第92話 野外実習その5 ツンデレ現る
さて、さっきから空気になってる馬鹿王子にも一言だけ言っておくか。
「殿下。今後周囲に置く者についてはよくお考えいただければと。殿下の評判にも関わりますので」
「・・・」
まあ、あとは自分で考えてくれ。
「護衛騎士の方。殿下は体調がすぐれないご様子です。もしそうなら、先にお戻りになられた方がよろしいのでは?」
「お心遣い感謝申し上げます」
護衛騎士さんたちがサッと寄ってきて馬鹿王子を連れて行く。
馬鹿王子もここに居づらいだろうからね。
一番偉そうな騎士さんが近寄ってきた。
「ユーキ・シェフィールド殿。この度はありがとうございました。私は第二騎士団副団長を拝命しておりますカイン・シャムロックと申します」
「シャムロック様。ご丁寧にありがとうございます。ユーキ・シェフィールドと申します。どうぞ私のことはユーキと呼んで下さい。それにまだ学院生です。敬語は勘弁して下さい」
俺がニコリと笑うとカインさんも笑い返してくれる。
「そうかい。じゃあユーキ君と呼ばせてもらうよ。俺のことも名前で呼んでくれ」
「はいカインさん」
カインさんは満足そうに頷く。
「今回のことは感謝する。殿下にもいい薬になっただろう。俺たちは殿下に危険が迫らない限り学院行事には一切の手出しが禁止されていたからね。歯痒かったよ」
「そうでしょうね。お察しします」
「今回の任務は気が重かったが、君と知り合えた。思わぬ成果だ」
「もったいないお言葉です」
「殿下も昔は本当に優しい思いやりのある方だったんだ。君も見捨てないでくれると嬉しい」
「わかりました」
「ではまた。そうだ、暇があったら第二騎士団に訓練に来ないか?俺の名前を出せば通るようにしておくよ」
「それはありがたいですね。このところ訓練不足だったので」
「楽しみにしておくよ。じゃあな」
これはいい人と知り合えた。
学院では剣の練習ができないからな。
「カイン・シャムロック殿か。一度教えを乞うてみたいものだ」
おう会長!いつの間に?
「有名な人なんですか?」
「ああ、あの若さで王国騎士団で3本の指に入ると言われている」
「じゃあ一緒に訓練に行きませんか?」
「それは嬉しいな。頼めるか?」
「はい、聞いてみます」
会長でもこんな嬉しそうな顔をするんだな。
さて、トラブルも終わったし、昼食もまだだよね。
この後、会長が行事の再開を告げて昼食をとり、時間は少し短縮されるが午後の森の探索も継続することとなった。
聖女ちゃんはあの後すぐに意識を取り戻した。そして自分で回復魔術をかけたらしく、元気満々で復活していた。ちゃんと回復魔術使えるんだね。
川への転落は綺麗な魚を見つけてはしゃいだところ、足を滑らしたらしい。
めっちゃ謝っていた。
馬鹿王子と取り巻きグループ、それに護衛の冒険者がいなくなってしまったので、聖女ちゃんのグループは指導と護衛役がいなくなっていたが、シルビアちゃんが一緒にと誘ってくれて、仲良く森に出かけて行った。
俺たち学生会のメンバーは、一応周辺の安全確認を終え、テントで休憩をとっている。
「さてユーキ、あのミラジという男だが何をしたんだ?」
「おそらく闇魔術かあるいは光魔術かだと思います」
「闇魔術か光魔術?」
「はい、あのときミラジは自分の姿を幻影で見せて、本人は逃げようとしていました」
「それでお前は誰もいないところに攻撃したのか」
「はい」
「最後に消えたのも?」
「同じだと思います」
「お前には実体が見えるのか?」
「はい。体質なのか、僕は以前から魔力が見えるんです。例えば魔装を纏うと薄い緑で覆われてるように見えるし、スラッシュなんかも飛んでくるのが見えます」
するとリッキー殿下が俺の肩に腕を回してきた。
なんかめちゃ距離縮めてきたな。
「なんかユーキだけずるいね。どうやってやるの?教えてよ」
「いや、教えてと言われましても。ただ見ると見えるだけですし、訓練してできるようになったわけでもありませんし」
聞かれても困る。俺にもわからない。
会長が試していいか、と聞いてきた。
俺が了承すると会長は魔装を纏った。
「今魔装を纏われました」
今度は右手が赤く染まり始める。
「右手に火魔術」
次は左手に薄い青。
「左手に風」
そして右手に薄い緑。
「右手から魔力を使った何か」
会長が感心したようにホッと息を吐く。
「なるほどな。最後はわからないのか?」
「属性のない魔力を使ったものは、色々あります。スラッシュだったり、マギシールドだったり、魔刃だったり。なので魔力が集まっただけでは、何かやろうとしているなというくらいしか。実際に発動されればわかりますが」
「これは強いな。攻撃の予測ができるし、魔力攻撃が視認できるのも防御が圧倒的に楽だ」
