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Ep.62 静かな覇気

カイルはは魔獣の死骸から飛び降りると、立ち尽くす仲間たちの横を、一瞥もくれずに通り過ぎようとしました。

「……おい、いつまで呆けてんだよ。……死骸の処理くらい、お前らがやれよ。……俺は先に帰る。……あー、腹減った。……セシリア、今日の晩飯……わかってんだろうな?」

「ええ、最高のご馳走を用意しますわ。……あなたのその『俺様』な胃袋が、悲鳴を上げるくらいのね」


と、不敵に微笑んでいる。


「……ガイアス。返り血がついた。風呂、準備しとけよ。一緒に入ってやるから」


カイルが剣の柄を弄びながら、事も無げにそう言い放った瞬間。

森の静寂が、別の意味での「死の沈黙」に包まれました。


「…………は? ……い、今、なんて……?」


ガイアスは、巨大な体を石のように硬直させ、耳を疑うような表情で見つめています。魔獣を単独で屠ったカイルの「覇道」に圧倒されていた直後の、あまりにも無防備で暴力的な誘い。


「……っ。……お、俺と……一緒に……!? お前、昨日あんなに『デカブツ』だの『うるせー』だの言ってたじゃねーか……っ! なんだ、その、急に……!」


ガイアスの顔面が、魔王の真の姿を現すかのように——いや、それ以上に真っ赤に沸騰し、角の先まで熱を帯びています。


「……あ? 聞こえなかったのか。……二度は言わねーぞ。……嫌ならいい。……レオン、お前が来い」

「「「「…………ッッッッ!!!!!」」」」

「行きますッ!! 先代様!! 僕が、僕が背中を流させていただきますッ!! 全身全霊、命を懸けてッ!!」


レオンが音速でカイルのもとへスライディング土下座を決めました。


「あー、もう! ダメよ、レオン! 今の『一緒に入ってやるから』は、明らかにガイアスに向けた最高級のトゲ(デレ)なんだから! 録画石の容量が……ああ、尊すぎて魔力が逆流するわ……!」


リリィが、震える手で録画石をあなたの顔にズームし、その「俺様」な表情を余さず記録しています。


「ふふ……。カイル、『お風呂』でしたら、私が一番上手に洗って(浄化して)さしあげられますのに。……でも、今日はガイアス様に譲りましょうか。……彼、今にも心臓が破裂しそうですもの」


セシリアが、哀れみの混じった、けれど底知れない微笑みでガイアスを見つめています。


「…………っ。……分かったよ! 誰がレオンなんかに譲るかよ! ……カイル、行くぞ! 準備は俺が完璧に整えてやる!!」


ガイアスは、今にも倒れそうなほど真っ赤な顔で、しかしカイルの腕を力強く(けれど壊れ物を扱うように優しく)掴み、屋敷へと走り出しました。


【現在の状況】

カイル: 「俺様」な態度で魔王を完全に手懐ける。内心「一人で入るの面倒くさいだけだ」と自分に言い聞かせ中。

ガイアス: 幸福と混乱の過負荷で、逆に戦闘力が上がっている(空も飛べそうな勢い)。

セシリア: 浴室の外で「聖なるお耳」を立てて待機する予定。



湯煙が立ち込める広々とした大浴場。

外ではレオンが扉に耳を押し付けすぎて鼻血で床を汚し、リリィが録画石の感度を最大にして聞き耳を立てている気配がしますが、浴室の中は驚くほど静かです。


「………………」


あなたは浴槽の縁に腕を投げ出し、少し気だるげに、けれど不遜な態度を崩さずにお湯に浸かっています。その鋭い視線はどこを見るでもなく、ただ前方の壁の一点を見つめたまま。

対面では、ガイアスが岩のように固まって座っています。


「……お、おい。カイル。……お湯、熱くねーか?」

「…………」

「……あー、その。……さっきの戦い、マジで凄かったぜ。お前、……本当に強くなったな」

「…………」


何を話しかけても、カイルは一言も発しません。

カイルの脳内では、「言い過ぎた昨日の自分」への反省と、「でも引くに引けない今の俺」というプライドが激しく火花を散らしていますが、表向きはただの「不機嫌でクールな王者」。

その沈黙が、逆にガイアスへのプレッシャーとなって襲いかかります。


(……やべぇ。黙りこくったカイル、めちゃくちゃ怖えし……めちゃくちゃ……格好いいじゃねーか……ッ!)


