第88話 屋外実習その1
それからの1ヶ月は授業の合間に野外実習の準備をしながら過ごした。
授業は休んでも良いと言われたが、大した作業量ではない。
1、2年生合わせて約400人。
各クラスで6、7名の班を作り、1年生の班に2年生の班が指導に当たる。この班編成は各クラスで行う。自炊用の食料、テント、寝具、簡易トイレ、自炊道具などの野外用品および移動用の箱馬車も学院で用意してくれる。学生会がやるのはその確認だけだ。
冒険者ギルドへの依頼は例年のことなので何の問題もなくスムーズにできた。
ギルドで貴族を相手にしても大丈夫な冒険者を選んでくれるらしい。大体BかCランクあたりから探すそうだが、報酬の割に楽な仕事なので人気のある依頼だってさ。
野外実習の当日。学院から大型の箱馬車23台が列を作って進んで行く。
俺たち学生会と一部の先生は馬に乗っている。
王都の人たちは毎年の恒例行事なので、この光景にも慣れているようだ。
冒険者とは外壁の南門の外で集合することになっている。
集合場所に着くと、既に冒険者たちが集まっていた。
同行していたギルド職員の人と挨拶をして、学生と冒険者の顔合わせが行われた。
王都のギルドでは活動していないから知ってる冒険者はいないな、と思ったら声をかけられた。
「ユーキ君じゃない!」
振り返ると懐かしい顔が並んでいた。
「あ、妖精の墓場の!」
「何で殺すのよ!妖精の棲家よ!」
レクシャールのダンジョンで助けた女の子たちのパーティだった。
「皆んな、どうしてここに?ランカスターじゃないの?」
「シルビア様の護衛よ。侯爵家からの依頼」
ああ、なるほどね。信頼できる女性のパーティを寄越したのか。
ということは、他にもそういう冒険者がいるのかもね。
「ユーキさん、あのときはありがとうございました」と言ってきたのは、ダンジョンで不良に腕を切られた子だ。
「ユーキ!私たちの名前覚えてないでしょう!」と、バクニューちゃん。
えぇ、ヒドイ!なんて言われても仕方ない。あのときは宴会に突入して、訳わからなくなったじゃないか。
とうことで改めて名前を教えてもらった。
リーダーのリンさん、色っぽいローズさん、清楚なティアさん、バクニュー獣人ポーチちゃん、猫耳獣人レミィさん、俺が助けたアイドル顔のニーナさん。なんか、ポーチちゃんは、さん付けじゃないね。
とりあえず学生と冒険者の顔合わせが終わったので出発だ。妖精の棲家とは、また後でと言って別れた。ちゃんとシルビアちゃんの乗る馬車の護衛についたようだ。
「ユーキ、知り合いかい?」
「うん、ランカスターギルドの冒険者。ケビンは冒険者登録は?」
「してない。でも、登録するのもいいかもね。家では怒られると思うけど」
「冒険者登録したら怒られるの?」
「まあね。うちはほら、貴族以外を下に見てるから」
「ああ、なるほど」
ケビンとそんな話しをしながらのんびりと馬を歩かせる。
冒険者たちはそれぞれ箱馬車の護衛について歩いている。いい天気だな。
サーチをかけてみるが魔獣もいない。野外実習というよりピクニックだね。
何事もなく、2時間ほどで無事に目的地の草原に到着した。
まずは拠点設営。
モンゴルのゲルに似たタイプのテントを男女別に張っていく。
2年生が指導役のはずだがあまり役に立ってないね。
一応、学院で設営訓練はしてきているので、冒険者のアドバイスでどうにかテントを張ることができたようだ。シルビアちゃんたちのグループも楽しそうにやっていた。
馬鹿王子はゴリ押しで聖女ちゃんの指導担当になったようだが、邪魔にしかなってないぞ。
さすがに王族の野外活動ということで、護衛騎士が何人か来ているようだが、一切口を出す気はないらしい。結構強そうだね。プロって感じが好印象だが、馬鹿王子には勿体無いくらいの騎士たちだ。
聖女ちゃんと同じグループの平民の子たちは、第二王子なんて雲上人が登場してビビってる。少しは察してやれよ。
俺たちは学生会用のテントをさっさと設置して学生たちの様子の見回りだ。
学生会のメンバーは、意外なことに学業だけでなく野外行動にも慣れていた。あの、リッキー殿下、もといスティング先輩でさえ。イアンは除く。頑張れ!
テントの設営が終わると昼食の準備だ。
土魔術を使える者が竈を作り、その間に近くの森周辺から枯れ枝などを集めて来る。
皆んな初心者だから竈造り一つとっても大変だ。改めて騎士団の手際の良さがわかった。
それでも初めての体験に1年生たちは嬉しそうだ。
防護柵は作らないのかな?
