第87話 学生会
さて、俺のクラブ活動の悩みだが、翌日には解決した。
朝のホームルームの時間に、1年A組の教室に制服を着たおっさんが現れた。
一瞬コスプレかとも思ったが、入学式で歓迎の挨拶をした学生会長だった。
「スペンサー先生、時間をお借りします。ケビン・スタンリー、ユーキ・シェフィールド、イアン・フィンチ。いるか?」
「はい」
「お前たち、クラブはもう入ったか?」
「いえ、まだ悩んでいます」
「そうか、喜べ。悩みは終わりだ。お前たちは学生会に決まった」
「え?」
「今日の放課後、学生会室に来い。以上だ」
「ちょ、待って下さい。それって決定ですか?」
「そうだ」
「僕たちの意思は?」
「悩んでたんだろう?」
「はい」
「だから悩みを解消してやった」
「学生会に入るなんて一言も…」
「断ろうってのか」
おう、睨まれた。
「それって脅迫ですか?」
「初めて聞く言葉だな」
ダメだ、このおっさん。
「おい、ケビン、イアン、どうする?」
「僕はいいよ」
「僕もできるなら学生会に入れって家から言われてる」
何だと、コイツら!
「よし、じゃあ放課後待ってる」
そう言うと、おっさんはさっさと教室を出て行ってしまった。
「先生・・・」
「諦めなさい。金袖が学生会に入るのは慣習みたいなものだ、1年生では珍しいが。それに、アイツ言うこと聞かんし」
法治主義はどこに行った?人権って辞書に載ってるか?
学生会はクラブの予算配分や、施設利用の許可権限など、クラブ活動に関しても大きな権限を持っている。このため学生会メンバーは、公平を期すためクラブに参加できない。
こうして俺のクラブに関する悩みはなくなった。
放課後俺たち三人は、クラブ棟というクラブ用のいわゆる部室が集まっている建物に向かった。シルビアちゃんには1年生で学生会メンバーなんてすごいです!と感激されたが、何がすごいのかわからない。考えてみると俺は書籍や資料に書かれた知識はある程度あるが、日常生活で何気なく身につく知識には疎いようだ。学生会の地位なんてものも、親兄弟や友人との会話の中で何となく知り得た知識だろう。
学生会本部は、クラブ棟の最上階、5階に所在していた。学生会メンバーには脚力が要求されるようだ。5階には会議室の他は学生会がいるだけらしい。
ノックをして学生会室に入ると、そこは豪華なリビングルームだった。
学院は貴族中心の学校なので、随所に豪華な造りが見られる。
ソファでくつろいでいる学生が5人。そのうちの一人が奥に向かって声をかける。
「会長!1年生が来たぞ!」
リビングの先にはいくつか部屋があり、一番奥の部屋から会長が現れた。
「来たか。まあ座れ」
自分も座りながら俺たちに椅子を勧める。
「俺が今年の会長をやるブライソン・マクニーリー。マクニーリー侯爵家の嫡男だ」
やっぱり南西の辺境を治める侯爵家か。嫡男ということは、次期侯爵様か。
しかし近くで見ても老けてるな。
その後自己紹介が始まる。
3年生四人に2年生が一人。
「今一人来ていないが、もう一人2年がいる。この十人が今年度の学生会メンバーだ。何か質問はあるか?」
質問しかないだろう。何も説明してないじゃん。
よし、俺が口火を切ろう。
「よろしいでしょうか」
「何だ?」
「会長は本当に学院生ですか?」
イテッ!殴られた!
「いいかユーキ、よく覚えておけ!俺は老けているんじゃない。周りの成長が遅いんだ!」
どうやら禁忌だったらしい。皆んなが必死で笑いを堪えている。
「すみません、それじゃあもう一つ。学生会は普通は3年生と2年生で構成されると聞いたんですが、なぜ1年の僕たちが?」
「2年にやれる奴がいない」
「は?」
「慣習では学生会は2年、3年の金袖が10人でやる。まあ、やらん奴もいるが。それでな、学生会は学生同士のトラブルや色々な要求を処理したりする際、ある程度権力を振るうことになる。しかし、今の2年にはちょっと面倒なな権力者がいる。誰かわかるだろう。今年の2年の金袖の一人はその権力者だ。彼が学生会で権力を振るうなど考えたくない。そして、彼を差し置いて学生会に入るなどとんでもないというのが今の2年の金袖だ」
「では今のメンバーの2年生は?」
「コイツらは問題ない」
「その権力者様を差し置いて1年で学生会に入ったら、僕らにとばっちりが来ませんか?」
「来るかもな」
「ダメじゃないですか!」
「問題ない」
「問題大有りでしょう!」
「王族に向かって威圧を放つヤツのどこに問題があるんだ?」
え?
