第99話 T. Rex 古代獣
ファンファーレが響き渡り、入場のアナウンスが流れる。
拍手と大歓声に迎えられ、アッサムと3年生の剣士が入場してきた。
アッサムめ、相変わらずニヤけた顔だ。
随分と楽しそうだが、何を企んでいる?
両選手が対峙する。
時間無制限。
審判が掲げた右手を振り下ろしながら「始め!」の宣告をすると同時に、その惨劇は起こった!
相手選手の立っていた場所には、今、首と両手を無くした者が立ったまま血を噴き流していた!
そしてその1歩先には、笑いながら血を浴びているアッサムの姿。
闘技台の床には切り落とされた頭と両腕。
静まり返る闘技場。
呆然と立ち尽くす審判。
すべての動きが止まった中で、血を流し続ける人型。
「審判!」
カインさんの声に俺も我に返った。
野郎!何てことを!
俺は、1階席のフェンスを乗り越えてグラウンドに飛び出す。
俺の後をエドとカインさん、それにブライソン会長が続く。
学生会のメンバーは客席に残ったようだ。良かった。護りながらは戦えない。
俺たちの動きで、闘技場の時が戻った。
静寂を破り、会場を埋め尽くす悲鳴と絶叫、怒号の嵐。
慌ててグランドに降りてくる衛兵たち。
審判は何をして良いかわからずオロオロするだけ。
俺は真っ先に首を斬り落とされた3年生に駆け寄り、生死を確認する。
当然だが死んでいる。これは無理だ。俺の治癒でも死亡は覆せない。
俺は死体を横たわらせて、審判に処置を頼み立ち上がる。
審判はようやく起動した。あたふたとスタッフを呼んで死体を運ぶよう指示している。
俺はアッサムの方に向かった。
カインさんたちがすでに対峙している。
「貴様、何のつもりだ」
カインさんが低い、しかし怒気のこもった声で問いかける。
「ああ?普通に決勝戦で戦っただけだろうが。相手が弱すぎておっ死んだようだがな」
「貴様!」
怒りで前に出ようとした会長を、カインさんが押し留めた。
「貴様、何者だ」
「2年5組の、確かアッサムだったっけ?」
「惚けるな」
アッサムはニヤけた笑いを崩さない。
衛兵たちがようやく辿り着き、アッサムを取り囲んだ。
「おうおう、羽虫がわらわらと集ってきたか」
アッサムがぐるりと周りを見渡す。
「俺が何者かって?そうだなぁ」
そういうと、アッサムの身体が薄いグレーのもやで包まれた。
もやが晴れて現れたのは、仮面を被った緑の髪の背の高い男だった。
また仮面か。
そして、今度の仮面はピエロ。左目の下に涙が一滴。
「何者だ」
「さあな」
「名前は?」
「さあな」
この野郎!そのニヤけヅラ、無性に腹が立つ。
俺も参戦しよう。
「お前さあ、名乗らなかったらこっちで勝手に名前つけちゃうよ」
「ああ?」
「だって呼ぶとき困るじゃん。そうだな、オッパイ仮面なんてどうだ?」
「ふざけんな!俺のどこにオッパイの要素がある!」
「何でもいいんだよ。名前なんて識別記号なんだから。よし、お前これからオッパイ仮面な!今日からお前、王都中でオッパイ仮面って呼ばれるぞ」
「テメェ!」
腹立つだろう?俺もオッパイ聖人と呼ばれて腹立ったからな。
やっとニヤけヅラを崩したぜ!
「で、オッパイ仮面!お前の目的は?」
「クッ・・・ラクリマだ」
「ラクリマ?」
「名前が知りたかったんだろうが!」
ラクリマ・・・。確かラテン語で『涙』だったか。
「何だよ、いい名前持ってるじゃないか。で、お前何が目的だ?」
「目的ねぇ、ちょっと待ってな。後で遊んでやるからよぉ」
そう言うや否や、ラクリマが消えた。転移!
俺たちの間に緊張が走るが、どこにもいない。
サーチ!
ロイヤルボックスだ!
俺がロイヤルボックスの方を見ると、カインさんたちも察して振り返る。
ロイヤルボックスで剣戟の音がする!
やはり陛下が目的か!?
すると、気配がして衛兵たちの囲いの外にラクリマが現れた。
「貴様!陛下に何をした!」
カインさんが珍しく激怒した。
「慌てんな、王様は無事だ。さすがに王様は簡単には取れんな」
「貴様ぁ!」
「まあいい。王様はついでだ。本命はこれからだからよぉ」
そのとき衛兵隊長が「かかれっ!」と叫んだ。
ラクリマに殺到する衛兵たち。まずい!
あっという間に10人以上の首が飛ばされた!
数歩前に出ていたブライソン会長にラクリマの剣が伸びる!
ヤバッ!俺は咄嗟に会長を風魔術で吹き飛ばす。
会長の右腕が宙を舞った!
俺は右腕をキャッチすると会長の元に走り、血止めの治癒だけ素早く施す。
「会長!」
「すまん、助かった。右腕だけで済んだようだ」
「これ持ってて下さい。後で俺が繋げます」
「え?」
俺は右腕を会長に押し付けて、ラクリマの元に戻る。
カインさんがラクリマの剣を押し留めていた。
周りは衛兵たちの死体がゴロゴロ転がっている。
俺はラクリマめがけて魔弾を撃ち込んだ!
ドン!
鈍い音がしてラクリマが吹き飛ぶ!
