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第97話 天駆

「どうしたユーキ、そんなに慌てて。何かあったか?」

「いえ、まだ何も」

「まだ?どういうことだ?」

「昨日話題になった2年の魔術師のことで」

「ああ、あいつか。運良く勝っているな。今日はなぜか剣を使っているようだが」


 会長でも騙されるのか。


「アイツは実力を隠しています」

「何だと?本当か?」

「はい、間違いありません。僕でも勝てるかどうかわかりません」

「・・・」


 会長はギョッとしたような顔で俺を見る。


「お前がそう言うのなら信じよう。それで目的は何だと思う?」


 会長はやはりトップの器だ。下の者の意見をちゃんと取り上げる度量がある。


「目的はわかりません。相手を油断させるつもりかとも思いましたが、そんな必要がないくらい強いです。なので、何か企んでいるかもしれないと思い報告に来ました」

「そうか。しかし困ったな。何もしていないのに出場を辞めさせるわけにもいかんし・・・」


 すると、そのときカインさんが部下の騎士二人を連れて現れた。


「おお、ユーキもいたか。ちょうどいい。お前たち気づいたか?」

「あの魔術師ですね?」

「そうだ。やはり気づいていたな」

「申し訳ありません、俺は気づけませんでした。今ユーキから聞かされたところです」


 会長が正直に言う。正しい態度だ。このような場合、虚偽は対策を誤る。


「カインさん、ユーキが言うには、ユーキでも勝てないかもしれないとのことですが、アイツはそれほど強いんでしょうか?」

「ユーキが勝てないかどうかはわからんが、相当強いことは確かだ。少なくとも学生レベルではない」

「やはりそうなんですね」

「ユーキはアイツがどうやって勝ったかわかったか?」

「2試合目はわかりました。1試合目は見えませんでした」

「お前は魔力が見えると言っていたな。2試合目は魔刃で槍を折ったのか?」

「そうです」

「え?あれは折れたんじゃなくて、アイツが折ったんですか?」


 会長は気づいていなかった。無理もない。とてつもない速さで動いていたから。

 カインさんはさすがだ。俺も魔力が見えなければ気づけたかどうか。


「ああ、アイツが転がりながら小さく手を振った。その先で槍が折れた」


 カインさんにはアイツの動きが見えたのか。すごいな。俺もまだまだだ。


「1試合目は俺も見えなかった。気づいたら相手の横にいた」

「僕も同じです。まるで瞬間移動したような」

「瞬間移動か…。そうだな、そんな感じだ」


 あの動きは何だろう?魔力は使ったような感じだったが、一瞬だったのでそれも定かではない。もし相対するとなれば、あれは厄介だ。


「ヤツが何の目的であんな真似をしているかはわからん。何事もなければ良いがそうも思えん。いいか、警戒を怠るな。明日は陛下が最後まで観覧される。近衛には俺から報告しておく。学院長にも言っておくが、お前たちも最大の警戒をしておいてくれ」

「わかりました」


 カインさんは騎士さんたちを連れて引き上げて行った。

 会長はすぐに学院長のところに報告に行った。

 俺も治癒班のところに戻り、観戦を続けることにした。


 アイツが何かやるとしたら明日だろう。

 警戒はするが、アイツの纏う雰囲気にまったく気負いがない。

 大きな行動を起こそうとする者に感じられる緊張がまるで見られない。

 案の定、ヤツはその後もふざけた方法で勝ち残っていった。

 相手の剣がすっぽ抜けたり、逃げ回りながら出鱈目に放った魔術が偶然当たったり。

 観客は警戒どころか、ラッキーを続けるアイツに大いに湧いている始末だ。

 このまま何もなければ良いのだが。


 その日の夜、学生会室で翌日の警備体制の確認が行われた。

 しかし、会長の進言にも関わらず、大幅な警備増強は適わなかった。

 たかだか学生一人の警戒に王国騎士団の応援は頼めないということだ。

 アッサムという学生のそもそもの評価が高くなかったことも一因だ。

 ただし、アッサムが闘技場で何らかの行動を起こした場合には、学院長や学院の先生たちが速やかに観客席に魔術防壁を張る手筈になったそうだ。学院長は、当代きっての魔術師として有名らしい。観客席の安全が担保されるなら、随分と行動が楽になる。

 国王陛下のロイヤルボックスには近衛騎士団の他、防御魔術の専門家の魔術師たちが配備されるらしい。こちらはカインさんの報告が一定の効果を発揮したようだ。


 アッサムの鎮圧が必要になった場合には、学院の衛兵と俺たち学生会が当たるらしいが、大丈夫だろうか?アッサムを過小評価し過ぎのような気がする。特に学生会は、俺と会長くらいしか役に立たないのでは?相手を学生と思わない方が良いのだけど・・・。

