第91話 野外実習その4 謎解明
「まずはっきりさせましょう。あなたは、シルビア嬢が聖女様を突き落とした瞬間を見ましたか?」
「見ていない…」
「わかりました。ではあなたが見たのは悲鳴と誰かが水に落ち音がする前ですか後ですか?」
「後だ…」
「聖女様が川に落ちる前、シルビア嬢と聖女様がどういう位置関係で立っていたか見ていますか?」
「いや見てない…」
俺は地面に線を引く。
「これが川だとします。あなたが見たときシルビア嬢たちはどこに立っていましたか?」
「そこの三人で並んで、一番右がシルビア嬢だった」
シルビアちゃんに確認したら合っていると言う。
「三人の間隔は?」
「くっついていた」
「では、あなたが見たという突き落とした後というのはどんな格好ですか?」
地面の線に沿って立たせて、再現させる。
「こう、上半身が少し前かがみになって、両手を伸ばして」
「向きは?」
「少し左向きで・・・」
お、さすがにコイツも気がついたか?
「シルビア嬢の左にはお友達がくっついていますよね。左側に向かって手を伸ばしたシルビア嬢はどうやって聖女様を突き落としたんでしょうね?」
「いや、お、俺は・・・」
「シルビア嬢、聖女様は川に落ちる前どちらにおられたんでしょうか?」
「あ、ごめんなさい。聖女様がいたなんて全然知らなくて。誰かわからなかったけど、私たちの右側で川に落ちた人がいたんで、助けようとしてお友達に止められてたんです」
まあそんなとこだろう。
「殿下、どうやら勘違いだった模様です」
馬鹿王子は鬼の形相で取り巻き君を睨む。
もういいじゃん。取り巻き君震えてるよ。
「殿下、せめて一言シルビア嬢に」
謝罪の機会を与えてやろうじゃないか。
馬鹿王子、悔しそうな顔してるけど謝りたくないのか?男らしくないな。
「俺が見たぜ!」
突然がなり声が割り込んできて、例の柄の悪いスタンリーの冒険者どもがしゃしゃり出て来た。
「俺が、その姐ちゃんが聖女様を川に突き落とすところをはっきり見たぜ!さあどうするよ小僧!」
一体何がしたいんだ、コイツら。
会長が俺の横に並んで立つ。心配してくれてんのかな?大丈夫だけど。
面倒臭いが相手してやるか。
「お前の証言とやらが役に立つと思ってるのか?」
「ああ?どういうことだ!立派な目撃者様だぞ!」
「貴族の事件で平民は直接証人になれないんだよ」
「嘘つくなぁ!」
「本当だ。平民は貴族に脅されて何とでも証言する恐れがある。だから証言に信用性がない。お前の証言を採用するためには公正なお役所の保証がいるんだよ」
「テメェ、さっきからごちゃごちゃと小賢しいことばかりぬかしやがって!」
「それよりいいのか?お前、シルビア嬢が聖女様を川に突き落としたのを見たと言ったな」
「それがどうした!」
「これだけの貴族の前言ったんだ。後で言ってないは通用せんぞ!」
「どういうことだ?」
「虚偽の申告をして無実の人間を犯罪者に仕立て上げようとする行為を誣告罪と言う!いいか、よく聞け!平民が貴族に対して誣告罪を働いたら問答無用で打ち首だ!」
「な、何だと!ちょ、ちょっと勘違いしただけだろう!」
「おい!そこにいるゴロツキどもも見たと言うのか!」
「い、いや、俺たちは何も・・・」
所詮コイツらはこの程度の連中だ。
「クソッ!昨日から俺たちの邪魔ばかりしやがって。おい、こんな小僧に舐められて引き下がれるか!獅子の咆哮の名前が泣くぞ!」
あ、ヤケクソで剣抜きやがった。マジか、つられて他の連中まで。
本物の馬鹿どもだ。しかもまた獅子の咆哮かよ。
「助けは?」
「不要です」
会長案外優しいね。
向かって来た5人のゴロツキの腹に連続して貫通しない程度に魔弾を打ち込み吹き飛ばす。
一瞬だ。女子学生も多いので血を見ないように配慮しておいた。
衛兵さんに吹き飛んだゴロツキの捕縛を依頼する。所詮この程度の連中だ。
もう一人いるな。気配を消している。伸ばした白髪が目にかかり表情が読めない痩せ型の男。
「おい、そこの!お前も仲間だろう。かかってこないのか?」
「ご冗談を。勘弁してくだせぇ。こんな馬鹿どもと心中はゴメンでさぁ」
「おい冷たいな。仲間なんだろう?お前が一番やりそうだが?」
「いやいや、とんだ見込み違いかと。アッシなんて吹けば飛ぶようなモブでやすから」
「よく言うよ」
「ちなみに坊ちゃん、お名前をを伺っても」
「お前が知る必要はない」
「さいですか」
ふうん、余裕綽々だな。調べれば簡単にわかるしね。
いや、どうせなら俺にヘイト集めた方がいいかな?