その後、俺がやらされた魔術訓練に秘密があるのではという話になり、メイデン師匠にやらされた訓練を説明したが、関係ないと思うよ。役には立つけど。
「そう言えばさっきの男の名前、ミラジだったか。お前、意味を知ってるのか?」
「ええ。僕の知ってるのはミラージ、あるいはミラージュ。蜃気楼という意味です」
「それで種がバレると言ったのか」
「はい。偽名なのか自分でつけたのか。それはともかく、あいつの幻影のような魔術から思いついた名前かなと思います」
「なるほどな」
すると今度はリッキー殿下が聞いてきた。
「そう言えば君は僕の名前を聞いたとき変な顔してたよね」
「え?」
「スティングって名前」
「ああ、あのとき」
よく俺が違和感持ったことに気づいたな。
「あれはなんで?」
「失礼になりましたらお許し下さい。僕の知ってる意味だと、チクリと刺すとかいう意味の他に、騙すとか引っ掛けるといった意味があったと思います。それで、偽名にそのままの意味の言葉だったのでつい」
「へえ、参ったな。誰にも気づかれないと思ってたんだけど。正解だよ。スティングは古代語で、騙すって意味があるんだ」
ヤバいな。英語だと思ってる単語にしばしば古代語があるんだ。
「ミラジも古代語なのか?」
「多分。以前見たことがあるような気がします」
会長も殿下もこっちに突っ込まないでね。
「ユーキはよく古代語なんて知ってたな」
「たまたまです。手当たり次第読んでた本の中で偶然見たことがあったんだと思います」
「そうか。お前は学問の方も首席以上のものがありそうだな。さっきは法律も詳しそうだったな」
「法律は好きですから」
「珍しいヤツだな」
それからは、法律の好きなヤツには嫌味なヤツが多いとか、錬金術好きは変わり者だとか、学生らしい会話で盛り上がった。選択科目を取るときの要領なども教えてくれたが、遅すぎだろう。来年の参考にさせてもらいます。そして、俺たち1年生三人は、何としても金袖を維持して学生会に残るよう厳命された。どうやら俺はクラブ活動はできないらしい。元の世界でもやったことなかったから、ちょっと楽しみにしてたんだけど。
まあいいか。学生会でも楽しい先輩たちと交流できてるしな。
こうしてその後の野外実習は滞りなく進み、翌日参加学生全員が無事帰校した。
野外実習が終わってから、学生会メンバーの学内人気がかなり高まっているらしい。
学生たちを退避させ、10騎の馬でグラスボア討伐に早駆けする姿がかっこよかったとか、
王族や不良冒険者に対しても毅然とした態度で立ち向かう姿がかっこいいとか色々だ。
そんな中俺の評価はというと、どうにも微妙なのだ。
かっこいいのはかっこいい、不良冒険者を一撃で倒す姿もかっこいい、躊躇なく川に飛び込み溺れる聖女ちゃんを助けたのも素晴らしい、ただどうしてもパンイチ靴下の姿を思い出すと笑いが出てしまう、ということらしい。クラスの一人が言いにくそうに教えてくれた。
元々学生会メンバーはモテるらしいのだが、ケビンとイアンはますます人気に拍車がかかっている。一方で俺は、一部マニアの間で俺のパンイチの絵姿が出回っているとの噂があるようで、しばらく落ち込んだ。見つけたら権力振るって退学にしてやろうか。
聖女ちゃんは、どうやら俺に助けられたことを誰かに聞いたらしく、顔を赤らめて俺のところに来ると、お礼を言うのかと思いきや、「ユーちん、私ファーストキスだったんだからね!ありがたく思いなさいよ!」とだけ言って走り去って行った。
ふざけんなぁ!お前日本人なんだから人工呼吸くらい知ってんだろうが!何がファーストキスだ!
横でケビンとイアンが爆笑していた。
多分聖女ちゃんも照れ隠しだろう。
俺と違って本当の高校生。それも平和な日本の普通の女の子。
それがいきなり家族や友達と引き離されて、たった一人で異世界に連れて来られた。
そして聖女と祭り上げられ、王族や貴族の中で見たことも聞いたこともない生活。
どれほど辛かっただろう。どれほど悲しかっただろう。どれほど泣いただろう。
今彼女はそんな素振りも見せず、明るく元気な姿を見せている。
日本に帰りたいだろうな。でも、そんな様子も見せずに。
仲の良い友達もたくさんできたみたいだ。いつも友達と笑っている。
平民だけでなく、シルビアちゃんたち貴族の友達もできたようだ。
あの日以来馬鹿王子が少し大人しくなったおかげだ。
彼女がのびのびと学院生活を送っているのを見るとホッとする。
聞くところによると、魔術の腕も中々のものらしい。全属性が使える上に、覚えもよく、治癒も使える。さすが聖女様とか言われている。
この先どうなるかわからないが、この世界で彼女にちゃんとした居場所ができれば良いなと思う。俺なんかにもできたのだから。
そして俺もいつまでも彼女のことを聖女ちゃんなんて呼んでいてはいけないな。
これからはちゃんと呼ぼう。レーナちゃんと。




