第93話 王国第二騎士団の訓練
学生会は、野外実習が終わるとすぐに演武会の準備に入るが、その前にどうしてもやりたかったことがある。カインさんから誘われた王国第二騎士団の訓練だ。
学院での訓練相手に困っていた俺には渡りに船の話だった。
エドに聞いたら一緒に行きたいということだったので、一応手紙でカインさんにエドとブライソン会長を同行してよいか問い合わせたら、歓迎するとのことだった。
土曜日の午後、3人で王城の騎士団訓練場に赴く。
エドと会長は顔見知りだった。会長が1年生のとき、エドが3年生だったそうで、エドは学生会のメンバーとして有名人だったそうだ。珍しく会長が緊張して挨拶していたが、側から見ると会長の方が歳上にしか見えない。言うと殴られるから言わないけど。
王国には王族警護を担う近衛騎士団の他、第一から第八までの騎士団がある。
第七、第八騎士団は国境警備が担務だ。国境警備を行う領主がいないエリアは第七、第八騎士団が交代で常駐する。
他の騎士団も、警護する地域が割り振られており、第一騎士団は王都警護、第二騎士団は王都近郊の警護が任務だそうだ。
各騎士団の傘下にはそれぞれ歩兵連隊がついている。
王家全体で50万人規模の軍事力で、そのピラミッドの頂点に立つのが騎士団だ。
第二騎士団は総勢200名。
王都近郊に広大な練兵場もあるが、普段は王城内にある高校の校庭くらいの広さの訓練場で訓練を行っている。
土曜日の午後と日曜日は、自由参加の自主トレの日らしいが、今日は俺たちが来るということで、ほとんどの団員が参加しているとのことだった。なぜ?
訪問するとカインさんから熱烈歓迎を受けて、団員の皆さんに紹介された。エドは新米騎士に数人、学院時代の同期や先輩がいるようで、懐かしそうに挨拶していた。
そして、どこに行っても恒例の実力確認。
まず最初にブライソン会長が指名され、今年入団した新人騎士と対戦した。会長の1年先輩らしい。本日の模擬戦は木剣を使用する。
始め!の合図でお互い激しくぶつかり合う。まだ魔装は使っていない。
会長の武技を初めて見たが、良く訓練している。新人騎士と互角に戦っている。
激しい攻防が続く中、一旦距離をとった騎士が魔装を纏った。
おお、ちゃんと会長が魔装を纏うまで待ってあげている。訓練だからね。
魔装の攻防はさすがに騎士に一日の長があったようで、善戦虚しく、惜しいところで会長の敗北となった。それでも、現役の学院生でここまでやれるのは中々のものだとカインさんにお褒めの言葉を頂戴していた。新人騎士さんは面目が保ててホッとしていた。
会長は結構息が切れていたので交代。
次は俺が指名された。
「ユーキ君、すまないが全力でやってもらえないだろうか」
「え?」
カインさんから思わぬ言葉がかけられた。どういう意味だ?
カインさんが団員たちの方に向かって話し始める。
「これからユーキ君、エド君の両名とやってもらう。多分これからお前たちは信じられない現実を目の当たりにすることになる!そこからどうするかは後で話そう!今はとにかく全力で模擬戦に臨んでくれ!いいか!」
「おう!」
エドと顔を見合わせて頷き合う。カインさんの期待に応えるしかないな。全力でやらせてもらおう。
会長は意味がわからず首を捻っているね。まあ、見てて下さい。
一番手は新人騎士。
カインさんの指示で、新人騎士は最初から魔装を纏っている。
俺はまだいいかな。
「始め!」の合図で突進して来た相手の胴を薙ぎ払い、一撃で吹き飛ばした。
シンと静まり返る訓練場。
次はエド。同じような光景が繰り返された。
その後、俺とエドは交互に登場して、順番に対戦相手のレベルを上げていくが、二人ともここまで魔装を使わずにすべて一撃で倒している。何十人倒したかな?
途中騒ついていた訓練場は再び静まり返っていた。
俺の50人目くらいの相手から、ようやく俺の攻撃を防ぐ者が現れた。
それでも数撃で倒れる。
エドの方も似たような感じだ。
70人目くらいから俺とエドも魔装を使う。魔装を使って全力を出すと誰も追いついて来れなかった。
そして、とうとうカインさんとその左右に立つ二人の騎士の三人を残すだけとなってしまった。敗れた騎士たちは、呆然と座り込んでいた。
「どうだ、お前たち。勝てそうか?」
「いえ、これほどとは。私では良くて10秒くらいでしょうか」
「私も同じです。勝てるイメージがまったく浮かびません」
「そうか」
カインさんが俺たちの方に近づいて来た。
「二人とも見事だ。しかし、君たちまだ全力を出していないだろう。よければ二人の模擬戦を見せてくれないだろうか」
「全力でですか?」
「そうだ。君たちの全力が見たい」
「わかりました」
俺とエドはかなり距離をとって向かい合う。
「始め!」の声とともに一瞬で魔装を纏い、次の瞬間には中央でぶつかり合う!
