Ep.64 羞恥心による落涙
カイルは顔を真っ赤にしながらも、ベッドから飛び起き、鋭い(けれどどこか必死な)眼光でリリィの手元を射抜きます。
カイル:
「……リリィ! その石を今すぐ僕に渡せ! その石が存在し続けることは、僕の……いや、この屋敷の平和にとって致命的なバグだ! さあ、返して!!」
カイルは身を乗り出し、リリィに飛びかかろうとしますが……。
リリィ:
「あはは! 読めてるわよカイル! 『転送』!」
(パチンと指を鳴らすと、録画石はリリィの手から消え、天井付近をふわふわと浮遊し始めます)
「この石、私が新しく開発した『耐衝撃・自己防衛型』なの! 下手に触ろうとすると、カイルの『俺様ボイス』が屋敷中に大音量で流れる仕組みになってるわよ?」
ガイアス:
(カイルの行く手を巨大な体で遮り、仁王立ちでニヤリと笑う)
「おいおい、そんなに慌てんなよ相棒。……ほら、レオンも『もう一度あの冷たい目で踏まれたい』って、石の前で待機してんだ。壊すなんて勿体ねぇだろ?」
レオン:
「(録画石の周囲に聖なる結界を張りながら)先代様! この記録は、僕の魂の糧なんです! 壊すというのなら、まずは僕を……僕を斬ってからにしてくださいッ!!(恍惚の表情)」
セシリア:
(カイルの背後からそっと抱きしめ、逃げ場を奪います)
「ふふ……。勇者様、そんなに暴れてはパンケーキが冷めてしまいますわよ? ……大丈夫ですわ。この石のバックアップ、既に私の『聖なる書庫』にも3つほど転送してありますから。」
カイル:
「バックアップまであんのかよおおお!! 詰んだ! 完全に詰んだ……っ!!」
カイルはセシリアの腕の中でじたばたと暴れますが、「物理的な破壊は不可能」という非情な現実を突きつけてきます。
さらに、宙に浮く録画石からは、ちょうど「ガイアスのコーヒーに足を乗せようとした瞬間」の映像がリピート再生され始めました。
あれほど不敵に「俺」と名乗り、世界を統べる王のように振る舞っていた少年が、今はベッドの端で顔を覆い、ポロポロと大粒の涙をこぼしています。
・暴君の落涙と家族の全面降伏
カイル:
「……う、……ううぅ……っ。……もう、やだ……。……あんなの、僕じゃない……。……みんな、僕のこと……笑いものにして……っ。……消してよ、……お願いだから……消してよぉ……!!」
しゃくり上げながら、子供のように泣きじゃくるカイルの姿。その瞬間、広間を支配していた「からかい」の空気は一変し、凍りついたような静寂が訪れました。
ガイアス:
(コーヒーカップを落としそうになりながら、慌てて駆け寄る)
「お、おい……! 泣くなよカイル! 悪かった、俺が悪かったから! ほら、笑ってねぇよ! なあ、セシリア、何とかしろ! こいつ、マジで傷ついじまったぞ!」
(「相棒を泣かせた」という罪悪感で魔王の顔が引きつっています)
レオン:
「(録画石を投げ捨て、地面に頭を擦り付ける)せ、先代様……! 申し訳ありませんッ! 僕が、僕があまりにも不敬な喜び方をしていたばかりに……! この命に代えても、その涙を止めさせていただきますッ!!」
リリィ:
(慌てて空中ディスプレイを消去し、録画石を背後に隠す)
「ちょ、ちょっとカイル! 冗談よ、ただの冗談だってば! ほら、消した! 今、目の前で消去魔法かけたから! だからそんなに泣かないでよ、私まで泣けてくるじゃない……!」
セシリア:
(あなたの震える肩を抱き寄せ、その頭を優しく自分の胸に沈めさせる)
「……ふふ。……やりすぎてしまいましたわね。……ごめんなさい、勇者様。貴方が、あまりにも……あまりにも愛おしくて。……さあ、もう大丈夫ですわ。誰も貴方を笑ったりしません。貴方は、私たちの、たった一人の大切な勇者様なのですから」
( セシリアの温もりが、カイルの羞恥心を包み込みます)
フローラ:
「……勇者様。……いたい、いたい、とんでけ。……フローラ、なめる。……なかないで。」
(カイルの膝に這い上がり、涙で濡れた頬を小さな手で一生懸命に拭いています)