 カインさんは第二騎士団だけどどうするんだろう?職務的には第二騎士団は王都近郊が担当エリアなので範囲外なんだけど、いてくれるとかなり頼りになるんだけどな。

 いかんな。相手の正体や狙いがわからないせいで、かなりナーバスになっている。

 トーダにもアッサムを見てもらったが、よくわからないということだった。ただ、かなりの魔力量を持っていそうだとは言っていた。不思議なことに、俺にはヤツの魔力量が見えなかった。これも不安を掻き立てる原因になっているよな。



 一抹の不安を抱えたまま演武会最終日が幕を開けた。

 今日は午前中に3年生の演武、午後は学生会の演武、その後に闘技会の準決勝、決勝が行われる。観客席は朝一番から大いに盛り上がっている。国王陛下も今日は終日観覧し、闘技会上位者の表彰をやる予定だ。


 3年生の演武はさすがだった。

 魔術師同士の模擬戦や、チームに別れての集団模擬戦は、魔術が飛び交い中々の迫力だった。

 俺も魔術師同士の戦闘を見るのは初めてだったので、非常に興味深く観戦した。

 上位クラスでは、集団魔術という複数の学生が共同で一つの魔術を発動させるという難度の高い技を披露した。発動までに時間がかかるのが難点だが、威力は大きく、固定砲台としてなら十分に実戦で通用する魔術だ。

 観客は大規模な集団魔術に度肝を抜かれ、一瞬の静寂の後、惜しみない拍手を学生たちに送った。俺もアッサムの懸念がなければもっと純粋に楽しめたのにな。


 昼の休憩時間が終わり、俺たち学生会の演武が始まる。

 アッサムのことは気になるが、とりあえずは自分たちのことに集中しよう。


 俺たち学生会10人は武装して、グラウンドに拡がりお互いの相手と20メートルほどの距離をとって向かい合う。俺の相手は会長だ。


「これより学生会による演武を始めます。これからご覧入れるのは『天駆』という戦闘術です!」


 城内アナウンスの声に城内が歓声に包まれる。

 会長の「始め!」の声とともに、天駆を使いお互い駆け上がり、空中で斬り結ぶ!

 ガキィンという五つの音が会場に響き、全員が着地する。まず一手。

 会場がドッと湧いた。

 さあ、これからだ。

 俺たち10人は、空中を縦横無尽に駆け回りながら、あちらこちらで相手を変えて剣を交える。観客から見たら、まるで俺たちが空を飛びながら戦っているように見えただろう。

 目まぐるしく相手を変えながら行われる空中戦。しかし、これはすべて決められた動き。

 言ってみれば、地上で行うマスゲームの空中版だ。本当の実戦で連携をとれるほどの練度は、学生会にはまだない。それでも会長の意思としては、これからの魔獣との戦いにおいて有益となるであろう技術を発信したいということだ。決して遊びではない。

 会場は初めて見る空中戦闘に、興奮の坩堝だ。


 10分くらいで、様々な空中での移動戦闘を見せた後、10人が着地した。

 大喝采の中、俺はグラウンド中央に進み、ストレージからあらかじめ用意していたものを取り出した。

 高さ7、8メートル、全長15メートルほどの土魔術で製作した地龍もどきだ。

 かなり頑丈に作っている。

 会場がどよめく。

 俺たち10人は、地龍もどきを取り囲んで会長の声を待つ。

 会場が静寂に包まれた。


「かかれ!」


 会長の声と同時に俺たちはあらかじめ決められた動きに従って、地上から、空中から、一斉に地龍もどきに襲いかかった。


「魔術!3、2、1!」


 会長の指示に、攻撃班は地龍もどきから離脱。俺たち魔術班5人が空中に駆け上がり、上空から火魔術や土魔術で攻撃する。

 地龍もどきはガシガシと削られていく。

 このような連携攻撃をいくつか見せて、最後のクライマックス!

 会長がバトルアックスを手に空中に駆け上がり、地龍もどきの頭を正面から打ち砕いた!


「ウオー!」


 会場がこれまで最大の歓声に湧いた!

 ショーというなかれ。学生会のメンバーは、ゼロから1ヶ月でここまで見せることができるほどボロボロになりながら努力してきたんだ。

 これで、巨大魔獣との戦い方に一つ進歩がもたらされたと信じよう。

 鳴り止まない拍手と歓声の中、俺たちは会場に挨拶をして退場した。


「皆んな良くやった!」


 会長の言葉にメンバーたちは興奮気味でとても嬉しそうだ。

 ホント、ここまでくるのにこの1ヶ月間大変だったからね。

 ヤバッ!俺、後片付けに行かなきゃならないんだった!


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