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ハルノオト〜聖女召喚の欠陥品ー俺は男だ!〜  作者: 島村都心
第二部【王立ロマリア学院1年】
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第89話 野外実習その2 グラスボア討伐

 俺たち学生会は、3人1組で騎乗して草原を巡回する。

 俺はリッキー殿下ともう一人の2年生と組むことになった。


「改めて紹介しておくよ。彼は、ベン・ワトソン。ファウラー侯爵家の騎士団長を代々務めるワトソン子爵家の三男で、僕の乳母兄弟だ。今も王宮で僕の側仕えをやってくれている」

「ベンだ。これからよろしく頼む」


 身長は180センチくらいで筋肉質。相当鍛えているのが窺える。

 明るいブラウンの髪で、男らしい顔立ちだが、にっこり笑う顔は親しみやすい。

 子爵家で金袖か。エドと同じだね。


「改めましてユーキ・シェフィールドです。元々平民の養子の身です。リッキー殿下に失礼があるかもしれませんがご容赦ください」


 プッと吹き出すベン先輩。


「コイツに失礼なんて気にするな。俺はコイツが失礼なことをしないかの方が心配だ」

「失敬だなお前は。僕がいつ失礼なことをした」

「ユーキ、気をつけろ。今は猫かぶってるが、慣れたら付き合うの大変だぞ。女癖は悪いし、悪所で遊び回るし。お前モテそうだから付き合わされるぞ。イアンも犠牲者だ」

「てめぇ、不敬罪で首はねるぞ!」


 ワハハと笑うベン先輩。

 なるほど、そんな感じなのね。こりゃ気が楽だ。


「ユーキ君、ごめんね。君、こういう感じ大丈夫?」

「むしろありがたいですね。僕も冒険者やってますし」

「ああそうだったね。学院の姿だけ見てると忘れてしまうよ」

「冒険者と言えば、アルフレッド殿下についている冒険者たちって、ちょっと柄が悪くないですか?」

「ああ、あれね。多分スタンリーから呼んだ連中だと思うよ。あの兄上が何も言ってないんだから、多分顔見知りかな」


 スタンリーか。本当に柄悪いヤツが多いな。


 俺たちはそれからも軽い雑談をしながら巡回していた。

 ときどき、小型のウサギの魔獣や、蛇の魔獣、イタチの魔獣などとドタバタ戦っている光景を目にした。見ていると、経験者は手を出さずに、未経験者にやらせているようだ。協調性があっていいことだ。シルビアちゃん頑張っているかな?


 (ユーキ、あっちの方からイノシシが何頭か来よるで。この子らで大丈夫か?)


 さすがトーダの探知能力。俺の全方位サーチでは、未だ1キロ範囲だ。

 トーダに言われた方にサーチを延ばすと、グラスボアが8頭こっちに向かって走って来ている。

 学生によっては対処できないかな。


「リッキー殿下。3キロ先くらいからグラスボアが8頭向かって来てます」

「リッキーじゃなくてスティングね。グラスボアが8頭か、ちょっと危ないかな。方向は?」


 俺が方向を示すとリッキー殿下は馬をそちらに向けて走らせる。

 俺とベン先輩も後を追う。走ってるとルクスと来たかったなと思ってしまう。


「ユーキ、信号弾打ってくれ!」

「了解!」


 俺は危険接近、退避の信号弾を馬を走らせながら打ち上げる。

 全力退避の赤信号ではなく、黄色信号だ。

 普段から訓練している騎士団とは違い学生の集団だ。これだけでちょっとした混乱になる。

 あ、フルプレートの学生が転けた…。


 学生の間を駆け抜けながら、「グラスボア8頭!」と叫ぶ。

 それを聞いた冒険者たちは、安心したように落ち着いて学生を誘導している。さすがだね。

 ブライソン会長や他のメンバーも合流して来た。


「あと1キロで遭遇!」と、俺が大声で報告する。


「下馬!」


 会長の指示に全員が馬から降りた。

 この中で一番戦闘に自信がないイアンに全部の馬を託して、俺たち9人は走り出す。


「なんだ?学生が残っているな」


 お、会長も探知が使えるようだ。確かに10数人の人間がいるが動きがバラバラだ。

 しばらく走ると何やら揉めているような集団が見えてきた。何やってんだ?