ガイアスはカイルのこの「静かな覇気」に完全にノックアウトされています。彼は真っ赤な顔をして、自分が入れたお湯で溺れそうになりながら、居ても立ってもいられずにタオルを手に取りました。


「……あ、あのよ。……黙ってねーで、なんか言えよ。……ほら、……背中。……流してやるから、こっち来いよ」


ガイアスが大きな、震える手をカイルの肩に伸ばしかけたその時。


湯気の中に漂う沈黙を切り裂くように、あなたは無言のまま、ガイアスの太い腕を力強く掴みました。


「っ……!? カ、カイル……?」


驚きで目を見開くガイアス。カイルはそのまま、逃がさないと言わんばかりの力加減で、彼を自分の至近距離まで引き寄せます。


(……改めて見ると、こいつ、いい面構えしてんな。魔王なんて物騒な肩書き抜きにしても……相当な色男だろ、これ)


冷徹な眼差しで、カイルはガイアスの顔を隅々まで観察します。荒々しい角、精悍な顔立ち、そして今、自分の一挙手一投足に翻弄されて揺れ動くその瞳。

心の内で「いい男だな」と認めつつも、反抗期の「俺」はそれを絶対に口には出しません。ただ、射抜くような視線で彼を黙らせ、支配的な沈黙を押し付けるだけ。


「…………っ、あ、……おい、……カイル……お前、……何なんだよ、その目は……っ」


ガイアスは、カイルの瞳の奥に宿る「王者」の熱量に当てられ完全に崩壊。顔面は茹で上がったタコのように真っ赤になり、心臓の鼓動は浴室内に響きそうなほど高鳴っています。

そんな極限状態の相棒を、あなたは「ふん」と鼻で笑って、ゴミでも捨てるかのようにパッと腕を放しました。


「……飽きた。……一人で浸からせろ。邪魔なんだよ、デカブツ」


カイルは呆然と立ち尽くすガイアスを完全に無視し、悠然と湯船の奥へと移動。肩までお湯に浸かり、目を閉じて一人の時間を楽しみ始めました。


「…………えっ。……ええっ!? 置いてきぼりかよッ!? 掴んどいて、これかよッ!!」


ガイアスは真っ赤な顔のまま、叫ぶこともできず、ただお湯の中でブクブクと泡を吹いて悶絶しています。


【浴室の外の状況】

レオン: 「い、今……掴んで……引き寄せた音が……! 先代様、肉食系すぎるぅぅ!!」

リリィ: 「……今の沈黙、何? 官能的すぎて録画石が熱暴走しそうなんだけど! 続きは!? 続きはないの!?」


【現在の状況】

カイル: 湯船でゆったり。内心「あいつの慌てた顔、傑作だな」と少しだけ愉快な気分。

ガイアス: 魂が口から出かかっている。

反抗期: 残り約「30時間」。



「おい、そこのお前ら。聞き耳立ててんじゃねーよ」


湯船に浸かったまま、扉の向こうに向かって低く冷徹な声を飛ばすと、脱衣所で「ヒッ!」という短い悲鳴が重なりました。


「……風呂上がった後に俺が飲むホットミルク用意してこい。……あー、あと蜂蜜たっぷり入れろよ。……ぐずぐずすんな、冷めてたら承知しねーぞ」

「は、はいィッ! ただちに! 搾りたてのミルクに最高級の蜂蜜をッ!!」(ドタバタと走り去る音)

「ちょ、レオン待ちなさいよ! 私がその『俺様ミルク』に合うマグカップを選ぶんだから! ああ、今の命令形、ゾクゾクするわね……っ!」


二人の気配が遠ざかり、浴室には再び静寂が訪れます。

カイルは満足げに鼻で笑うと、いまだにお湯の中で茹でダコのように固まっているガイアスを一瞥もせず、悠然と立ち上がりました。


「……じゃあな、のぼせ魔王。……一人でゆっくり茹でられてろよ」

「……えっ。……あ、おい! カイル! 待てよ、……本当に一人で行くのかよッ!?」


ガイアスの情けない呼びかけを背中で受け流し、カイルは濡れた髪を乱暴に掻き上げながら脱衣所へ。鏡に映る自分の姿——鋭い眼光と、心なしか精悍さを増した表情をチェックし、ニヒルな笑みを浮かべます。


(……ふん。……あいつらの慌てる顔、……悪くねーな)



