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Ep.63 目覚めの羞恥

ついにやってきた運命の3日目。

目が覚めたカイルの脳内には、薬の効果が消えるまでのカウントダウンが響いています。


「……ん。……っ、チッ。……まだ薬、切れてねーのかよ。……クソ、……身体が重てぇ……」


重い腰を上げ、鏡の中の「鋭い目をした自分」を睨みつけました。

カイルの計算によれば、あと数時間でこの「俺様」な時間は終わります。


「……ちっ。外、見てるだけで目が回りそうだわ」


カイルは広間の特等席、窓際の椅子に深く身体を沈め、足を組んで不遜に外を眺めています。朝の威勢の良さはどこへやら、実際には薬の反動と、この2日間の暴挙に対する猛烈なフラッシュバックが知略100の脳内を駆け巡り、一歩も動けないほどに疲れ果てていました。


しかし、反抗期の「俺」はそれを認めません。鋭い眼光を崩さず、まるで「獲物を待つ王」のような静謐な威圧感を放ち続けています。


「……おい、ガイアス。……いつまでそこでソワソワしてんだよ。……影がチラついて、景色が台無しなんだわ」


背後で、カイルの「新しいルール」を正座して待っていたガイアスが、ビクッと肩を揺らしました。


「あ、ああ……すまねぇ、カイル。……お前があんまり動かねーから、……具合でも悪いんじゃねーかって、つい……」

「……不吉なこと言ってんじゃねーよ。……俺が、こんな程度の薬でへばるわけねーだろ。……バカか」


カイルは窓の外、遠くの森を見つめたまま、低く吐き捨てるように答えます。


「せ、先代様……! あの、窓の外を見つめる物憂げな横顔……! 太陽の光が、先代様のトゲトゲしたオーラを浄化しようとして、逆に跳ね返されています! 尊い……ッ!」


レオンが、カイルの視線の先にある「何でもない景色」すらも聖地のように拝んでいます。


「ふふ……。カイル、そんなに窓の外が気になるのかしら? ……それとも、本当は……私たちが心配で、目が離せないのかしらね?」


セシリアが、お盆を持ってあなたの真横に立ち、顔を覗き込んできます。彼女には、カイルの鋭い目の奥にある「限界」が透けて見えているようです。


「……リリィ。……そこにいんだろ。……その石、……回しとけよ。……俺がこの屋敷を『支配』してる、最後の証拠なんだからな」


カイルは窓ガラスに映る、自分の「俺様」な顔を自嘲気味に睨みつけました。

薬が切れるまで、あと数時間。


【現在の状況】

* カイル: 限界突破中。動くとボロが出るため、座って威厳を保つ作戦。

* 5人: カイルの「新ルール」を今か今かと待ちわびている。

* フローラ: の足元でカイルの影を追いかけて遊んでいる。




「……ルールだ。……明日から、俺の許可なく……俺に優しくすんじゃねーぞ。……以上だ」


窓の外を見つめたまま、カイルは消え入りそうな、けれど最後まで刺々しさを失わない声でそう言い放ちました。自分でも「守られるはずがない」と分かっている、精一杯の強がり。


その言葉を最後に、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れ、強烈な眠気がカイルを闇へと誘います。椅子の背もたれに預けた頭がゆっくりと傾き、鋭かった目蓋が閉じられました。