 あ、馬鹿王子たちだ!どうやら逃げたがっている1年生たちを冒険者たちが押し留めている。


「退避の信号弾が見えなかったのか!」


 会長が怒鳴りつけながら集団の横を駆け抜けていく。

 正しい判断だ。

 ここで立ち止まってぐだぐだ言い合いをするより、さっさと進んで討伐した方が早い。

 俺たちも会長に続いて駆け抜ける。

 チラリと後ろを見ると、唖然とした馬鹿王子と冒険者、ホッとした学生たち。

 どうせ聖女ちゃんにいいとこ見せようとか考えたんだろう。


 おっ、来た来た。砂煙を上げてグラスボアたちが向かって来る。

 会長の横に追いつき顔を見ると「右!」という指示。

 即座にグラスボアの集団の右サイドにダッシュする。

 同時に会長が左サイドにダッシュ。

 どうすればいいかわからないが、とりあえず右サイドの3頭の首をククリ刀で斬り落とす。

 左を見ると会長も3頭の首をロングソードで落としていた。

 振り返ると残りの2頭も首を落とされていた。

 誰がやったんだ?あ、リッキー殿下とベン先輩のようだ。ニコニコ顔で血振りしている。

 なるほど、こういう性格か。


「会長、持って帰りますか?」

「持って帰れば食材になるが、運べるか?」


 俺は黙ってストレージに収納する。


「ストレージ持ちか」

「はい」

「では頼む。夕飯に使おう」


 そこに馬鹿王子の集団がやって来た。


「テメェ、俺たちの獲物横取りしやがったな!」


 おう、虎の威を借る狐そのものだ。

 会長がジロリと暴言を吐いた冒険者を睨む。


「貴様は学院の護衛を依頼された冒険者か」

「そうだ!」

「だったら護衛に専念して退避しろ。討伐は危険が迫ったときだけだ。積極的に討伐に向かうのは貴様らの任務ではない」

「テメェ、言わせておけば!」

「貴様誰に向かって口をきいている!」


 会長の一喝!ビビりやがった。


「こ、こ、こっちはアルフレッド殿下の護衛だぞ!」

「貴様が王族なのか」

「・・・」

「だったら黙ってろ!」


 おろ?馬鹿王子が前に出て来た。


「ブライソン!グラスボアごとき我々で対処できた!」

「そうかもしれませんな」

「だったらなぜ手を出した!」

「戦闘ができない学生の安全のためです」

「私たちで護れる!」

「さてどうでしょうか。今の冒険者の態度を見ても、とても学生の安全に配慮するとは思えません」

「ぐっ・・・、私の護衛たちもいる!」

「あの護衛たちは殿下の護衛であって、学生の護衛ではありません」

「貴様!」

「殿下が魔獣討伐をなさりたいのであれば学生のいないときにご自由になさって下さい。本日の殿下の役割は1年生の指導と安全確保です。グラスボアの集団は本日の実習で想定しているレベルを超える魔獣です。殿下のお役目をお忘れなきよう。時間も時間だ。本日の実習は終了です」


 会長は、戻るぞと俺たちに声をかけ、イアンが引いて来た馬にさっさと乗って駆け出した。

 俺たちも素早く騎乗し後を追う。

 去り際、騎士さんたちが俺たちに軽く黙礼していた。騎士さんたちも苦労してそうだね。


 俺たちが拠点に戻ると騒ついていた学生たちが集まって来た。

 会長が、「討伐は完了した!今日はグラスボアの焼肉だ!」と宣言すると、わっと歓声が上がった。勝手に焼肉とか言ってるけど、鉄板とかあるの?


「会長、鉄板とかあるんですか?」

「持ってないのか?」

「持ってないです」

「そうか、じゃあ作ってくれ」


 あ、そうなるんですね。リッキー殿下、そこで笑いを堪えない!

 仕方ないので冒険者たちにグラスボアの解体を任せて、俺は20人くらいで囲める鉄網と、それを乗せるテーブル台を金属魔術と土魔術で、10個作って回った。テーブルはちゃんと燃料の枯木などを入れられる長方形の穴付きだ。

 学生たちは急いで燃料の枯木などを探しに行った。炭が欲しい・・・。


 1時間ほどで準備が整った。ボア肉の細切れのスープも誰かが作ってくれたようだ。

 馬鹿王子たちはしばらく前に戻って来たが、さっさと取り巻きを連れて自分たちのテントに戻ってしまった。これは拗ねて引っ込みがつかなくなり、自分で付き合いを狭めるタイプだね。まだ高校生くらいだもんな。なんとかならないもんだろうか。

 聖女ちゃんたちのグループは焼肉に参加して、みんなで楽しそうに食べていた。周りから浮いてなくて良かった。聖女ちゃん本人は良い子だもんな。


 冒険者たちはグラスボア8頭全部が一撃で首を落とされていたのを知って、すげぇと噂していた。あと俺のストレージの噂も。


 いずれにしても野外実習の初日は焼肉パーティーのおかげもあって、学生たちは楽しく過ごせたようだ。あれ、目的合ってる?


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