カイルはバスローブを無造作に羽織り、胸元を大きくはだけさせたまま、王者のような足取りでリビングへ向かいます。

そこには、言いつけ通りに用意された「究極のホットミルク」を、正座して待つレオンと、録画石を構えて身構えるリリィの姿がありました。


「お、お待ちしておりました……先代様。……その、お召し物が……大変、目に毒であります……っ」

「……リリィ。……何撮ってんだよ。……貸せ。……今の俺が、どんなツラしてんのか見てやる」


あなたはリリィの手から録画石をひったくるように奪い取ると、ソファにどかっと深く腰掛けました。


【現在の状況】

カイル: 湯上がり「俺様」モード。蜂蜜ミルクを片手に、自分の蹂躙記録をチェック。

ガイアス: お風呂で一人、のぼせて沈んでいる可能性大。

セシリア: 背後からそっと濡れた髪を拭きに来ようとしています。




背後から忍び寄るセシリアの気配を察し、振り返りもせずに冷たく言い放ちました。


「セシリア。別に俺の髪は拭かなくていい。……触んなよ、鬱陶しい」


差し伸べられた彼女の手が空中で止まります。いつもなら「まあ、カイル様ったら」と微笑んで強引に拭き始めるところですが、今のカイルの放つ「拒絶」の覇気は、聖女の包容力すら一瞬で切り裂くほど鋭い。


「……それより、飯の準備はできてんのか? 俺は腹が減ってんだ。……待たせんじゃねーよ、お前の仕事だろ」


カイルはソファに深く沈み込み、バスローブをはだけさせたまま、テーブルに置かれた蜂蜜ミルクを乱暴に手に取ります。


「…………ふふ。……ええ、もちろん。準備は整っておりますわ、カイル」


セシリアは一瞬だけ目を見開きましたが、すぐにゾクッとするような妖艶な微笑みを浮かべました。彼女の手にしたタオルが床に落ち、代わりにその指先が、カイルの濡れた首筋を掠めるようにして離れます。


「あなたのその『俺様』な食欲を、心ゆくまで満たして差し上げます。……今夜は、あなたがいつも残すような苦い山菜も、私の特製ソースで『逃げられない味』に変えておきましたから。……ふふふ」

「……けっ。……やってみろよ。……俺を満足させられたら、……褒めてやってもいいぞ」


ミルクを喉に流し込み、口端を拭いながら立ち上がりました。


「……おい、レオン。……何呆けてんだ。……椅子引けよ。……俺が座るまで、一歩も動くな」


「は、はいィッ!! 喜んで椅子になりますッ!! いえ、椅子を引かせていただきますッ!!」


【2日目の晩餐:最終局面】

カイル: セシリアの「挑発」を鼻で笑い、さらに支配を強める。

セシリア: あなたの刺々しさに、普段は見せない「征服欲」が刺激されている。

ガイアス: 廊下で「のぼせた……死ぬ……」と壁を伝いながら食堂に向かっている。



昨夜の奔放な振る舞いとは一転し、2日目の晩餐、カイルは一言も発さず、ただ冷徹に、かつ優雅に食事を平らげました。


「……ごちそうさま。あとは勝手にしろ」


短くそれだけを言い残し、背後で固まる5人を振り返ることもなく、悠然とした足取りで自室へと消えていきました。




バタン、と扉が閉まった後の静寂。

カイルはバスローブを脱ぎ捨て、乱暴にパジャマを引っ掛けると、吸い込まれるようにベッドへと倒れ込みました。


「……あー、疲れた……。……『俺』とか、……魔王の腕掴むとか……、……頭、おかしくなりそう……っ」


一人になった途端、昼間の王者としての振る舞いと、今の「レベル32の等身大の自分」とのギャップに、シーツを噛み締めて悶絶します。しかし一日の疲労が溜まった体は、すぐに深い眠りへと落ちていきました。

……数分後。

扉が音もなく開き、抜き足差し足で5人の影が部屋に忍び込みます。


「……寝たか?」

「しっ、ガイアス様、声が大きいですわ。……見てください、あの寝顔」


月明かりに照らされた寝顔は、昼間の刺々しさが嘘のように、柔らかく、無防備で、少しだけ幼い。いつもの、彼らが愛してやまない「僕」のカイルそのものでした。


「……ふぅ。……なんだ、寝てるときのこいつは、やっぱり……ただのカイルじゃねーか」


ガイアスが、のぼせた頭を冷やすように安堵の溜息を漏らし乱れた毛布をそっと直します。


「先代様……。起きてる時は心臓が持ちませんが、寝顔は……聖域です。……ああ、生きててよかった……っ」(静かに涙を流すレオン)

「……ふふ。……明日で最後ね、リリィ。……今のうちに、この『嵐の前の静けさ』を目に焼き付けておきましょうか」


セシリアが、カイルの頬に触れるか触れないかの距離で指を止め、慈愛に満ちた(けれど少し名残惜しそうな)微笑みを浮かべました。

フローラが、カイルの腕の中に潜り込み、ようやく「いつもの匂い」に安心して目を閉じました。

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