メンバーが爆笑している。
「何で知ってるんですか?」
「見てたからな」
なんと、会長に見られていたのか。
「そこの二人も、権力者様を相手に平気な顔をしていたな。本当は仕方ないから七人でやろうかと諦めかけていたところに、ちょうどいいのが見つかったというわけだ」
「絡まれたらどうすれば?」
「好きにしろ。一応学院内ではお前の方が権力は上だ。力でねじ伏せろ」
「卒業したら?」
「向こうが上だ」
知ってるけどね。
別にこの世界で出世したいわけではない。お金が欲しければ冒険者で稼げばいい。
馬鹿王子に睨まれたからと言って、特に不都合はない。
「二人は大丈夫?」
ケビンとイアンは貴族の世界で生きていくはずだし、王族の不興を買うのはまずいのではなかろうか。
「うちは元々アチラさんとは対立してるから」とイアンが言う。
そう言えば、馬鹿王子もイアンに第一王子の腰巾着とか言ってたな。家が第一王子派なのか。
「僕は君も知っての通りの状況だから今更だよ。そもそも僕は学院に入ったら孤立して一人でやっていくと思ってたんだ。それが君たちと学生会だなんてむしろラッキーだよ」
ケビンはそんな覚悟をしていたのか。相当な目に遭ってるんだろうな。
「よし、三人とも問題ないな。では今後のことだ。まず学生会は学院行事のすべてに関与する。クラブ活動に関しても、予算配分からクラブ部屋、活動場所の調整など、ほぼすべての権限を持つ。学生間のトラブル処理や学則違反、非行、触法行為の摘発権限、職務執行時の有形力の行使も認めれている。つまり、結構な権力を持っていると言うことだ」
ブライソン会長がにやりと笑う。やっぱりおっさんだ。
「代わりに学生会メンバーに問題行動があったら一発で退学だ。つまり貴族として終わりだな。いいか、学生会の第一義は『公正』だ。学院内においては貴族や平民、爵位の序列に関係なく、すべての学院生に平等に学ぶ機会を与え、成長する環境を与える。それが学院の設立以来の理念であり、それを担保するための機関が学生会だ。まあ、本音は、将来の王国の幹部候補に経験を積ませる仕組みだと思うがね」
なるほどね。だから学生会は出世コースであり、逆に篩にかけられる場所でもあるのかな。
「学生会メンバーは、職務執行の場合、授業不参加も認められる。なので授業は気にせず仕事しろ。学生会が優先だ」
「え?それだと勉強が遅れませんか?」
「何回か授業に出ないくらいで成績が落ちるようなやつはここにはおらん。お前ら必修科目は当然飛び級してるんだろう?」
「はい。でもユーキは・・・」
ブライソン会長がジロリと俺を見る。
「まさかお前、飛び級しとらんのか?」
「いえ、全部修了しました」
「なんだと!そんなことができるのか?」
「試験時間を調整してもらいました」
「そうか、じゃあお前はたっぷり仕事できるな」
「会長、怖いのでその笑顔やめて下さい」
イテッ、また殴られた。
「お前たち、まずこれを着けろ」
渡されたのは金色の襟章。デザインは剣と杖とペンが交差している。武技と魔術と学問か。
俺たちは学生会メンバーの証である襟章を、立襟のボタンホールに装着した。
「さて、直近の行事としては6月の野外実習と、7月の演武会だ。夏休み前はこの二つだな」
野外実習は、2泊3日で王都南の草原および森に行き、貴族の子弟に実際の壁外の危険を経験させるというものだ。1年生、2年生が対象で、班毎に分かれて2年生は1年生の指導をする。
もっとも、王都近辺のことだ。出る魔獣も大した強さではなく、大きな危険はない。
それでも、多くの学生にとっては初めての体験で、自炊、テント設営、魔獣討伐など、不安しかないらしい。
「まず野外実習だな。学生会は担当の先生たちと一緒に引率側に入るが、今年は1年が3人か。お前たち、野外の経験は?」
