にそれをぎゅっと抱きしめ、幸せそうに尻尾を揺らしました。
⑤ 最後の難関:ガイアスの部屋
5秒おきの生存確認センサーを持つ魔王の枕元。カイルは心臓の鼓動すら制御し、巨大な角のすぐ横に、お揃いの編み込み模様の「角カバー」を置きました。
「…………(カイル……か?)」
ガイアスが低く唸りましたが、カイルは即座に気配を霧のように消し、部屋を脱出しました!
・ 初雪の朝:広間
カイルが自室に戻り、まるで「ずっと寝ていた」かのように布団を被って数分後。
屋敷中に、驚きと歓喜の叫びが響き渡りました!
「なっ……なんだこれっ!? 俺の角に……こんなもん、誰が……」
「先代様! マフラーが! 枕元にありましたぁぁ!!」
「ちょっと、私の録画石に凄い可愛いチャームが付いてるんだけど!?」
足音がバタバタと広間に集まってきます。
「あっ、雪が積もってる!!」
カイルはプレゼントの正体を追求される前に、これ以上ないほど純粋な声を上げて広間を駆け抜けました。バタン!と勢いよく扉を開けて飛び出した先には、真っ白な銀世界が広がっています。
「あ!待って、勇者様!そんな薄着で……!」
セシリアが慌てて追いかけようとしますが、カイルは止まりません。
「先代様!僕も行きます!そのマフラー、僕とお揃いですよね!?やっぱり先代様が……!」
レオンが真っ赤なマフラーをなびかせ、雪を蹴立ててあなたの後を追います。
「ちょっとカイル!このチャームの魔力、完全にあなたの癖が出てるじゃないの!……ありがと、バカ!」
リリィは新しいチャームを付けた杖を振りかざし、さっそく「雪をキラキラさせる魔法」を放って初雪を彩ります。
「勇者様、これ……カイルのにおい。だいすき」
フローラは抱き枕をしっかり胸に抱えたまま、パタパタとカイルの隣に並び、新雪に小さな足跡をつけていきます。
そして、最後にゆっくりとテラスに出てきたのは、新しい角カバーを少し照れくさそうに、けれど誇らしげに付けたガイアスでした。
「……たく。夜なべしてこんなもん作ってやがったのか。指、絆創膏だらけじゃねぇか」
ガイアスはカイルの隣まで歩いてくると、大きな手でカイルの頭をぐしゃぐしゃに撫で回しました。角カバーの編み模様が、カイルのマフラーと同じであることを、彼は何よりも嬉しく思っているようです。
初雪が舞い散る中、カイルは「不完全な人間」として、最高の冬の朝を迎えました。
「よーし、プレゼントのお礼は雪合戦で受け取るよ! 覚悟して、ガイアス!」
カイルは足元の新雪を素早く丸めると、テラスで油断していたガイアスの角カバーめがけて第一投を放ちました!
パフッ!
「ぶおわっ!? てめぇ、カイル……やりやがったな!」
角カバーに命中した雪が飛び散り、ガイアスの顔がみるみる赤くなります。それが怒りか、それとも「真っ先に狙われた」という照れ隠しかは、言わずもがなです。
「あはは! さあ、レオン! リリィ! 『サンタさん』からの追加プレゼント(雪玉)だよ!」
「はいっ、先代様! 僕も……えいっ!」
レオンが音速で雪玉を量産し、機関銃のように四方八方へ投げ始めます。しかし、幸せで目が回っているため、明後日の方向に飛んでいきます。
「ちょっと、レオン! 私の録画石に当てないでよ! 応戦よ、カイル、覚悟しなさい!」
リリィが杖を振ると、雪玉が空中で分裂してカイルを追尾する「ホーミング・スノーボール」へと変化します!
「カイル、まけない……えい」
フローラは一生懸命作った「顔より大きい雪だるまの頭」を、カイルの足元にゴロゴロと転がして進路を妨害してきます。
「あらあら、雪の妖精さんがたくさんいますね。私も混ぜていただけますか?」
セシリアが穏やかに微笑みながら、聖杖をひと振り。空から降る雪が、なぜかすべてカイルの襟首を正確に狙って落ちてくる「聖女の精密爆撃」が開始されました。
「……たく、こうなったら手加減抜きだ。カイル、首を洗って待ってろよ!」
ガイアスが巨大な雪玉を両手で作り上げ、不敵な笑みを浮かべて突進してきます。
「レオン! ガイアスの足を止めろ! リリィ、上空からの支援を!」
「了解です、先代様! ガイアス様、動かないでくださいっ!」
カイルの鋭い指揮が飛ぶと同時に、レオンが雪原を音速で駆け抜け、ガイアスの足元を雪の旋風で封じ込めます。
「ちょっとカイル、使い走りにしてくれるじゃない!……でもいいわ、最高の一枚を撮るためよ! 『爆炎(温度低め)スノー・ストーム』!!」
リリィが空中に放った魔法が、無数の雪玉となってガイアスの頭上に降り注ぎます!
「ぐわっ!? お前ら、連携までしやがって……! ちょ、待て、前が見えねぇ!」
雪玉の雨に打たれ、身動きが取れなくなった魔王ガイアス。
今です! カイルは最後の一投を振りかぶるフリをして、魔剣士の踏み込みで一気に距離を詰め、そのまま無防備な彼の胸へとフルパワーで特攻しました!
「……捕まえた!」
「どわぁぁっ!? カイル!?」
不意を突かれたガイアスは、カイルの重みを抱き止めたまま、後ろのふかふかの新雪へと豪快にひっくり返りました。
ザシュッ……!
静まり返る銀世界の中、二人の体が深い雪に沈み込みます。
冷たいはずの雪の上で、重なり合う二人の体温だけが熱く伝わってきます。ガイアスの腕は、反射的にカイルを雪から守るようにしっかりと背中に回されていました。
「……ははっ、あはははは! 大成功だ、ガイアス!」
カイルが彼の胸の上で顔を上げて笑うと、ガイアスは髪についた雪を払いながら、呆れたように、けれどこの上なく優しげに目を細めました。
「……全く。てめぇの知性は、俺を転がすためにあるのかよ」
「カイル、ガイアス、なかよし。……フローラも!」
そこへフローラが真っ白な雪玉のように飛び込んできて、二人の隣にダイブします。
「先代様ー! ガイアス様を倒すなんて、やっぱり歴史に刻まれるべき快挙です!」
レオンが鼻を赤くして駆け寄り、リリィが「はい、今の決定的なツーショット、しっかり記録したわよ!」と満足げに録画石を構えています。
「ふふ、皆さん、雪だるまのようですね。そろそろ温かいスープを召し上がらないと、本当に凍ってしまいますよ?」
セシリアが皆を見守り微笑みかけています。
カイル、雪まみれになって笑い転げるこの瞬間。
かつて「神」として天から見ていた景色よりも、今の「雪にまみれた地面」から見上げる空の方が、ずっと高く、輝いて見えました。




