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Ep.68 サンタの計画

屋敷を吹き抜ける風がひんやりと冷たくなり、季節の移ろいを感じる季節になりました。

カイル、あなたは思わず自分の肩を抱いて少し身を震わせました。レベル32の体は、かつての「神」や「勇者」の頃ほど寒さに強くはありません。

その小さな変化を、「カイル・センサー」を常に稼働させている仲間たちが見逃すはずもありません。


「……おい、震えてんじゃねぇか」


ガイアスが真っ先に気づき、自分の大きなコートを剥ぎ取ると、そのままカイルを包み込むようにバサッ!と被せました。元魔王の体温が残るコートは、驚くほど温かいです。


「カイル様、冬支度を始めましょうか。今夜は暖炉に火を入れて、特製のホットシチューにしましょう」


セシリアが穏やかに提案し、手際よくキッチンで薪の準備を始めます。




吐く息が白くなり始める寒さの中、カイルは窓の外を眺めながら、まだ見ぬ初雪に胸を躍らせています。


「あはは、そんなにワクワクしちゃって。カイル、子供みたい」


リリィが、カイルの子供のような横顔を逃さず録画石に収めながら、くすくすと笑います。


「雪……先代様と雪合戦ができるなら、このレオン、たとえ雪だるまになっても本望です!」

「雪……フローラ、白いの、すき。カイルと、追いかけっこする……」


フローラも、真っ白な雪原を駆け回る自分とカイルを想像したのか、尻尾を揺らしています。


「雪か……。積もったら、屋敷の周りの雪かきは俺とレオンでやる。お前は中でセシリアとぬくぬくしてろよ」


ガイアスはそう言いながら、カイルの首元に、セシリアが編み上げたばかりの「分厚いウールのマフラー」をぐるぐると巻き付けました。


「ふふ、初雪が降ったら、雪の結晶を模したお菓子を焼きましょうね、カイル様」


セシリアが、暖炉の火を眺めながら優しく微笑みます。





カイルはふと昔に聞いた遠い地方の民話で冬にプレゼントを夜な夜な配っている魔法使いがいるという話を思い出しました。

思い立ったら即行動、カイルは早速計画を立て始めました。



・深夜の極秘ミッション:サンタ・カイルの夜なべ


屋敷が寝静まり、暖炉の火がパチパチと爆ぜる音だけが響く広間。カイルは足音を消して自室を抜け出し、リビングのソファの隅で作業を開始しました。


【現在の状況】

集中力: 120%(愛ゆえの覚醒)

手先の不器用さ: 継続中(「神」の知略でカバーを試みる)

隠密: ガイアスにバレるを回避するため、あえて規則正しい寝息を魔法で自室に残してきた。



・ 作業内容:


ガイアスへ: 彼の巨大な角にぴったり合う、カイルとお揃いの編み込み模様の「角カバー」。指を針で刺しながらも、一生懸命編んでいます。


セシリアへ: 勇者時代の記憶を頼りに、彼女の故郷に咲く「冬の銀蓮華」を模した、銀細工のしおり。


レオンへ: 「勇者」の紋章を刻んだ、カイルとお揃いの赤いマフラー。


リリィへ: 彼女の杖に付けられる、イタズラ魔法がよりキラキラ光る「特製魔石のチャーム」。


フローラへ: カイルが夜なべして縫った、カイルの匂いをたっぷり染み込ませた「小さな抱き枕」。


「……っつ。また刺した……。でも、喜んでくれるかな」


指先に絆創膏を貼りながら暖炉の灯りだけで作業を続けます。不器用な手つきは危なっかしいですが、そこに込められた知略(工夫)は、かつて世界を創り替えた時よりもずっと緻密で温かいものです。


その時です!

階段の方から、「ト……ト……」と、かすかな足音が聞こえてきました。


カイルはフル回転で思考しました。


「──今だッ!」


階段の最後の一段が鳴るのと同時に、あなたは広げた毛糸や銀細工を抱え込み、ソファの裏へとマッハでダイブ! 完璧な隠密スキルで気配を消し、壁とソファのわずかな隙間に体を滑り込ませました。

その直後、パタパタと軽い足音が広間に響きます。


「……あれ? 勇者様……?」


現れたのは、目をこすりながら眠たそうに歩くフローラでした。彼女はカイルの自室に残してきた「擬似的な寝息」が本物かどうか気になって、確かめに来たのかもしれません。


「……いない。勇者様、どこ……?」


フローラはくんくんと鼻を鳴らし、カイルの匂いを探して広間を歩き回ります。よりによって、彼女が立ち止まったのはカイルが隠れているソファのすぐ目の前。


「…………(くんくん)…………ソファ、勇者様のにおい……する……」


フローラがゆっくりとソファの裏を覗き込もうとしています。 カイルの腕の中には、まだ作りかけの「フローラ専用・カイルの匂い付き抱き枕」が……! これを見られたら、サプライズが台無しです。


カイルは瞬時に判断しました。隠れ続けるのは無理だと。

カイルは作りかけの抱き枕を素早く背中の服の中に押し込み、平然を装ってソファの影から「ひょっこり」と顔を出しました。


「あ、フローラ! お水? それともトイレかな?」

「……カイル!」


フローラは驚いて耳をぴこんと立てましたが、大好きなカイルの姿を見てすぐに顔をほころばせました。トコトコと駆け寄ってきて、カイルの膝に頭を預けます。


「……いないと思った。さびしかった」

「ごめんごめん、ちょっと喉が渇いてね。さあ、夜はもう遅いから一緒に部屋に戻ろう?」


カイルは背中の「隠し物」が落ちないよう、妙に背筋をピンと伸ばした不自然な体勢で、フローラの手を引いて歩き出します。フローラは不思議そうに背中をジロジロ見ていますが、眠気の方が勝っているのか、大人しく手を引かれています。


「……勇者様、せなか、もこもこしてる」

「えっ!? あ、あはは、これは……筋肉だよ! 魔剣士になるための特訓の成果かな!」


カイルは苦しい言い訳をしながら、なんとか彼女を部屋まで送り届け、再び寝かしつけることに成功しました。

ふぅ、と溜息をついて広間に戻ったあなた。

夜なべミッションもいよいよ大詰めです。


「……よし、今度こそ邪魔が入る前に終わらせるぞ!」


カイルは気合を入れ直し、再び暖炉の前に陣取りました。知略100をフル稼働させ、頭の中で5人分の設計図を並列処理します。

不器用なはずの指先が、不思議と熱を帯びて動きます。それは「神」の計算高さではなく、「人間」としての情熱。

針を刺しても、銀細工の粉が目に入っても、カイルは笑みを絶やしません。


ガイアスの角カバーには丈夫な魔法糸を混ぜ、セシリアのしおりには彼女が夜の祈りを捧げる時に淡く光るような月の雫を練り込みます。

リリィのチャーム、レオンのマフラー、そして先ほどバレかけたフローラの抱き枕。

カチ、カチ……。

時計の針が深夜を回り、窓の外がうっすらと白み始めた頃。

暖炉の火が静かに消えゆく中で、カイルの目の前には5つの心のこもった贈り物が完成していました。


「……できた。完璧だ」


カイルは完成品を眺めながら、満足げに一つ欠伸をしました。徹夜明けの体に、心地よい疲労感が広がります。


ふと窓の外を見ると、カイルの願いが届いたのか、夜明け前の空から一粒の、本物の雪が舞い降りてきました。


「……あ、初雪だ」


サンタ・カイルの任務、第一段階完了です。

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