ブライソン会長と指導の先生たちが話していたので聞きに行くと、例年は危険の少ない場所なので防護柵は設置していなかったが、昨年あたりからスタンピードが発生したり、森の魔獣に変化が出ているとの報告が上がっているので、どうしようかと相談していたところだった。
俺が防護柵の設置は慣れていると言うと、馬鹿王子の護衛騎士とも相談し、念のため高さ2メートルくらいの防護柵を設置しようということになった。
俺と魔術教師三人と学生会メンバーから会長含めて三人、そして護衛騎士から二人、合計九人でやることになったが、俺が最初に1回で200メートルくらいの防護柵を作って見せたら、全員が呆れて、お前一人でやれと言われてしまった。理不尽だ。まあすぐできるからいいけど。
防護柵には4箇所入り口を作り、そこは学院から同行している衛兵が見張る。
訓練メニューとしては、学生も交代で不寝番をやることになっているが、到底信頼できるものではない。貴族の子弟、ましてや王族もいるのだ。安全確保は必須だろう。
防護柵の設置が終わり、一応サーチをかけてみるが、俺のサーチ範囲には小型の弱い魔獣か動物しかいない。トーダにも念のため何か気がついたら教えてくれるよう頼んでおく。
学生会のテントに戻ると、竈の前で鍋をかき回しているスティング先輩が声をかけてきた。
「ユーキ君、お疲れ。昼ごはんできてるよ」
「ありがとうございます。これ先輩が?」
「うん、美味しいかどうかわかんないけど、ファウラー領では年中やってたからね」と、にっこり笑う。俺が女子だったら即落ちだ。
「それにしてもすごい土魔術だね」
「どうでしょうか?あれは単純に魔力量にものをいわせた力技ですから」
そこに見回りから戻ってきたケビンとイアンが会話に参加する。
「君自己紹介のとき魔術は大したことないみたいに言ってなかったっけ?」
「うん、僕もそう聞いた」
「いや、どれも似たようなもんだって言ったんだよ。実際、何が得意ってあんまりないし」
「使える属性は?」
「全部」
「全部?」
「光とか闇も?」
「まあ使えるね」
「マジか!」
やっぱり驚かれるか。この世界に来て急に才能豊かな人間になったようで少し居心地が悪い。
「うらやましいね」とケビンがつぶやく。
ケビンは魔術が使えないと言っていたな。魔力量は多そうだけど。
あまり深入りして欲しくないかもしれないけど・・・。
「魔装は使えるんだよね」
「ああ。属性に変換できないだけなんだ」
「属性を調べたことは?」
「あるよ・・・。僕もね、適性だけは多いんだ。原因もわかっている。でも、どうにもできない」
ケビンが自虐的な笑みを浮かべる。
何か事情がありそうだ。立ち入るのはやめておこう。
「ごめん。雰囲気悪くしちゃったね。割り切ったつもりだったんだけど。僕は僕でやれることを頑張るから気にしないでね」
それから皆んなで昼食を食べた。リッキー殿下の作ったスープが思いの外美味しくて驚いた。
昼食が終わると、班ごとに分かれて、防護柵の外に出て魔獣討伐実習だ。
魔獣や動物を探して討伐する。
もっとも、この草原は魔獣が少なく、いても最低ランクの小型の魔獣程度だ。怪我をすることはあっても、重傷や命の危険はない。自分の領地で魔獣討伐を経験している学生にとってはお遊びのようなものだが、未経験の学生にとっては恐ろしく感じるようだ。
今日の学生の装備は、学院で実技の授業で使う戦闘服に、自前で用意した武器、防具だ。
ほとんどの学生は使い込んだ革鎧を着ているので、実戦経験はなくても訓練はちゃんとやっていたと思われる。むしろ、平民の子たちに新品の防具が多い。平民には、子供の頃から武技を磨くなんて習慣ないしね。ところでフルプレートの鎧を着たやつが二人いるけど、動きにくくないか?よほど親が心配したのかな?自身の安全のためだから馬鹿にするようなことではないが、重くて大変そうだ。フルプレートなんて相当鍛えてないと満足に動けない。
シルビアちゃんの班はリンさんたち妖精の棲家と一緒に楽しそうに出て行った。指導の2年生たちも優しそうな人たちだったから大丈夫かな。
馬鹿王子と取り巻きたちは聖女ちゃんの班についているが、護衛騎士は2名が少し後ろからついて行っている。あと数名周囲に配置しているのだろう。それよりも、護衛の冒険者の柄が悪い!何であんな柄の悪い冒険者が第二王子の担当になっているんだ?馬鹿王子にへこへこしているが、ありえないだろう。