ガキィン!という木剣とは思えない大音量の激突音が響く。
互いに弾かれた次はエアウォークを使った空中戦に移行する。
俺たちは空中を縦横無尽に駆け回りながら剣をぶつけ合う。
クソ、最初の頃は俺の方が勝ってたのに、すっかり互角になってしまった。
エドの武技の才能はすごいよね。俺の元の世界の十数年の努力はあっという間に追いつかれてしまった。
決め手のないまま続いた俺とエドの模擬戦は、10分ほど経過してところで、ぶつかった双方の木剣が砕け散って終了となった。
「くそぉ、最近エドに勝てない!」
「そろそろ俺が勝たせてもらうよ。これまでの借りがあるからね」
「返さなくていい!」
「利息つけて返すよ!」
俺たちが言い合いながら戻ると、カインさんが拍手で迎えてくれた。
「ありがとう。想像以上だ。これじゃあ俺でも危ないな」
「いえ、それはないと思います」
「へえ、お世辞かな?」
「まさか!彼我の力量の違いくらいわかります」
「君たちはランカスターで訓練してたんだよね。ランカスターではどの位の強さなんだ?」
「フレッド団長には手も足も出ません。副団長クラスだと4、5人厳しい人がいる感じでしょうか」
「フレッド・バトル卿か。やはりすさまじい強さなんだな」
俺たちは笑いながら見学していた団員たちの元に戻る。
団員たちは未だ夢を見たかのような表情のままだ。
「よし!皆んなしっかりと見たな!信じられんだろうがこれが現実だ!お前たちは王国騎士団に入団し、おそらく自分たちは誰よりも強いと信じていただろう!しかし、世間には強い者はいくらでもいる!エド君は20歳になったばかり。うちの新人と同じくらいだ。ユーキ君に至ってはまだ学院の1年生だ!強さは努力でしか手に入らん!この二人はこの歳でお前らの何倍も努力したということだ!」
カインさんがこちらを見る。
「君たちはランカスター騎士団ではどんな訓練を?」
「1対10です」
「なるほど」
カインさんが再び団員さんたちを見回す。
「聞いての通りだ。彼らにはこれからも時間があればうちの訓練に参加してもらう。そのときは、基本的に10人でかかれ!恥と思うな!これが今の彼らとの差だ!精進して差を縮めろ!一人ずつ減らしていけ!そして1対1で相手をしてもらえるまで自分を高めろ!」
「はい!」
それからは俺たちも腰を下ろして、輪になって話した。
カインさんの許可を得て、ストレージから大量の串肉を出すと一気に盛り上がり、エールが持ち込まれた。
話題の一番は、俺とエドの空中戦だ。
あれはランカスターの秘密なのかと聞かれたが、そんなことはない。元々、俺の遊びで始めたものだ。
原理として、まずマギシールドを複数出して飛び乗って見せる。
次に、足からマギシールドを出して、それに乗る。
更に、足を出しながらそこにマギシールドを出す。
これを高速で行うと、空中を自由に駆け回れる。
その前提として、メイデン師匠にやらされた魔力制御の訓練、立ったままあちこちを殴られて、そこに魔装を展開する訓練をエドと実演した。この訓練中は、周りからは何か失敗して怒られているようにしか見えないことを注意してくれと言ったら、爆笑がもらえた。
エアウォークと名付けたこの技は、巨大な魔獣と対峙することの多い辺境では不可欠の技術になりつつあり、ランカスターやシェフィールドの騎士団の訓練にも取り入れている。
これを聞き、第二騎士団でも団長と相談の上、訓練に取り入れる方向で行こうということになった。
エールと串肉のおかげで、俺たちと第二騎士団との距離は一気に縮まった。
やっぱり一緒に飲んで食えば早いね。
ブライソン会長は俺とエドの実力を知り、相当ショックを受けたようだった。
会長も辺境を護る侯爵家の嫡男だ。これまで相当の努力をしてきたらしく、自分の実力にはある程度自信があったようだ。しかし、その自信が完膚なきまでに打ち砕かれた。
今、各地で魔獣の動きがおかしいことが噂になっている。
ランカスターやシェフィールドで起きたスタンピードは、いつ他で起きても不思議ではない。
自領で問題が発生した場合、それを防ぐだけの力があるのか。
会長は、慢心していた自分が恥ずかしいと搾り出すような声で言った。
そして、自分も騎士団の訓練に参加させて欲しいとカインさんに直訴して了承をもらった。
やっぱりこの世界の貴族の意識は高いね。元の世界の意識高い系とは意味が違う。
この会長だって、老けてるけど18歳だもんな。
この日以降、俺たち三人は、暇があれば第二騎士団の自主訓練に参加させてもらうようになった。