「僕はスタンリーの領で、騎士団と魔獣の間引きをやってましたので大丈夫です」
へえ、ケビンもそんなことやってたんだ。
「僕は王都から出たことは一度もありません」
イアンは典型的な王都貴族だった。
会長が俺を見る。
「何度も経験してます」
「まあお前は大丈夫そうだな。あの威圧だ。しかし、シェフィールドは平和だろう。どこで力をつけた?」
「主にランカスターとダンジョンで」
「ダンジョン?どこの?」
「レクシャールです」
「何階まで行った?」
「30階です」
「何だと!」
メンバーが一斉に騒つく。
「誰と行った?編成は?」
「ランカスターの友人と二人で」
「!」
メンバーたちは口々に、嘘だろう、とかマジか、などとつぶやいている。イアン以外は。
イアンが面白そうに聞いてきた。
「一緒に行ったのはエドワード・プライス様?」
「正解」
会長がどういうことだと聞くので、イアンがシェフィールドのスタンピードの話をした。
皆言葉も出ない。普通信じられないよね。それに、あのときはトーダに助けてもらったし。
そのとき部屋の入口近くから声がした。
「へえ、君が噂のユーキ・シェフィールド君か」
しばらく前から気配を消してドアの側にいた人だ。
皆が振り向くと、そこには緩くウェーブのかかった金髪に青い目の可愛い系イケメンがにこやかに壁にもたれて立っていた。あれ、イアンが目を見開いて驚いている。どうした?
「スティング、来てたんならこっちに座れ」
会長が苦々しげに言う。
スティング?スラングだと騙すという感じの意味だが・・・。
「スティング・ファウラーだ。よろしくね。と言ってもイアンがいるんじゃバレバレか」と、金髪君が言うと、イアンがサッと立ち上がり頭を下げた。おい、誰だよ。ケビンもわからないようだ。会長が察して教えてくれる。
「こちらはリッキー・アルタイル殿下だ。学院ではスティング・ファウラーで通されている」
第三王子か!俺とケビンが慌てて立ちあがろうとするのをリッキー殿下が手で押さえる。
「そういうのいいから。ここではスティング・ファウラー、そこんとこよろしく。イアンも座ってくれない?」
思わぬところで第三王子の出現!驚くなという方が無理だ。
しかし、馬鹿王子と同い年だったのか。確かにこの人なら馬鹿王子が相手でも問題ないか。
「それで、スティングはユーキを知ってたのか?」
おう、会長すげぇ。もう切り替えたよ。
「王宮でかなり噂だったからね」
「スタンピードの噂は聞いていたが、まさかそんな大きなやつだったとは・・・」
それからスタンピードの話しを聞かれたが、適当に誤魔化しておいた。
結局野外実習に関しては、俺とケビンはクラスには参加せず、学生会として働くことになった。
イアンおぼっちゃまは、野外生活を堪能するがいいと思っていたら、本人が学生会として働かせてくれと願い出た。大した危険もない野外なので、それでいいだろうと承認された。
また、毎年、護衛兼野外生活指導を冒険者に依頼しているとのことだが、ギルドとの調整は俺がやることになった。現役のAランク冒険者だからね。王都のギルドに顔効かないけど。
学生会の顔合わせが終わり、帰りにカフェでリッキー殿下とお茶を飲んだ。
リッキー殿下は学院に入るまでの子供時代、その多くの時間を母親の実家であるファウラー侯爵家で過ごしたらしい。それで、同年代にほとんど顔を知られていなかった。
同学年に二人の王子がいると、派閥ができたり、何かとトラブルの種になりかねないとの王家の配慮から、リッキー殿下が偽名で入学したらしい。リッキー殿下に王位を争う意思はなく、女の子と楽しく過ごせればそれでいいそうだ。確かにチャラそうだが嘘だな。結構強いよ、この人。
トーダに確認したが、悪意は感じないとのこと。こちらの殿下とは上手くやれそうだ。