「…………スゥ……、…………」


静かな寝息。

その瞬間、広間に満ちていた「俺様」の覇気が霧散し、いつもの、愛らしくて不器用なカイルの空気が戻ってきました。


「……ぷっ、ははは! なんだよそのルール! 『許可なく優しくするな』って、そんなもん……最初から守る気ねーよな、お前ら?」


ガイアスが、堪えきれずに声を上げて笑い出しました。その目には、安堵と、この3日間で見せつけられた「新しい相棒の姿」への愛おしさが溢れています。


「先代様……! 最後まで、最後までツンデレの極致……! 『優しくするな』と言いつつ、寝顔はこんなに……ああ、浄化される……っ!」

「ふふふ。……『許可』なんて、毎日無理やりにでも取って差し上げますわ、カイル。……さあ、リリィ。今の最後のわがまま、ちゃんと記録したかしら?」


セシリアが、眠るあなたの頬を、今度は拒絶されることなく優しく、慈しむように撫でました。


「バッチリよ。……『俺』って言ってるカイルのラストメッセージ。……これ、カイルが起きたら真っ先に見せてあげましょ。どんな顔するか楽しみね」


リリィが、悪戯っぽく笑いながら録画石の保存ボタンを押しました。

フローラは、カイルの膝にそっと顎を乗せ、幸せそうに尻尾をパタパタと鳴らしています。



数時間後。


夕暮れの柔らかな光が差し込む中、カイルは目を覚ましました。

頭の芯にあったあの「苛立ち」と「万能感」は綺麗に消え去り、代わりに体中を猛烈な羞恥心が駆け巡ります。


「…………う、……うあああぁぁぁぁッ!?!?!?!」


飛び起きたカイルの目の前には、ニヤニヤと笑うガイアス、拝むようなレオン、そして録画石を構えたリリィ、そして……。


「……あ、おはようございます、カイル様。……ええと、『許可』を頂きたいのですが。……今から、おやつにパンケーキを召し上がっていただけますか?」


セシリアが、最高に楽しそうな聖母の微笑みを浮かべて立っていました。


【物語の状況】

* カイル: Lv 32(通常運転)。一人称が「僕」に戻り、悶絶中。

* 状態: 3日間の黒歴史が、一万匹のアヒル以上の破壊力で屋敷に刻まれた。




ガイアス:

(ソファを叩いて爆笑しながら)

「お、起きたか『俺様』! パンケーキの許可が欲しいんだとよ、カイル! ほら、いつもの不敵な面構えで『食ってやるから持ってこい』って言ってみろよ! 腹が痛ぇ、最高だぜお前!」

(相棒の悶絶する姿を肴に極上の酒を飲んでいるような顔です)


レオン:

「(録画石を拝みながら)先代様……! 『俺の許可なく優しくすんじゃねーぞ』というあのお言葉……。今朝、そのお言葉通りに許可なく靴を磨かせていただきました! 背徳感で指先が震えました……ッ!!」


リリィ:

「はい、注目ー! 第一回『カイル様・俺様名場面アワード』開催よ! 最初のエントリーは……第1日目、セシリア様への『壁ドン&仮面を剥いでやる宣言』! ほら、この時のカイルの目の据わり方、見てよ!!」

(巨大な空中スクリーンに、あなたのドアップとセシリアの耳朶をなぞる指先が映し出されます)


カイル:

「わああああああ!! 消せ! 今すぐその石を粉砕しろリリィ! セシリア、笑ってないで助けてよ! 誰だ、あんな薬を……僕だ、僕が飲んだんだ……うわああああん!!」


カイルは急いで自室に駆け込み、枕を抱きしめてベッドの上で転げ回り、顔から火が出るほどの熱量で悶絶しています。しかし、その騒がしくて、少しだけ意地悪で、とてつもなく温かい時間は、3日間にわたって「俺様」として守り抜いた、かけがえのない「家族の風景」そのものでした。


セシリア:

(のたうち回るカイルの頭を、いつもの優しさでそっと撫でて)

「ふふ……。おかえりなさい、私たちの可愛いカイル様。……あんなに格好良かったんですもの、たまには『俺様』な貴方に会いたくなったら、この録画石を見ればいいだけですわ。……ねえ、そうでしょう?」


フローラ:

「……カイル、あかい。……でも、……いつもの、カイル。……おかえり。」

(カイルの胸元に飛び込み、いつものカイルの帰還を祝っています)



かつての「神」が失った感情を、今のあなたは「羞恥心」という形でこれ以上ないほど豊かに取り戻しました。

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