即座に俺とカインさん、そしてエドがラクリマの元に走り追撃する。
さすがのラクリマも3人がかりの攻撃は、防御するのが精一杯だ。
「チッ」という舌打ちとともにラクリマが消えた。
転移だ。
サーチですぐに場所を察知する。
50メートルほど離れた場所、闘技台の中央辺りにヤツはいた。
「クソッ、面倒なヤロウどもだな。せっかく土産を持ってきてやったのに出す暇ねえじゃねえか!」
「土産だと?」と、カインさんが問う。
「そうだよ。今日の本命だ」
「本命?」
「テメェたち、さっき土の人形で遊んでたろう。お人形遊びは卒業したらどうだ?」
「どういう意味だ?」
「こういうことだよ!」
そう言うとラクリマはどこからか取り出した大きな魔石を闘技台の中央に置き、魔力を込め始めた。
眩しい白い光が昇り立つ。
闘技台の床に魔法陣が現れた!
何をしやがった!?
何が起きる!?
数秒経過。
白い光が消えると、そこには信じられないモノが現れた。
ティラノサウルス・・・?
嘘だろう・・・。
さすがの俺も、現れたモノの異常さに言葉を失くした。
全長15、6メートル、体高10メートルくらい。
巨大なティラノサウルスが、低く唸りながらこちらを睨んでいた。
「どうだ?俺の土産は気に入ったか?古代獣だ!珍しいだろう」
ティラノサウルスの頭の上からラクリマの声がする。
「テメェたち、頑張って倒さねえと、ここの観客だけじゃなく王都中がこいつの餌になるぜ。なんせ躾ができねえからよぉ」
「・・・」
あまりの事態に誰も言葉が出ない。
「声も出ねえか。まあいいか、それじゃあ俺は腹減ったから帰るわ。テメェたち頑張れよ」
そう言うとラクリマは、ティラノサウルスの頭に一撃を入れて消えた!
馬鹿!何しやがる!
『ギャオーン!!!』
頭に一撃を受けたティラノサウルスが怒りの雄叫びをあげる!
サーチでラクリマを探ると、闘技場の外を走っている。
転移距離はそれほど長くないのか。
いや、それどころじゃない!
目の前にはティラノサウルスだ!
観客席は大パニックだ!
やばいな、避難誘導が上手くいっていない!大事故になるぞ。
しかしこっちもそれどころじゃない。
ティラノサウルスが俺たちに向かって突進して来る!
映画かよ!
俺は土魔術で落とし穴を作り、天駆で空中に退避する。
ティラノサウルスが転んだ!よし!
カインさんもエドも空中にいた。
会長が、右腕を持ったままこちらにやって来る。
「ブライソン!この場は退避しろ!」
「しかし!」
「今のお前は足手まといだ!お前を護りながら戦う余裕はない!」
「ぐっ・・・」
カインさんの厳しい言葉に会長が悔しげに俯く。
「会長!避難誘導をお願いします!このままでは大事故になります!」
「そうだ!お前のやれることをやれ!」
「ユーキ、エド先輩・・・」
「ブライソン、この場は俺たちに任せろ!観客を護ることがお前の戦いだ!」
「はい!」
カインさんの言葉に会長が強く頷き、全力で駆けて行った。
よし、これで思い切り戦える。
「さてと、カインさん、アイツ攻撃通りますかね?」
「さあな、古代獣なんて初めて見るからな。しかし、硬そうだな」
「君が落とし穴なんかに落とすからだいぶお怒りみたいだぞ」
「うるさいエド!」
「とりあえず一撃入れてみるか!ユーキ、牽制を頼む!」
空中からティラノサウルスに向かって突っ込むカインさん。
俺とエドも即座に後を追う。
俺はティラノサウルスの顔面に向けて、魔弾の機関銃を放つ!
やはり弾かれた。
ティラノサウルスが俺に向かって吼えた!
その隙に、背後に回ったカインさんとエドがティラノサウルスの背中に乗り、それぞれ首筋に一撃を入れた!
ガキィーン!
金属音が響き渡る!
空中で3人が合流する。
「どうですか?」
「思った以上に硬いな。数センチくらい斬れた程度だ」
「俺はほとんど通らなかったよ」
「そうですか。こりゃあ長期戦覚悟ですね」
「そうだな。地道にやるしかないな」
そのとき会長の声が会場に響き渡った。
「皆、落ち着け!」
その一声でパニックになっていた観客の動きが止まった。魔力のこもった声だ。
「私はこの学院の学生会長のブライソン・マクニーリーだ!」
ティラノサウルスまで突然の大音量の声にキョロキョロしている。
「突然の事態にパニックになるのはわかるが落ち着け!慌てると事故になる!今闘技場で戦っているのは次の王国の五剣!王国第二騎士団副団長カイン・シャムロック様!ランカスターとシェフィールドのスタンピードを鎮圧した英雄エドワード・プライス様!同じくスタンピードの英雄にして我が学院の最高戦力ユーキ・シェフィールド!そしてもう一人!ロードプロテクター、ランカスター侯爵の右腕!スタンピードの英雄!王国五剣の一人!フレッド・バトル様が討伐に参戦する!」
え?どういうこと?
下を見ると、選手入場口から悠然とフレッドさんが登場した!
観客がドッと湧く!
「この4人は必ず古代獣を討伐する!安心しろ!観客席には当学院の学院長が防護壁を張っている!なので危険はない!退避する者は係員の指示に従い慌てずに避難しろ!残る者は席に座って、我が国の英雄たちの戦いをたっぷりと堪能しろ!」
何言ってくれてんの会長!
あらら、逃げようとしていた観客たちが座り始めちゃったよ!
早く逃がせよ!




