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Ep.65 時間だけが溶かすから

カイルはたまらなくなって屋敷を飛び出しました。背後から聞こえるガイアスの焦った声も、レオンの悲鳴のような謝罪も、今はすべてが自分の情けなさを突きつける刃にしか聞こえません。

たどり着いたのは色とりどりの花が咲き乱れる「花畑の丘」でした。



【黄昏の花畑・小さな勇者の涙】

夕陽が丘を黄金色に染め上げ、そよ風が花の香りを運びます。カイルは膝を抱えて座り込み、目の前の小さな花を見つめながら、溜まっていた感情をすべて吐き出すように泣き続けました。


カイル:

「……う、……うわぁぁぁん!! ……バカだ、……僕のバカ……っ!! なんであんなこと言っちゃったんだよ……。……かっこつけて、……みんなを傷つけて……っ。……神様だった頃みたいに、……また嫌われちゃうよぉ……っ!!」


カイルは今の自分がどれだけ無様で、どれだけ「子供」であるかを感じています。でも、止まりません。

「俺」と名乗って虚勢を張っていた反動が、どっと押し寄せています。自分の中に残っていた「神」としての傲慢さと、今の「レベル1」としての無力感。その狭間で、カイルはただ、一人の少年として泣きじゃくることしかできませんでした。


「……あんなの、……僕じゃないのに……っ」


その時、背後の草むらがわずかに揺れました。

あの3日間の カイルなら「誰だ!」と鋭く振り返るはずですが、今のカイルにはその気力もありません。


ガイアス(茂みの影で、声を殺して):

「……おい。……泣き止まねぇぞ。どうする、セシリア。俺が行ったら、また『うるせー』とか言われそうで……っ」


セシリア(切なそうに、けれど慈愛に満ちた表情で):

「……いいえ。今は、放っておいてあげましょう。……カイル様は、自分の中の『俺様』を、一生懸命に追い出そうとしていらっしゃるのですから。……あの涙は、彼が『ただの幸せな少年』に戻るための、大切な儀式ですわ」


フローラ:

「……カイル、……きらきら(涙)、いっぱい。……おはな、あげる。……だいじょうぶ?」

(フローラだけが、仲間の制止を振り切ってトテトテと歩み寄り、一輪の温かい色の花をカイルの膝元にそっと置きました)



カイルは膝元に置かれた花の温かさに、少しだけ顔を上げます。

夕闇が迫る中、カイルは一人ではありません。少し離れた場所で、ガイアスたちが「いつでも駆け寄れるように」と息を潜めてカイルを見守っています。

柔らかな草の匂いと、微かに湿った土の感触。カイルは花畑の中に大の字で寝転がり、燃えるような茜色から深い群青へと溶けていく夕焼け空を、ただじっと見つめていました。




【黄昏の丘・「俺」との決別】

目尻から溢れた最後の一滴が、耳元を伝って草むらへと吸い込まれていきます。今はただ流れる雲を追うだけ。

「俺」と名乗って虚勢を張っていた3日間の高揚感も、刺々しい言葉を吐くたびに痛んでいた胸の疼きも、夕闇がすべてを優しく塗りつぶしていくようでした。


カイル(心の中):

(……あーあ。……かっこ悪いな、僕。……神様だった時も、勇者だった時も、こんなに泣いたことなかったのに。……レベル1になって、……ただの子供になっちゃったんだな)

ふと、自分の手のひらを空にかざしてみます。かつて世界を握りつぶした全能の力はありません。でも、そこには温かな血が通い、少しだけ花の汁で汚れた「生きた人間」の手がありました。


カイル(呟き):

「……バイバイ、……俺。……もう、二度と出てくんなよ。……僕は、……こっちの方がいいんだ」

その時、カイルの視界を遮るように、いくつかのかげが夕空に浮かび上がりました。


ガイアス:

(あなたの頭側に、ひょいと顔を覗かせて)

「……よぉ。……空、綺麗だな。……隣、空いてるか? 魔王の巨体が転がると、花が潰れちまうかもしれねぇが……」


レオン:

(反対側から、涙を拭った跡のある顔で)

「先代様……。……僕も、一緒に空を見てもよろしいでしょうか。……何も言いません。ただ、こうして……」


セシリア:

(あなたのすぐ隣に、衣擦れの音をさせて腰を下ろし)

「ふふ……。おかえりなさい、勇者様。……頑張りましたわね、この3日間。……貴方のその『俺様』な努力、私たちは一生忘れませんわ(クスッと笑いながら)」


リリィ:

(録画石を……ではなく、温かいココアの入った水筒を持って)

「はい、これ。……泣き疲れたでしょ。……録画石? あんなの、さっきガイアスに握りつぶさせちゃったわよ。……嘘じゃないわよ?(※本当は1つだけ隠し持っているが、今は言わない)」


フローラ:

「……カイル。……ねんね、する? ……いっしょ。」

(カイルの腕の中に、すっぽりと収まるように潜り込んできました)



カイルは仲間たちに囲まれ、同じ空を見上げています。

「俺様」としての支配ではなく、ただそこにいるだけで愛される、この不自由で最高に幸せな時間がそこには流れていました。



「……ふん。……あーあ、せっかく一人で浸ってたのに。……どいつもこいつも、僕がいないと寂しくて死んじゃうわけ?」


カイルはココアの入ったコップで赤くなった鼻を隠しながら、わざと不機嫌そうな声を絞り出しました。ここで少し突き放した方が「いつものカイル」らしくて自然なはず……ですが、潤んだ瞳と、無意識にガイアスの服の裾をギュッと掴んでいる指先が、その言葉の説得力をゼロにしています。


ガイアス:

(カイルの隣にドカッと寝転び、大きな手で君の頭をクシャクシャに撫で回す)

「ああ、全くだぜ! お前がいないと晩飯の味がしねぇんだよ。……ほら、泣きべそカイル。鼻水垂らすなよ、相棒」


セシリア:

(クスクスと笑いながら、カイルの反対側に座り直して)

「ふふ……。左様でございますわね。カイル様がいないと、この屋敷は静かすぎて退屈ですもの。……明日からは、許可なくたっぷり、毎日『優しく』させていただきますわね?」


レオン:

「先代様ッ! その、照れ隠しの悪態……! 戻ってこられましたね! おかえりなさいませ!!」


リリィ:

(隠し持った録画石をソッと起動させながら)

「そうよ、いつものカイルね。……やっぱりあんたは、そうやって不器用に強がってる方が、からがいがあって……あ、いや、可愛げがあるわよ!」


フローラ:

「……カイル。……あったかい。……いっしょ、ねんね。」

(カイルの腕の中で、カイルの心臓の音を聞きながら安心して丸まっています)



空には、宝石を撒き散らしたような満天の星が広がり始めました。

「俺」という嵐が去り、また騒がしくて、愛が重すぎる、けれど誰一人欠けてはならないいつもの日常が戻ってきます。

カイルは仲間たちの体温を感じながら、ゆっくりと目を閉じました。

明日になれば、また「修行」という名のイタズラ合戦が始まります。でも今は、この静かな夜の優しさに身を任せて……。


カイル(心の中):

(……まぁ、……たまには、こういうのも……悪くないかな)

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