「いや待て。名前を教えておこう。俺はランカスターギルドAランク冒険者のユーキだ。来るんなら冒険者として来い!お前たちが全滅するまで相手してやる!」
「俺はブライソン・マクニーリーだ。やるんならマクニーリー侯爵家も相手になるぞ」
あら?会長さん、何やってんの?せっかくヘイト集めようとしたのに。
「ランカスター侯爵家もお相手します!」
「ファウラー侯爵家も相手になるよ」
ありゃ、シルビアちゃんにリッキー殿下まで出て来ちゃった!どうすんだよこれ。
「ちょ、ホント勘弁して下さいよ。何も争うなんて言ってやせんから。怖い人たちだなぁ。辺境の武闘派貴族様勢揃いじゃないっすか。国でも相手になりやせんって。ちょいと様子見に来ただけだってのに・・・。そいじゃ、アッシはお邪魔でしょうから失礼してよろしいでしょうか」
コイツ名乗らずに帰るつもりか。
「待て、こちらも名乗ったんだ。名前くらい置いていけ」と会長が逃さない。
その瞬間、相手の様子に変化が生じた。
コイツの魔素が揺らいで分離して行く。何だこれは?
「へい、アッシはスタンリーギルド所属の獅子の咆哮ってぇしがねぇクランに仮住まいしておりやす、ミラジというケチな野郎で。お見知りおきをと言いてぇところだが、できれば忘れていただけるとありがてぇんだが」
ミラジ。ミラージ、蜃気楼か。
ドン!
俺は男の左5メートルの地面に魔弾を撃ち込んだ。
「おい、何の冗談だ。死にたいなら次は頭に当ててやるぞ」
多分闇魔術かな?それとも光魔術か?幻影だけ残して本体は逃げようとしやがった。
お、幻影のところに戻って来た。魔素が一体化する。
ミラジと名乗った男ががくりと膝をつき、脂汗を流している。さっきまでの余裕の態度はなくなっていた。
「おい、ミラジ。さっきのは何のマネだ?」
「申し訳ありやせん」
ミラジが平伏する。
さてどうしよう。別にこんなヤツどうでもいいんだよね。でも土下座させてるしなぁ。
流れ的になんかカッコいいこと言う場面だよなぁ。
失敗した。そのまま帰しとけば良かったよ。ああもう。
「次に俺の前でふざけた真似をしたら殺す」
「へい、承知しておりやす」
いや、承知しなくていいから。
口だけで、殺したりしないからね。
「それと、自分の種がバレるような名前はつけないことだな」
「ミラジの意味をご存知で?」
え?皆んな知らないの?あれ?
「多分古代語じゃないかな?」とリッキー殿下。
なんか収まりがつかなくなってきた。こういうときは強引に終わらせよう。
「会長、コイツもう解放していいですか?」
「ああ、胡散臭いヤツだが黒幕というわけでもなさそうだ。さっさと消えろ。さっきの事情は説明してくれるんだろうな?」
「はい、後ほど。おい、帰っていいってよ」
ミラジは恐る恐る立ち上がりながら、こちらに向かって頭を下げる。
「ありがとうごぜぇやす。ユーキ様には日を改めてご挨拶に伺わせていただきやす」
「もう来んな」
あ、一瞬で消えやがった。おう、見えない実態がヒョコヒョコ走ってる。
なんかちょっと笑える。
皆んなはミラジが突然消えたんでびっくりしているな。




